ファッション

篠原ともえが語るサステナブルとADC賞2冠の舞台裏 「自分の心が動くところに飛び込みたい」

 篠原ともえがデザインを手がけた革の着物作品“ザ レザー スクラップ キモノ(THE LEATHER SCRAP KIMONO)”が、第101回ニューヨークADC賞(THE ADC ANNUAL AWARDS)にてブランド/コミュニケーション・デザイン部門とファッションデザイン部門で二冠を達成した。作品は、革の品質や職人の技術を次の世代に伝える活動をしている、日本タンナーズ協会とのプロジェクトで制作したもので、森林被害防止のために捕獲されたエゾ鹿の革の端を使っている。篠原は、2020年に夫でアートディレクターの池澤樹とクリエイティブスタジオ・STUDEO(ストゥディオ)を立ち上げて以来、持続可能なものづくりを続けてきた。今回は篠原に“ザ レザー スクラップ キモノ”の制作の裏側や、持続可能なものづくりに対する考えを聞いた。

着物は日本に昔から備わっている“持続可能な美しさ”

WWD:ADC賞を受賞した“ザ レザー スクラップ キモノ”の制作に至った経緯は?

篠原ともえ(以下、篠原):日本タンナーズ協会(以下、協会)が革の魅力を発信するPR活動のために、私にオファーをくださったのが始まりでした。ただ、最初は私がインフルエンサーとして工場に出向いて、その内部をリポートするという企画だったんです。

でも、紹介するだけでは職人さんの技術や何代も続いてきた工場の歴史は伝わらない気がしたし、革というテーマには社会的なメッセージになる要素も含まれているんじゃないかと。そこで、力強いアートピースを作って革の魅力を伝えていく企画に変えようと提案しました。この企画は、説得から始まったんです。

WWD:着物という形に辿り着いたのはなぜ?

篠原:実は協会と一緒に作るのは今回で2回目です。1回目に作ったのは金属アレルギーの方もつけることができる“レザーメイドジュエリー”という革のアクセサリー。その時も手応えがあってニューヨークADC 賞にエントリーしたけれど、入賞にとどまりました。でも、協会が私のアプローチをすごく喜んでくれて、2回目はもっと大きいことをしようと着物を提案しました。

着物は究極の持続可能なファッションです。一反12mで37、8cmの端に襟も身ごろもお袖も全て入れて、余りが出たら職人さんの名前を綴って届ける……私はそのプロセスに感動を覚えて。日本人の生活の中に昔から備わっている“持続可能な美しさ”に気づいてもらいたかったのもあって、着物を選びました。

WWD:制作の中で苦労したことは?

篠原:私たちが作ろうとしていたのは、見たことがない景色でした。革の端を使って水墨画のようなグラデーションを表現しようとしていたので、見本にできるものがなかった。なので、ひと目で美しく見えるレベルに仕上げるのには苦労しましたね。絶妙な濃淡の差でグラデーションを作るとなると、実際に当ててみないと見え方が分からないので、革の端を1枚ずつスキャンしてコンピューター上でシミュレーションをしたのですが、その下絵を作るのに3ヶ月を費やしました。私も図書館で水墨画の資料を集めて、心が動くグラデーションとはどんなものなのか、じっくり考えましたね。

また今回、革が生き物であることを再確認しました。染色した革の仕上がりを見て薄いと感じていても、しばらく時間をおくと革の素材が色に対応してオリジナルの色になる。それゆえに赤みが出てしまうこともあって苦労したけれど、色も職人さんと相談を重ねながら、青みのある黒を作っていきました。

WWD:職人とのコミュニケーションで印象的だったことは?

篠原:今回、イメージに近い染色をできる人が一人だけいることで、すでに定年退職した職人さんに特別に参加してもらったんです。彼がとても楽しそうに仕事をされていたのが印象的でした。娘さんが「お父さん、定年退職したのにまた働くんだね」ってお弁当を作ってくれたと嬉しそうに話してくれたりして。

その後、この作品をきっかけに彼の染めの技術を引き継ぐ動きが生まれたと知って、胸がいっぱいになりました。デザイナーが伝統の橋渡しをできる仕事だと分かり、改めて自分の責務を実感しましたね。

WWD:“ザ レザー スクラップ キモノ”は映像や写真も魅力的だった。

篠原:あれは池澤の得意分野ですね。池澤はアートディレクターだから、どう届けたら世の人の心に響き渡るのか見えている。なので、すごく細かくディレクションしていましたね。チームでは“池澤塾”なんて呼んでいます(笑)。会社名のSTUDEOは“study”の語源になっている“学ぶ”という意味の言葉。毎日チームで学んでぶつかり合いながら、いいものができると信じてやっています。

WWD:昨今は、革が悪者のように語られることもある。篠原さんは革とどう付き合っていきたい?

篠原:今回の制作はレザーがどのような工程を経て私たちの元に届いているのかを知るところから始まりました。そこで、協会がジビエとして食用にしていた動物たちの皮を有効活用していることを知ったんです。私はこれまで背景を知らなかったので、革の製品を使うことに罪悪感があった。でも背景を知ると、余すことなく使い切ろうという考えになるのは、自然なことだと思いました。もちろん、最近注目されているキノコレザーやビーガンレザーも素晴らしいアイデアです。大切なのは、新しいことを知った上で、自分で考えて選択すること。SDGsは自分で選んでいいんです。私は天然皮革のジャケットにビーガンレザーのバッグも合わせますよ。


Movie director: Mitsuo Abe ©︎TANNERS’ COUNCIL OF JAPAN

「背景を知るとアイデアが湧いてくる」

WWD:篠原さんは“レザー スクラップ キモノ”以前にも環境に配慮したものづくりをしている。最初に環境問題に関心を持ったきっかけは?

篠原:2020年にSTUDEOを立ち上げた時、自分のものづくりと改めて向き合いました。そのタイミングでSDGsや持続可能なものづくりに関する話題を多く目にするようになったんです。私はこの問題を無視して作る人にはなりたくないし、全部はできなくても心が揺れるところにまっすぐに飛び込みたいと思った。そこで、最初は四角い生地からパターンを作って余すことなく使い切ることを考えました。

WWD:その後、星野リゾートの「OMO7(おもせぶん)大阪 by 星野リゾート」の制服のデザインでは、過剰生産を避けるために男女合わせて4サイズに絞るなど、環境に配慮したものづくりを続けきた。そのなかで変化したことは?

篠原:コロナ禍の影響もあって、ものづくりの重みを改めて感じています。簡単に何でも作ることはせず、作るからには問題の背景をリサーチするところから始めるようになりました。

背景を知っていくとアイデアが湧いてくるんです。例えば廃棄を少しでも少なくするために、一枚の布からパターンをおこす時に80%くらい使えるように埋めていく必要があると知ったら、さらに頑張って90%使えるようにやってみようとか。だから考えるだけじゃなくて、当ててみる。今回の革の着物も背景を学んで革の端を観察していたら山に見えてきたところからアイデアが生まれたから、知って動いて、ダメならまた考えての繰り返しが大切ですね。

WWD:今後、デザイナーとしてどんな挑戦をしていきたい?

篠原:ファッションのオファーが多いですが、実はファッションから派生したいろんな形を作ってみたいんです。コスメなどのプロダクトデザインや空間デザイン、あとテキスタイルも好きなのでスポーツウエアも作りたい。職人さんとまた何か作るのもいいし、企業ブランディングとロゴデザインもやりたい。やりたいことが本当に多いので、書ける範囲で書いてください(笑)。

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