ファッション&ビューティや百貨店などの業界は、昔から女性が活躍してきた業種だ。残念ながら、大手企業の経営層となるとまだまだ男性ばかりという点は否めないが、他業界に比べて女性が活躍しやすいと言われることは多い。女性やマイノリティーの働き方において、われわれの業界は他業界のお手本になれる存在だと言える。そんなファッション&ビューティ業界内で、「あの会社は生き生きと働いている女性社員が多い」といった声が上がる企業の一つが大丸松坂屋百貨店。同社執行役員である松原亜希子・大丸東京店長に、女性活躍や個々の社員の力を生かすために心掛けていることを聞いた。
WWD:松原店長から見て、大丸松坂屋百貨店における女性活躍の達成度は何%か。
松原亜希子・大丸松坂屋百貨店執行役員大丸東京店長(以下、松原):将来への期待も込めて40%だ。百貨店業界全体は30%ほどと思う。何をもって女性が活躍している職場とするかは難しいが、大丸東京店(以下、東京店)の課長・部長級の女性管理職比率は2022年3月で32%。他店舗や他社と比べても東京店は先進性が高い。ただし、今は管理職を目指さず、自分らしい活躍の仕方を模索する人も増えている。そういった切り口で見ても、東京店では「この分野ならこの人」といった女性が徐々に増えていることに手応えを感じている。
5月15日に、「プルミエ・クリュ」というワインショップを東京店12階のレストランフロアに開いた。手掛けている西野京子バイヤーは、長らく酒やチーズ、バレンタインチョコレートの名物催事を担当してきた人物。彼女が長年温めてきたワインショップのアイデアを担当の部長が耳にして、「それ、面白いからやってみよう」と背中を押して形になった。そんなふうに、少しずつ社員のチャレンジが可視化されてきている。(管理職としてただ上を目指すのではなく)自分らしさを発揮して働く西野のような存在が身近にいることは、他の社員にとっても刺激になる。大丸松坂屋百貨店は今、“ヒューマンメディアカンパニー”というあり方を目指している。面談だけでなく、日常のやり取りの中からも社員一人一人のやりたいことを上司が見出し、「やってみない?」と声を掛ける。そういう企業風土を強めていきたい。
WWD:育児などにも追われる女性が、なかなか管理職になりたがらないという話は昔からある。
松原:個々人で考え方は異なるため、一律に何かを言うことはできない。ただ、「組織の中で上を目指すことだけが輝くあり方ではない」と明確に口に出す人が増えてきたことは、非常に今っぽいなと感じる。(管理職を目指すのではなく)自身の能力を発揮できる分野でしっかり責任を持って働きたいという考え方は、男女問わず今後さらに増えるだろう。われわれバブル世代はギラギラしていて、「偉くなっていつかは社長に」という人も多かったが、今は100人100様の時代。コロナで価値観も大きく変わった。(会社が全てというのではなく)幸せに生きるための道の中に、たまたまこの会社があるといったような考え方だ。みんな自分の心に素直になってきているのだと思う。
WWD:大丸松坂屋百貨店の女性活躍達成度は40%とのことだが、残りの60%にはどんな課題を見ているのか。
松原:組織の中で上を目指したい人と、そうではない人に分けて考える必要がある。前者については、小さくてもいいから経験を積ませて、チャンスを渡していく。後者については、本人の意思ややりたいことを聞き出して、形になるよう後押ししていく。どちらについても、自らはなかなか口に出せない人もいるので、上司がその芽を見つけて育ててみる。その飽くなき繰り返しが大切だ。
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