アシックスの廣田康人社長は「(主力の)ランニングシューズでかなり巻き返すことができた」と話す。日・米・欧でそれぞれシェア1位をめざす「Cプロジェクト」を推進。厚底シューズで主要レースの表彰台を独占するナイキに差をつけられてきたが、昨年春に発表した戦略商品“メタスピード(METASPEED)”で反転攻勢に出た。このシューズを履いた契約ランナーの自己記録更新と上位入賞の報告が各国から相次いでいるのだ。
2020年に始まったCプロジェクトは創業者・鬼塚喜八郎がかつて推進した「頂上作戦」にちなむ。社長直轄のプロジェクトチームに研究開発、選手サポート、法務・知財、生産、マーケティング、営業などの精鋭スタッフを集めた。組織のタテ割りを廃することで意思決定のスピードを上げ、集中的な投資で数多くの一流選手との契約を勝ち取った。
成果は21年12月期業績にもあらわれる。上位モデルがけん引する形で、主力のパフォーマンスランニング部門の売上高は同31.0%増の2082億円。コロナ前の19年12月期と比較しても2割増になった。廣田社長は「コロナ下で健康への関心が高まり、安心して楽しめるランニングやウォーキングの人口が世界的に増えている。当社の強みを生かせる」と自信を深める。
最新モデル“メタスピード プラス(METASPEED +)”を6月中旬に発売するのに合わせ、リアルでの草の根活動を再開する。5000mのタイムを競う大会を全国6地区とバーチャルで順次開催する。上位入賞者は9月に東京で行われる決勝大会に出場する。ランナーに走る楽しさを久々に体感してもらう場を作る。
廣田社長自身も50歳を過ぎてからマラソンを始めた。三菱商事時代の07年、第1回東京マラソンの市民ランナーの姿に触発されてスポーツ用品店に入った。勧められたのが「アシックス」のシューズだった。以後、トレーニングを続けて、17年の大阪マラソンで3時間53分の自己記録を達成。翌18年4月には、アシックスの社長に就任した。ランナーとしても自社製品を履き、厳しくチェックする。4月には高橋尚子杯ぎふ清流ハーフマラソン(岐阜県)に出場した。久しぶりの実戦を1時間55分のタイムで走った。