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グローバルSPA各社で要職を歴任した重鎮 「マリメッコ」レベッカ・ベイに聞くコロナ後のファッション

 フィンランド発のライフスタイルブランド「マリメッコ(MARIMEKKO)」のレベッカ・ベイ(Rebekka Bay)クリエイティブ・ディレクターは、世界4大グローバルSPA企業のうち、3社でクリエイティブ部門の要職を歴任してきた人物。「マリメッコ」では2017年から取締役を務め、その役を降りて20年9月に現職に就いた。世界中の市場を絶えずウオッチし、生活者が求めるものを形にし続けてきたファッション産業の重要人物であるベイ・ディレクターに、「マリメッコ」で目指すものや、コロナ禍を経た今、求められるファッションについて聞いた。

WWD:20年9月に「マリメッコ」のクリエイティブ・ディレクターに就いた。自身のミッションは何か。

レベッカ・ベイ「マリメッコ」クリエイティブ・ディレクター(以下、ベイ):既によく知られている通り、「マリメッコ」には素晴らしい歴史があり、それに敬意を払って丁寧に扱っていくことが大切だ。昨年ブランド創設70周年を迎えたが、ここから次の70年も歴史を継承していく。私の役目は過去を守りながら、ブランドがグローバルで支持され続けるようにしていくことだと思っている。

 クリエイティブ・ディレクター就任当時はパンデミックの渦中で、「マリメッコ」のチームに溶け込むことには難しさも感じた。私はデンマーク・コペンハーゲンの自宅にいて、チームメンバーは(本社のあるフィンランド・ヘルシンキなどの)それぞれの家で働いており、リモートでチームの目標やビジョンをしっかり共有することはとても大変だった。17年から「マリメッコ」の取締役を務めていたのでブランドのビジョンや方向性はもちろん知っていたが、それでも困難を感じた。

WWD:そもそも、「マリメッコ」とはいつ、どのように出合ったのか。

ベイ:ブランドとの出合いは随分とさかのぼる。当時CEOだったミカ(・イハムオティラ=Mika Ihamuotila)にヘルシンキに招待され、ミカと現CEOのティーナ(・アラフフタ・カスコ=Tiina Alahuhta-Kasko)に会ったのが最初だ。その時は契約を交わすといったものではなく、「もしも今後縁があれば」といった場だった。私にとってはそれが初めてのフィンランド訪問で、あの国の自然や建築物にすっかり魅せられてしまった。同時に、「マリメッコ」にも強い魅力を感じた。(ヘルシンキにある)工場にプリントのための機械をちゃんと持っていて、スタッフの働き方もすばらしい。私はスカンジナビア出身なのでもちろんブランドのことはずっと知っていたが、魅力を再発見した思いだった。

 長らく住んでいたニューヨークから、2年前に母国デンマークのコペンハーゲンに帰国し、今はコペンハーゲンとヘルシンキを行ったり来たりしながら働いている。この2都市はとても近く、それが可能だ。「マリメッコ」のデザインチームが拠点としているのはヘルシンキだが、コペンハーゲンにもフリーのデザイナーなどが集まるスタジオがある。

「歴史あるブランドで働くのは初めての経験」

WWD:これまで、世界有数のSPA企業各社で働いてきたが、それらと「マリメッコ」はどう違うか。

ベイ:さまざまな部分で異なっている。長い間、アメリカや日本企業(のニューヨークオフィス)で働いてきた。それらとの最も大きな違いは、スカンジナビアの企業は組織にヒエラルキーがなく、(相手が誰であっても)全て直接的にやり取りをして、皆で協力しながらモノを作っていくというマインドが強い点だと思う。アートや建築、景色を見るたびに、ようやくスカンジナビアに帰ってきたと強く感じる。アメリカで働いていたころのチームメンバーは、私が生まれついたときから親しんできた文学やアート、建築などとは異なるレファレンスを持っていた。それが壁になっていた部分もある。今ようやくリラックスして仕事に向き合えていると感じる。

 自身のキャリアにおいて、新しい仕事を始める際は常に新しい挑戦を自分に課してきた。今まではレガシーやヘリテージのない会社で、いかにしてそれを作り出すかという仕事をしてきたが、「マリメッコ」には莫大なプリントアーカイブというヘリテージがある。それは私のキャリアにおいて初めてのこと。歴史のある会社でそれを守り、経緯を払いながらブランドを次に導くという役割を担っている。

WWD:「マリメッコ」と言えばプリントのイメージが非常に強いが、そこにシェイプという新しい切り口を加えてブランドをアップデートしようとしている。

ベイ:「マリメッコ」はアートのようなプリントを強みにしてきた。ドレスはアートを表現するためのキャンバスだ。ただ、私はそこにシェイプの理解ももたらしたい。プリントという言語は既に確立されているので、シェイプという言語をここに加えて、これまで2次元(平面的)だった表現を3次元(立体的)にしていきたい。かと言って、ごちゃごちゃしたシルエットを目指すというわけではもちろんない。ドレスをキャンバスとするうえで、クリーンなシェイプは守っていかないといけない。

WWD:前職時代も含め、これまでのキャリアの中で、常に「ワードローブのモジュール化」というキーワードを示してきた。改めて、それはどういった考え方で、「マリメッコ」ではどのように表現するのかを教えてほしい。

ベイ:確かに私は、「ワードローブのモジュール化」というコンセプトを唱え続けてきた。それは、アイテムが(単品としてではなく、1つのまとまった)コレクションとしてそれぞれの人に取り入れられ、拡大していくということ。「マリメッコ」の柄や色のアイテム同士を組み合わせていくのは、やや勇気のいることだと思うが、それを可能にするのが私の仕事だ。そうした提案が受け入れられるように、地域や国によって(MDや商品をローカライズして)アレンジしていくことも求められている。

 世界中にはさまざまな行事があり、例えば中国の旧正月などもその1つだ。(単にスタイリングのしやすさを意識してモジュール化するというのではなく、各国の季節行事などにも合わせて)より高い次元でモジュール化していくことで、全世界さまざまな人の多様なニーズに応えていく。私は世界4大SPAのうちの3社で働いてきた経験があり、国や地域別で好まれるニュアンスやテイストを理解している。それを「マリメッコ」にも提供していく。

WWD:特に日本市場に対してはどのような戦略で臨むのか。

ベイ:(グローバルな)大きなコレクションの中で、日本向けの小さなストーリーを紡いでいく。日本のお客さまは「マリメッコ」を象徴するウニッコ柄を好むが、その中でも特に小さめの柄が支持されている。また、ソフトでニュートラルな色のトーン、例えばサクラのようなピンクが好まれる。そのような、日本のお客さまが求める柄のサイズやカラートーンを、モジュールという考え方の中で表現していく。

 日本人女性は一般的にフェミニンなスタイルを好むと言われている。ただ、今回来日して街行く人たちを見て、よりスポーティーで、構築的なファッションの人もいると感じた。そうした気づきをしっかり生かしていく。22年春夏物には、花びらを意識したシルエットを採用した。これも柔らかい雰囲気を求める日本の女性の気分にはよく合っていると思う。日本の女性の気持ちを100%理解しているとは言わないが、これまで日本で過ごしてきた時間も長く、理解は比較的できていると思う。日本女性の好みのテイストだけでなく、日本の文化にも興味があり、恐らくそこも理解につながっている。

「機会があるたびに、立ち止まって振り返ることが大切」

WWD:コロナを経て、消費者の求めるものや意識はどう変わったと分析しているか。

ベイ:スエットパンツで過ごす長いステイホーム期間を経て、ファッションへの感覚は大きく変わった。ホームカテゴリーが非常に重要になっているし、より心地がよくて、より削ぎ落としたもの、より高いクオリティーでタイムレスな価値を持つものが求められるようになった。一時的なトレンドではなく、人生を豊かにするものが重視されるように変わってきている。「マリメッコ」はまさにそうした考え方に合っており、人々が装うことを手助けするブランドだと思う。美しいプリントが施された1枚のドレスを着れば、ただそれだけでコーディネートが決まる。買い物は単なる売り買いではなく、人生に喜びやエモーショナルな体験を提供するものでないといけない。祖母から母へ、母から娘へと受け継いでいける「マリメッコ」のドレスは、まさにエモーショナルなものだと思う。

WWD:サステナビリティについてのブランドの考え方は。

ベイ:1年半前に、あらゆる分野におけるサステナビリティの方針を打ち出した。かつてはデザインが先行だったが、今はサステナビリティが最優先事項だ。重視するのは便利さではなくサステナビリティ。例えば、われわれの新しいキャンバスバッグにもリサイクル素材を使っているし、そこからさらにリサイクルすることが可能なデザインにしている。金具の使用をなるべく減らすことでリサイクルする際にも無駄が出ず、スムーズに作業が進む。素材や生産方法でサステナビリティを意識するだけでなく、360度の視点で新しい循環型ビジネスも始めている。ビンテージの「マリメッコ」を販売するリセール事業も本国ではテスト的に開始した。リペアサービスも行っている。まだトライアル段階だが、ここから広めていきたいと考えている。

 サステナビリティが全てに先行することは、全く難しいことではない。今の時代、作るものに責任を持つことはデザイナーに必ず求められる要素だ。よりよい地球のためにはこうした考え方のアップデートが重要で、何か機会があるたびに、立ち止まってこれまでの手法でいいのかと考えることが重要。それはとてもポジティブなことだと思っている。

WWD:ファッション業界で、人がうらやむようなキャリアを積んできた。自身の経験をもとに、ファッションブランドに今求められることは何だと考えるか。

ベイ:インテグリティーだ。誠実さ、正直であること、(環境や人権問題などに)コミットする意思があること、思慮深さといったことなどを意味する。ブランドとして、誠実な姿勢と明確な方向性を持つこと。消費者と一緒になって、人生において意味のある、すぐに消えるトレンドなどではない大きなストーリーを紡ぐこと。その結果、人々が(ブランドや客同士で)つながりを持つといったあり方が求められていると感じる。

WWD:とても知的で抑制的、スカンジナビアン的な回答だと感じる。

ベイ:そうかもしれないが、同時にとても日本的だと私は思う。日本の文学について考えても、また、私のヒーローである(インダストリアルデザイナーの)柳宗理、(インテリアデザインや彫刻などを手がけた)イサムノグチの作品を見ても、非常に思想を感じる。柳宗理のキッチンツールは、日常で使う道具でありながらアートのような美しさがあり、素材に対してとても正直だ。そうした価値観をわれわれと日本の人たちは共有している。だからこそ、「マリメッコ」も、日本の女性に支持されるのだと思う。

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