2023年春夏コレクションサーキットが本格開幕。まずは各都市のメンズからスタートしています。日本から渡航する関係者は多くないものの、「WWDJAPAN」は今季も現地取材を敢行し、現場から臨場感たっぷりの情報をお届けします。担当するのは、大塚千践「WWDJAPAN」副編集長とパリ在住のライター井上エリの2人。今回は「プラダ(PRADA)」も登場するミラノ後半をリポートします。
20日 9:00「サントーニ」
本日も気温は35度まで上がる予報で、過酷なコンディションです。でも日差しが弱い朝は湿気が少なく超爽やか。そんな気持ちのいい天気には、「サントーニ(SANTONI)」のプレゼンテーションがぴったりでした。プレゼンテーション会場の庭園セナート ガーデンには、“旅”をテーマにしたきれいなブルーやグリーン、オレンジのシューズが並びます。グラデーションが美しいスニーカーも登場し、会場ではそのスニーカーを履いたモデルがスケートを楽しんでいました。ぜいたくですね。グラフィティーアーティストによるライブアートも実施していたものの、朝一番に訪れたため完成するまでは見られず。一体、どんな作品に仕上がったのでしょう。
10:00「マリアーノ」
「マリアーノ(MAGLIANO)」の今季のショー会場は、老朽化した建物です。座席は窓際に面したキャットウオークに向かって配置しており、窓の向こうから明るいライトを照らして逆光に見せるという演出。憂鬱な表情のモデルはキャットウオークの途中で気まぐれに立ち止まったり、そこから降りて自由に会場内を徘徊したりするなど、シュールな空気感。コレクションは「マリアーノ」らしい、レイヤードで魅せる、ゆるくてだらしない遊びの連続。ツヤやかなシルクにタオル地のような柔らかな生地、使い古されて色落ちしたデニムとテクスチャーも幅広く、ルックに深みを感じさせました。多彩なモデルのキャスティングも、等身大のリアルを表現することが目的なのでしょう。ブランドの世界観を具現化していて、素晴らしかったです。
11:00「サイモン クラッカー」
次は、イタリア・チェゼーナ出身のデザイナーが手掛ける「サイモン クラッカー(SIMON CRACKER)」のショー会場へ。初めて見ましたが、ブランドは10年以上続いている中堅です。コレクションは、パンクのアティチュードを表明するようなDIYのアプローチで、服を切り裂いたり、破ったり、パッチワークしたり。文字にすると激しく見えますが、実際は子どもの工作のように無邪気で自由なクリエイションでした。よく言えば童心に返るような、悪く言えば荒っぽさが目立つような。左右非対称なジャケットやサイドに大きくスリットが入ったパンツは商品化するイメージができたものの、ほとんどのアイテムが凝りすぎた一点物という感じで、作品に近いようなクリエイションでした。この破壊と再生のものづくりは、デザイナーが祖父からかけられた「物を捨てる前に、別の視点で見てみなさい」という言葉が大きいのだとか。
12:00 「エトロ」
「エトロ(ETRO)」の今季の招待状は、プロの俳優がゲストの一人ひとりに生電話を掛けて詩を暗唱するという斬新なもの。ドキドキしました。詩を出発点とした今季のテーマは、“詩が放つ野性的なパワー(The Wild Power of Poetry)”。そして会場はボッコーニ大学の緑広がる中庭です。待ってる間に「エトロ」仕様のソフトドリンクとフィンガーフードが、結局この日のランチになりました。多忙なスケジュールの日に提供される軽食はとっても助かります。
爽やかな風が吹き流れる中で披露したコレクションは、見るものの感性を優しく深く刺激します。ファーストルックを飾ったのは、透けるように繊細なシルクの生地が空中に浮遊する、フラワープリントを描いたカフタン。脚を露わにするショーツに素肌に重ねたクロシェ編みのトップス、シャツにはスイミングウエアを合わせ、開放的な夏に後押しされた官能性を表現します。
ブランドを象徴するノマドの精神は、アイテムとモチーフに見られました。帯をあしらったブレザーやボクシングショーツに羽織るキモノコート、イスラム圏の民族衣装を思わせるロングシャツや刺しゅう入りのチュニック。イギリスやフランスの詩で描写される色鮮やかで装飾的なボタニカルモチーフもあれば、俳句に触発された繊細な梅の木のモチーフもあります。そして特に目を引いたのは、足の指に着けるインディアンジュエリー風の指輪です。必死で足元の写真撮ろうとしましたが失敗。ぜひ、ルック画像を拡大してご覧ください。
ルックは、白く穏やかな朝に始まり、天頂の光を浴びて朱色へ、終盤から星降る夜を投影したブルーからブラックへと一日の流れに沿って変化していきました。そしてフィナーレに、キーン・エトロ(Kean Etro)さんとヴェロニカ・エトロ(Veronica Etro)さんが登場。来シーズンからは、新クリエイティブ・ディレクターのマルコ・デ・ヴィンチェンツォ(Marco De Vincenzo)がメンズとウィメンズの指揮をとるため、今季が創業ファミリーによる最後のコレクションです。儚く詩的で美しいコレクションに感情を喚起され、二人の姿を見た時はグッとくるものがありました。
14:00「プラダ」
次は、ミラノメンズの目玉の一つ「プラダ(PRADA)」です。大塚は、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)とラフ・シモンズ(Raf Simons)のデュオになって初めて見たリアルのショーでした。「プラダ」からの問いかけは、趣向を凝らしたインビテーションが届いたときから始まります。今回は、紙でできたシャツでした。シャツには複数の種類があったようで、大塚の元に届いたのは赤いチェック柄。意図はまだ分かりませんが、いい歳して「いいね!」ほしさに実際に着ようとしたら、紙がビリビリに破れてしまいました。ショック。でも、着ようとしたのは絶対に僕だけではないはず。
ショー会場に着くと、会場内の装飾も紙でできたものでした。巨大な紙のチェック柄カーテンや窓枠、床、そしてゲストのシートも段ボールでした。「ありふれた日常を素材に映し出すことで、服の背景にある人間や現実から特別なものを作り出す」という意図だそうです。
コレクションは、普通の日常になじむベーシックなアイテムを軸に構成します。序盤は、1990年代の「プラダ」を彷彿とさせるシャープなプロポーションのスーツ。体のラインにぴったり沿うものもあれば、ややボクシーなタイプもあり、モードなスタイルが続きます。ジャケットの合わせの位置が高いのも、何だか懐かしい気分です。中盤には、ビリビリになった紙のシャツと同じチェック柄のアイテムも登場。マイクロミニのレザーショーツや、トーが反り上がったブーツは個性強めではあるものの、ほかはウエアラブルなアイテムばかり。次回のファッションショー会場では、チェック柄を着たゲストが多数いることでしょう。単品ではベーシックでも、それらを選んで衝突させることで着る人のアインデンティや背景を浮かび上がらせる提案です。表面的なスタイルで視覚的に伝えるだけでなく、“普通”の裏側にある実体のない“何か”に焦点を当てる深いクリエイションでした。かわいい紙の家の舞台セットと、ソニックユース(SONIC YOUTH)の楽曲を全編にわたって爆音で流す対比の演出も、同じような意図があるのかもしれません。いずれにせよ、答えはそれぞれに委ねるクリエイションでした。一つ言えることは、シートからモデルまでの距離がめっちゃ遠かった。
15:00「トッズ」
「トッズ(TOD’S)」はプレゼンテーション形式でコレクションを発表しました。クリエイティブディレクターのヴァルター・キアッポーニ(Walter Chiapponi)が、プレス向けにイタリア語で説明をしてくれたのですが、渡された同時通訳の機械が故障していて一切聞き取ることができず……。貴重な機会なので、ヴァルターさんの写真だけ収めておきました。
“シェイプス オブ イタリー”と題したコレクションは、これまで通り日常着をエレガントに見せるというコンセプトで、凡庸性の高いアイテムで構成されています。ゴム引きコットンで作るレインコート、新しいプロポーションのフィールドジャケット、ラバーペブルを打ち込んだバイカージャケットは、色彩感覚の優れたヴァルターさんらしいニュートラルカラーでさまざま色のアイテムと組み合わせることができそうです。シューズの新作として、ラバーとレザーを組み合わせた多層構造のソールを備えた“ゴンミーニ”の進化系と、ロゴを配したテニスシューズを会場に飾っていました。ウィメンズでは毎シーズン異なるアプローチで現代性を追求するヴァルターさんですが、メンズでは現実的な視点を重視しているようです。
17:00「モスキーノ」
ヨーロッパはサマータイムがある上に陽が長いため夕方時が最も暑く、この日は38度でした。大きな廃倉庫の「モスキーノ(MOSCHINO)」の会場内では、じっとしているだけでも汗が吹き出てきます。そんな中、ゲストはビタミンカラーのスリーピーススーツやレザージャケットを羽織っていて、季節を無視したお祭りムード。ジェレミー・スコット(Jeremy Scott)が「モスキーノ」に加入して以来8年目で、初となるメンズのショーだったため、彼のファンであるゲストは気合いを入れていたのでしょう。
コレクションには、1970年代に活躍した芸術家トニー・ヴィラモンテス(Tony Viramontes)のイラストを描いた、パステルカラーの作品が彩ります。昨日の「ヴェルサーチェ(VERSACE)」と同じく唯我独尊かと思いきや、クロップド丈のジャケットやトップス、マイクロミニ丈のショーツ、インナーなしでジャケットを羽織るという、本日までに見られた今季のトレンドをしっかり抑えているではないですか。筋肉質なモデルの、ちらっと覗く腹筋や胸筋はまるでアクセサリーのようにルックを美しく見せます。暑さで火照った私の体から、より一層汗が滝のように流れたのは、マスキュランなルックのせいだったのかもしれません。
18:00 「44レーベル グループ」
ベルリンを拠点にするDJ兼音楽プロデューサーのマックス・コボジール(Max Kobosil)による「44レーベル グループ(44 LABEL GROUP)」は初見でした。会場に入り、ゲストやスタッフを見渡した瞬間(あ、これは“打ち込み早歩き系”だな)と予想。勝手に名付けた“打ち込み早歩き系”とは、カルチャーをクリエイションのバックグラウンドにするブランドがよく使う、BGM打ち込み&モデル早歩きの演出です。普通ではない空間を作り出してブランドの世界観をアピールするのも、ショーでは当たり前。結果、予想通りのコレクションでした。オールブラックのストリートウエアに、レイブの要素を盛り込んだジェンダーレスなウエアが連続します。クラブを再現したのか、音楽に合わせて踊る若者たちと、ゲートを見張ってる風のコワモテのお兄さんがじわじわといい味を出していました。
19:00「ジェイ ダブリュー アンダーソン」
「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」は、ミラノで初のリアルショーを開催し、メンズコレクションとウィメンズのリゾート・コレクションを発表しました。昨シーズンはコロナの感染再拡大を受けて急遽デジタルに切り替えたため、半年越しとなる今季のミラノでのショー。廃倉庫の会場に入ると、メッセージを編み込んだニットを着用したモデルが並んでいました。ジョナサンワールド全開なコンセプチュアルアートの表現に、ショー前から期待が高まります。
ローライズのジーンズにオーバーサイズのTシャツ、ボーダー柄のニットウエアなどありきたりな日常着は、BMXのハンドルバー、割れたスケートボード、ボクシンググローブやバーコードの装飾によって変てこりんで非日常の世界観。「衣服を再構築するというアイデアのもと、日常着の規範を崩し、機械的に元に戻すという手法を取りました」とショー後にバックステージで語るジョナサン。装飾の数々は、「若い頃に消費し遊んでいたアイテムが、最終的にはその人自身を作り、人格の断片になっていく。そんな偶発的なことに焦点を当てた」と説明します。どう噛み砕いて理解すればいいのか時間を要しますが、つまり“自分”を知ろうとする現代の人々を投影した内容のようです。17世紀を生きた画家、レンブラント(Rembrandt)の自画像のプリントについては、「SNS上で自撮りする人々と同じように、約400年前にもアーティストが自画像を描いていました。それが客観的か主観的なのかは本人の捉え方次第ですが、共通しているのは自分自身を再発見したいという欲求。テクノロジーがアップグレードされても、人間はさほど変わらないのかもしれません」とデザインアイデアの源について語ります。
コレクションを読み解くには、今季は特に難解です。彼がクリエイティブ・ディレクターを務める「ロエベ(LOEWE)」では、“原始的”という言葉を使って、ファッションの概念を根本的に見直している姿勢が見られるため、自身のブランドでも同じことを実験的に行なっているだろうと私は解釈しました。ジョナサン自身もデザイナーとしての原点に立ち返っているのか、2008年にブランドを立ち上げた時に着想を得た、1991年の戯曲「ピッチフォーク・ディズニー(The Pitchfork Disney)」を読み直したことが今季のインスピレーション源だと話していました。難解なのに、奇妙な世界観にどんどん引き込まれてしまうから不思議です。コレクションの意図はさておき、今一番気になるのは立体的なハンドルバーやスケートボードが、コレクションピースにどのように転換されているかという点。後日ショールームでしっかりチェックしてきます!
20:00 「ドゥルーフ カプール」
本日最後のブランドは、インド発の「ドゥルーフ カプール(DHRUV KAPOOR)」です。前の「ジェイ ダブリュー アンダーソン」で大体の人が「今日も1日お疲れ!」感を出す中、「WWDJAPAN」は最後まで見届けに行きます。だって、“24時”とかいうタイトルをつけてしまったのだから。ただ、会場に到着したのはショー開始予定時刻からすでに30分以上遅れています。扉をくぐると、ウオーキングするモデルが目の前を横切っっていきました。ああ、やはりさすがに遅かった。そう肩を落としていたら、「今、リハーサルだからちょっと待ってて」とのこと。リハ、おっそ。マイペースで助かった。コレクションは普遍的なストリートウエアに、独特なタッチの花柄やビーズの装飾をあしらった、かわいい系のスタイル。やや子どもっぽすぎる印象は抱いたものの、独自の感性はあるなと感じました。