ファッション

2023年春夏メンズコレ取材24時 「フェンディ」「ドルチェ」などメゾンの強さを見たミラノ1日目

 2023年春夏コレクションサーキットが本格開幕。まずは各都市のメンズからスタートしています。日本から渡航する関係者は多くないものの、「WWDJAPAN」は今季も現地取材を敢行し、ほぼ1日取材態勢で現場から臨場感たっぷりの情報をお届けします。担当するのは、大塚千践「WWDJAPAN」副編集長とパリ在住のライター井上エリの2人。まずは、気温が連日35度を超えるミラノ前半からリポートです。

17日 18:00 「ディースクエアード」

 いよいよミラノメンズがスタート。暑い。もう18時なのに、サマータイムで日差しもまだまだ強い。そんな中、ショーのトップバッターは「ディースクエアード(DSQUARED2)」です。会場は天井が高い巨大なスタジオで、ジャマイカのサーファースタイルをテーマにしたコレクションを披露しました。クロシェ編みやラスタカラー、ボブ・マーリー(Bob Marley)のプリント、タイダイやチェックを、ラフにレイヤードします。ナイロンのマイクロショーツや、1970年代風のフレアデニムにはパッチワークやアップリケの装飾が付き、ボトムもサーファー風味。ミックススタイルはいつもより控えめで複雑ながら、男性像は一貫しているので、分かりやすい面白さがありました。と、思ったらバイクの「ホンダ(HONDA)」とのコラボレーションアイテムが登場するという突然の変化球。まあ、サーフィンもバイクも、どっちも乗り物ということで。

19:00 「1017 アリックス 9SM」

 広いスケールでのランウエイショーを好む「1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM)」のマシュー・ウィリアムズ(Matthew M. Williams)は今季、街の外れにあるプールサイドをショー会場にしました。「ディースクエアード」の会場から離れていたこともあり、ショーは1時間遅れでスタート。待っている間に強い西日と暑さに晒されてぼ~っとしていた頭が、いい意味でブランドの全盛期のスタイルを取り戻した今季のコレクションを見て、すっきり冴えました。

 スリーブを切りっぱなしにしたコートやジャケット、テクニカル素材やツヤやかなシルクのカーゴパンツ、ラインはシャープでストリート寄りのモードな雰囲気です。ラバーのトリムや止水ファスナー、そして数シーズン封印していたバックルはキャップの背面の留め具として登場し、「1017 アリックス 9SM」らしいインドストリアルな要素を盛り込んでいました。そして新鮮だったのは、ジーンズが登場したこと。ワイドからリラックスシルエットのジーンズが男女で共有され、Y2Kのトレンドが続いてることを示唆するローライズのスタイルです。このジーンズと、流線形のスニーカーはマシューがクリエイティブ・ディレクターを務める「ジバンシィ(GIVENCHY)」を彷彿とさせましたが、自身のブランドである「1017 アリックス 9SM」の方がよりモードでコレクションもすっきりまとまって見えます。会場のスタンディングには、バックルの付いた洋服をまとったストリートキッズがたくさん詰め掛けていて、まだまだ固定のファンがいることを物語っていました。

20:00 「ファミリー ファースト」

 初日最後は、ミラノ発のブランド「ファミリー ファースト(FAMILY FIRST)」へ。日本人はほぼ誰もおらず、こういう状況だと逆に燃えます。観客も前の会場とは全く異なり、肌見せ全開のインフルエンサーやシャツのボタンどんだけ開けるのっていう“イケオジ”、近所にいそうなおばちゃんらが並ぶダイバーシティ。コレクションは、ワイドフィットのテーラリングとストリートを融合させた、メンズ主流のスタイル。アートとの融合をテーマに掲げており、シルクのパジャマ風セッットアップやワークウエアのスーツには、大胆なイラストをプリントします。ん?何かどっかで見たことあるピースばかりだなと思ってしまったのはさておき、元気だけはよかったです。

18日 9:30 「ブリオーニ」

 2日目の朝は「ブリオーニ(BRIONI)」のプレゼンテーションでスタートです。ミラノで2番目に古い教会、サン・シンプリチャーノ大聖堂に面する大きな回廊でコレクションを披露しました。テーマは“永遠の美しさ”で、柔らかな仕立てのテーラリングが軸となります。シルク、シアサッカー、ウールやリネンと超軽量なテーラードを、薄手のニットカーディガンやパジャマ風セットアップとスタイリング。アースカラーやコニャックブラウンの優しいカラートーンで構成されており、ファーマルな中にリラックした空気感を取り込んでサルトリアを日常着として軽やかに提案します。クロコダイルのジャケットでさえも、堅苦しくないエフォートレスなムード。時折差し込まれたオレンジやピンクのビビッドカラーがアクセントとしてコレクションを華やげます。

 会場では、2018年よりデザイン・ディレクターを務めるノルベルト・スタンフルさん(Norbert Stumpfl)と話すことができました。オーストリア出身のノルベルトさんは、「イタリア出身ではない僕だからこそ、『ブリオーニ』のルーツである“ローマの美”を新鮮な方法で浸透させることができると思うんです。特に今季は、完璧でありながら主張しすぎない、ノンシャランな着こなしにフォーカスしました。クラフトマンシップが光る上質な生地を使ったテーラリングで、永遠の美しさを表現しています」と語ってくれました。カゼルタ宮殿御用達のセティフィチオ・レウチアーノ(Setificio Leuciano)により伝統的な織機で織られたシルクジャガードを筆頭に、彼は地方の工房を巡ってイタリアの伝統工芸である生地を積極的に取り入れてるといいます。贅を尽くした柔らかなテーラリングと、会場となった庭園に住む野生の亀に癒されたところで、次のショー会場へと向かいました。

10:30「MSGM」

 元気いっぱい柄いっぱいなアーバンリゾートミックス。テーラリングやトロピカル、カウボーイ、スポーツ、スクールなどを、若さ溢れるフレッシュなムードでハイブリッドさせ、クロップ丈のトップスやハイソックスといったトレンドも随所に取り入れました。都会的なジャケットとショーツのセットアップには、トロピカル柄を盛り込んでリゾートムード。フリースに描いたかわいいワニとイルカ柄は、ポジティブとバイタリティを象徴しているのだとか。大きなビルの中にある池の前をランウエイにし、ロケーションでも都会と自然の融合。ビル風が強くて、テンガロンハットが吹き飛ぶハプニングがありながらも、朝一番のショーにふさわしい爽やかさが気持ちよかった。

11:30 「エンポリーオ アルマーニ」

 “バスケットいっぱいの夏”がテーマの「エンポリーオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)」のコレクションは、夏の高揚感が上質な生地に織り交ぜられたような内容です。全体に共通するのは軽量感!緩やかなシルエットの同素材で作られたセットアップで始まり、オーバーサイズのショートスリーブのシャツ、スリットを入れたことで軽快に揺れるパンツの裾、テーラードも柔らかなシェイプで、どこを見ても軽やかさが演出されています。加えて、マイクロミニのショーツとオーバーオール、マクラメ編みの薄手のニットやジャケットの下から覗く艶かしい素肌が、軽やかな洋服とともにさり気ない色気を漂わせていました。インナーなしでジャケットを羽織っちゃう大胆さ、まさに夏のオープンな空気を表しているようです。

 カラーはネイビーからスカイブルー、サンドベージュにライムグリーンへと変化し、生き生きとした自然の色合いがそろいました。大きなつばのハットとスポーティなキャップ、ゆるく巻いた首元のスカーフやラバー製サボといったアクセサリーで、都会とリゾートの両方で装うことの純粋な喜びを伝えてくれます。最後に、レゲエのリズムに合わせて躍動的なダンスを披露したパフォーマーが登場!フィナーレではジョルジオ・アルマーニさん(Giorgio Armani)が穏やかな笑顔で観客の拍手に応え、エネルギッシュなコレクションと元気な姿のアルマーニさんに力を分け与えてもらえたような気分になり、会場を後にしました。

12:30 「ドルチェ&ガッバーナ」

 次は、「呪術廻戦」とのコラボも記憶に新しい「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」です。ショー前に届いたインビテーションには、“RE-EDTION 2023”というテーマと、1991〜2006年春夏の数字が書いていました。コレクションはテーマの通り、アーカイブを振り返り、現代的に解釈して再構築した89のスタイル。現代に合わせてフィットを変えているアイテムもあれば、当時のものをほぼそのまま再現しているピースもあるそうです。クリエイションも持続可能性ってことですね。正真正銘のリアルY2Kなのですが、一時期のミレニアルズに向けたクリエイションからは完全に脱却したようです。

 アイテムには“RE-EDTION”というタグが付き、その素材を初めて発表した年が刻まれています。サルトリア仕立ての美しいジャケットに激しい加工を施したジーンズを合わせるスタイルは、雑誌だけでしか見たことのなかった「ドルチェ&ガッバーナ」のスタイルを思い出しました。あ!と思ったのは、04年春夏コレクションのデヴィッド・ベッカム(David Beckham)をモチーフにしたTシャツが登場したとき。当時、めっちゃ欲しかったやつ!ほかにも、コットンのフィッシュネットニットやパッチワークでクラフトを感じさせる一方で、ギラッとしたクロスモチーフやスキニーなタキシードといった艶っぽさもあり、当時を知ってる人も知らない人も、ベストアルバムを聴いているような安心感と再発見があったのではないでしょうか。

14:00 「フェンディ」

 全面スカイブルーに包まれた会場で「フェンディ(FENDI)」が披露したのは、豊かな自然風景から参照したアースカラーや動物のモチーフで彩った、雄大な大地を感じさせるコレクション。とはいえ、あくまで都会的な提案です。ステンカラーコートにレインコート、ウィンドブレーカーなどレジャーを感じさせるアウターは、ゆったり着られて肩の力がほど良く抜けたスタイル。リラックスしつつも、直線的なラインと装飾を削ぎ落としたシンプルなデザインで、フォーマルとカジュアルの絶妙な塩梅が今季特に魅力的に映ったポイントです。都会的な要素としてコレクションで重要な役割を果たしたテーラードもリラックスシルエットで、ショルダー部分の一部をカットアウトして、体の自由な動きを許容する構造になっているようです。モデルが前へ進むとテーラードはたおやかに揺れ、触れずとも生地の柔らかさと軽さが伝わってきます。

 「ディースクエアード」や「1017 アリックス 9SM」に登場したジーンズは、「フェンディ」も打ち出しました。ユーズド加工を施したローライズのワイドシルエットから切りっぱなしのショーツ、ランニングシューズとバケットハットにと全身デニム生地のルックもあります。スカイブルーの会場装飾にブルージーンズがよくなじんでいただけでなく、サファリルックとも好相性。サーモグラフィーのモチーフが描かれた豪華なジャカードコートやラムレザーの上品なツヤを放つジャケットも、ヒッピー風のジーンズで一気にカジュアルダウンされています。これらスタイリングとしての提案だけでなく、1960年代頃に若者の自由と反抗の象徴とされたジーンズの声なき社会的主張を、今の若者と重ね合わせて代弁しているのかと想像させます。足元は、デニム生地を一部用いた厚底のローファーやランニングシューズ、ウエスタン調なフリンジ付きのモカシンにスケータースニーカー、そして手には大きなボストンバッグやトートバッグで旅の準備が整っている様子。新たな冒険の旅へと出る、意欲的な夏のムードを「フェンディ」が後押ししてくれました。

16:00 「ジョーダンルカ」

 数年前のロンドンメンズで見た以来となる「ジョーダンルカ(JORDANLUCA)」。“サボタージュ”をテーマに掲げ、体を拘束するように身を包むアウターと、それらをファスナー使いで解放するかのような、緊張と緩和を縦長シルエットのストリートウエアで対比させます。「ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)」辺りが好きなんでしょう。ダークなカルチャーをバックグラウンドにしたクリエイションは、以前よりもパワーアップ。ジャケットの肩をパンパンに張らせたり、シャツの背中にアコーディオンの用にタックをたっぷり入れたり、二枚仕立てのパンツをカットして素材の奥行きで側面のラインを表現したりと、ディテールのギミックで勝負。一方で、“DEATH RACE”の文字や蜘蛛の巣など、モチーフはゴリっと世界観強め。まあ、悪くはないんですが、特に新しい提案もなし。このデザイナーデュオにしかできない強みをどう磨いていくのかが、今後の勝負を分けそうです。

17:00 「フェデリコ チーナ」

 新進ブランドの「フェデリコ チーナ(FEDERICO CINA)」は、公式スケジュールに参加して2度目となるランウエイショーを開催。今季も、デザイナーの故郷であるイタリア・ロマーニャを着想源とし、テーマはイタリア語で潮を意味する“サルセディン”です。コレクションノートによると、ビーチの潮の香りが幼少期を鮮明に思い起こさせるからだといいいます。淡い思い出に浸っているからか、かぎ編みやクロシェでざっくりと体を包み込むクラフト感の強いニットが満載で、サンドやエクリュといった優しいカラーで彼らしいほっこりとした世界観を表現しています。リネンの軽量なトラウザーや、スイムウエア風のコットン地のショーツ、ワイドシルエットのジーンズなど、どこまでもリラックスムード。やがて、夕焼けや青空のカラーへとルックが染まっていきます。今季は都会的な要素は薄く、自然の中で過ごすバケーションモードへ。シーズンによってディレクションが大きく切り替わるので、まだブランドのコンセプトをしっかり掴めずにいますが、自然の癒しを求める気持ちと開放的な気分には共感できました。

19:00 「マルセロ・ブロン カウンティ・オブ・ミラン」

 10周年を迎えた「マルセロ・ブロン カウンティ・オブ・ミラン(MARCELO BURLON COUNTY OF MILAN)」は、ブランドらしさをふんだんに盛り込んだ総集編。会場は、競輪やアメリカンフットボールの試合が行われる競技場でした。フィールドを囲むようにシートを配置し、中央にはブルーの巨大なオブジェが建ちます。壮大。スケーターファッションに着想したスタイルをはじめ、ワークとミリタリーのディテールやフォークロア調のパターン、フェザー柄やペイズリー、タイダイなどを、乗っけて乗っけて乗っけます。ストリートウエアとしてはベーシックですが、安定感がさすがです。イタリア発のスポーツブランド「カッパ(KAPPA)」とのコラボレーションも登場し、フットボールシャツやトラックスーツを披露しました。途中、ブルーのスエードのセットアップのモデルが登場すると、客席からの歓声が一段と湧き上がります。デザイナーの友人であるミュージシャンやスケーターが登場したのか、もしくはパートナーか。分かる、10周年だもん。と思っていたら、まさかの「モデル、俺」。デザイナー本人の登場で、アニバーサリーを盛り上げました。

20:00 「ヴェルサーチェ」

 ミラノの初日と2日目だけでも、いくつかのトレンドキーワードが見えてきました。ただ、「ヴェルサーチェ(VERSACE)」は唯我独尊。わが道を行くクリエイションが突き抜けていて、気持ちよかった。スクールストライプやパイソン柄、アイコンのメデューサなどを、フューシャピンクやイエロー、ゴールドといった強い色彩と組み合わせる大胆な提案。柄だけでなく、シルキータッチの素材から、ラバーのように肉厚のものまで、テキスタイルの表情も豊かです。なモデルたちのヘアもキラッキラのゴールドにコーティングしています。過去に立ち返った「ドルチェ&ガッバーナ」とは対照的だなと思っていたら、「ヴェルサーチェ」も実は過去にオマージュを捧げていました。創業者のジャン二・ヴェルサーチェ(Giovanni Versace)が1990年代に制作したプリントを復活させたり、2000年代初頭のロゴを復活させたり、レザーにダイヤモンド型に切り込みを入れたデザインを再登場させたり。さらに、登場したモデルの一部は、1990年代に同ブランドのモデルの二世なのだとか。過去の功績をただ振り返るのではなく、前に進む推進力に変えられるのは、歴史あるメゾンの強みですね。

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