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アダストリア木村社長の人材育成術 「みんな社長を経験するべき」

 「社員みんなに、自分でジャッジするという経験をさせたい」「失敗もたくさんするべき」。アダストリア木村治社長はそう語る。社長就任から1年が経過し、5月26日には代表取締役に就いた。オーナーである福田三千男会長も引き続き代表権を持ち、他の取締役3人を含めたチーム経営に手応えを得ている。後進育成はオーナー企業にとって共通の課題であり、同社もかつては短期で社長交代を繰り返し、福田会長が陣頭指揮に復帰するという経緯もあった。苦い経験を経て、経営層にも社員にも次世代リーダーが育っているアダストリア。木村社長に、人材育成の秘訣や今後のビジョンを聞いた。

――コロナ禍での社長交代だったが、業績も回復し、チーム経営で成果を出している。経営する上で重視していることは。

木村治社長(以下、木村):経営ができる人を増やしたいと思っている。どんな人も社長を一度やってみた方がいいし、自分でジャッジをするという経験をしてみてほしい。それは、僕自身がかつて自分のお金で会社を経営していたからこそ思うこと※1。自分がトリニティアーツの社長だった時代を振り返って、「あのときこうだったらよかったのに」と思うことを、子会社の社長に今経験させている。自分でジャッジしていないと、たとえ失敗しても責任を感じない。失敗を経験させることが次世代の経営者を育てる上では大切だ。

※1:木村社長は1990年に福田屋洋服店(現アダストリア)に入社し、2001年に一度退社、福岡市で自身の会社ワークデザインを設立している。07年にワークデザインはドロップと経営統合し、これが後にアダストリアに合併されるトリニティアーツになった

――EC専業ブランドを手掛けて好調な子会社BUZZWITは、子ども服のECブランドを運営するオープンアンドナチュラルを子会社化し(アダストリアにとっては孫会社化)、5月から連結に加えている。この判断も子会社経営陣にさせたのか。

木村:子会社の経営がうまく回り、利益が出ていてキャッシュがある。これをどう使うかとなったとき、全て親会社であるアダストリアが吸い上げるという手法もあり得るだろう。ただ、会長の福田は「お前たちはどう会社を成長させたいのか」とBUZZWITの社長や経営陣に聞いている。M&Aをするという決断は子会社社長一人ではなかなかできるものではないだろうが、BUZZWITを一気に育てるなら、M&Aもいいんじゃないかと福田が背中を押しした。福田は「人を育てたい」という思いが人一倍強い。僕自身もそうやって福田に育てられた。

――M&Aは、26年2月期を最終年度とする新中期経営計画の柱の1つにも据えている。

木村:今までM&Aをしてきた中には失敗もあったが、当社は成功している例(アリシアやバビロンなど)も多い。M&Aによって人材交流が進み、新しい知見が入ってきたことがうまく作用している。(今後M&Aを進めていく中で)アパレルという垣根は関係ない。ポイントとトリニティアーツが一緒になったときに、既に「アパレルだけでなくライフスタイル雑貨も手掛ける」ということになっていた。当社のコーポレートスローガンである“Play Fashion!”のファッションは、(字義通りのファッションではなく)さまざまな楽しいことを指す言葉。M&Aによって2月に連結子会社化した飲食業のゼットンは(カフェなどを軸にした)公園再生事業にも取り組んでいる。その中で、将来のさまざまな可能性のために温泉やサウナの企画・設計などを先日定款に加えて一部で報道もされたが、現時点で何か計画があるというわけではない。

――ゼットンのM&Aでは、具体的にどんなシナジーを想定しているのか。

木村:(M&Aの対象として)飲食業はいくつも候補があった。その中で、ハワイアンカフェ「アロハテーブル」などを運営するゼットンが最もアダストリアと親和性があると判断した。ゼットンはまだECが手付かずのため、そこは純粋に売り上げにプラスオンとなるはずだ。「アロハテーブル」のロコモコ丼を宅配で届ける仕組みなどを設計したい。ただし、ゼットンは名古屋や東京にしかまだ店舗がない。実店舗とECが生む相乗効果がアダストリアの強みであり、ゼットンも今後実店舗出店とECの2軸で成長させていく。ゼットンと「スタッフボード」※2を絡めても面白いだろう。

※2:アダストリアの自社ECモール「ドットエスティ」内にある、販売員の着こなし共有コンテンツ

――自社ECモール「ドットエスティ(.st)」を他社にも開放するなど、業界のプラットフォームといったあり方を目指して進んでいる印象だ。

木村:「ドットエスティ」のオープン化はまだテスト段階だが、業界の共通課題については、僕らの世代の経営者はなるべくシェアして解決していくべきだと思っている。そうでなければ業界として持続可能ではない。例えば、物流もECも各社の共通課題だ。ECはシステムを構築するのに莫大な費用がかかるが、「本当にうちの会社だけでこの負担のもと構築するべきなのか」「業界でまとまって、シェアしながら作っていくべきではないのか」といったことを考える。なるべく業界内の横のつながりで、課題をシェアできるようなあり方を考えていきたい。業界内でM&Aも始まっているが、それがグループ化にもつながる。まずはECを台風の目として、こうしたシェアの動きが広がるのではないかと見ている。どことどう組むかは重要だ。(グループ化が始まったとき)僕たちはリーディングカンパニーでありたいし、業界全体として、ファッションビジネスの社会的地位を上げていく必要性がある。

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