ファッション

アライアCEOが語る 「“宝”を引き継ぐことは誰だって怖い。だけど恐れず前に進むとき」

 「アライア(ALAIA)」は“、ファッション界の宝”という表現がふさわしいブランドのひとつだろう。多くの人から慕われ、尊敬されたデザイナー、アズディン・アライア(Azzdine Alaia)が亡き後の「アライア」のビジネスがパンデミックを経て本格的に動き出した。5月には日本初の直営店を東京のギンザシックス(GINZA SIX)にオープン。来日したミリアム・セラーノ(Myriam Serrano)アライア最高経営責任者(CEO)にそのビジョンを聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):あなたがコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT以下、リシュモン)傘下であるアライアのCEOに就任した6ヶ月後にパンデミックが始まりました。この2年間をどのように過ごしましたか。

ミリアム・セラーノ=アライア最高経営責任者(以下、ミリアム):店舗が営業できなかった時期は、オンラインビジネスも大きくなかったので、それこそ本当にビジネスがいったん閉じました。外か見ると静寂に見えたでしょうが、ブランドの中は実に活発でした。毎日遅くまでオンラインで会議を重ね、皆から次々投げかけられる多くの質問に答えて議論をする。ブティックでどう対応すればいいのか、ブランドはどうしたら続けることができるのか?マスクの提供はどのようにするのか?などなど。

 そして、ブランドのルーツを理解することに時間をかけ、コレクションを再編成しました。結果的にコレクションは年4回から2回へ縮小し、その分より精度の高いものに。これはパンデミックがなかったら難しかったかもしれません。

WWD:スタッフは何人いますか?

ミリアム:140人です。小さな会社ですが、大きなひとつの家族になりつつあります。

WWD:故アズディン・アライアは生前、モデルを始め多く人たちから「私たちのパパ」と呼ばれ家族のように慕われていました。

ミリアム:私は彼が残した、「アライア」という名前の “ファミリー”が大好きです。彼はもういませんが、会社には彼と長年過ごしてきた人が大勢いてたくさんのことを私に教えてくれます。互いを尊重し信頼する “ファミリー”であることはとても重要。この存在を大切にして、新しいメンバーを加えることで新しいエメルギーを統合し、新しい価値観を作ってゆきたい。何ごとにおいても高いレベルを求めるブランドだからとても難しいですけどね。

WWD:「アライア」というブランドの強みをどう解釈していますか?

ミリアム:強みはある意味、ファッションを超えた存在であること。アズディンは芸術家であり、女性の体を彫刻のようにとらえ昇華しました。流行を超えた「美」そのものを生み出しファッションと融合していた。だから時代を超越し、流行遅れにならないのです。本当に強いブランドですが、攻撃的なブランドではありません。女性を美しくすること、そのための強さです。「アライア」を愛用している女性を見るとわかりますが、彼女たちは教養があり、自立した女性です。

 もうひとつの強みは、完璧なカッティングと、素材と生産のクオリティの高さです。品質はとても重要です。バッグと靴は、すべてイタリアとフランスで作っています。イタリアでの生産は1980年代初めから40年以上、同じ会社と組んでおり、当時18歳だった工場のオーナーには今では4人の子どもがいて、彼らも仕事を手伝っている。まさにファミリーです。

WWD:2022年春夏コレクションからは、ピーター・ミュリエ(Pieter Mulier)が新クリエイティブ・ディレクターに就任しました。ピーターの仕事をどう評価していますか?

ミリアム:ピーターはメゾンを内側から深く理解しています。彼はアズディン時代の「アライア」のヴィンテージ・コレクターであり、アートが大好き。優秀な技術者であり、キャリアが豊富でグローバルな視点を持っています。そして、女性に対するイメージやメッセージに独自の興味深い見解を持っています。課題は、ルーツを重んじ、最高のレベルを保ちながら新しいものを提供し続けることであり、それは関わる私たち全員の課題です。正しい方法でスタートを切れたと思いますが、継続が大切です。

WWD:就任にあたってピーターに出したリクエストは?

ミリアム:リクエストというより「恐れないで」と伝えました。「アライア」はファッション界の宝。これを引き継ぐことは誰だって、正直怖い。それだけの価値と責任があるものだから。ピーターはそのことを十分にわかっていました。だから十分議論をした後に「敬意を持って、そして怖がらないで。私たちは前に進まなければならないから」と伝えました。今は勤勉で自分に厳しい彼のビジョンを尊重し、前に進むときです。

WWD:今後のビジネス戦略は?

ミリアム:ブランドの認知度をあげること。そのためにより多くの人にオープンに語りかけること。特に若い世代に向けて私たちのアイデアを知ってもらう必要があります。ギンザシックスに直営店を開いた理由もそこにあります。ピーターによるコンセプトを反映した世界初のブティックで、ストアデザインは建築家のソフィー・ヒックス(Sophie Hicks)が手掛けています。日本には長年良好な関係にある顧客がたくさんいます。新しい「アライア」を紹介するには絶好のタイミングでした。今年はニューヨークと中国にも直営店を開く予定です。2年後にはパリで大きなプロジェクトを計画しています。

WWD:あなた自身のキャリアについて教えてください。「セリーヌ(CELINE)」や「ニナ リッチ(NINA RICCI)」「クロエ(CHLOE)」で経験から得たことは?

ミリアム:コレクション制作の各工程に関わり、デザインから生産、コミュニケーションといった一連の流れとその複雑さを理解したことは財産になっています。技術と同じくらいスケジュール通りに進めることも重要。ビジネスを理解しビジョンを持つことと同じくらい、関わる多くの人たちと強い絆を築くことも重要といった具合にね。コミュニケーション・ディレクターとしてはグローバルブランドの視点を学びました。

WWD:アクセサリー分野でのキャリアが豊富ですがアクセサリービジネスで成功する秘訣とは?そしてそれを「アライア」でどう生かす?

ミリアム:アクセサリーで成功するためにはまず、自分のブランドと他のブランドの違いを理解すること。ブランドロゴなのか、何かしらのコードなのか、ブランドの強みを理解し、そのエッセンスをアクセサリーに取り入れます。「アライア」の場合は「シルエット」です。一目で違いがわかる独特なシルエットであることが大切です。そしてそれをお客さんが認知してくれるまで継続すること。ファッションビジネスは、コレクションを発表するとすぐ次へと意識が向かいがち。喝采を受けたコレクションでも最初の反応に甘んじることなく、繰り返し伝えることが大切です。

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