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「原稿執筆カフェ」で記者が“書き終わるまで帰れない”プレッシャーを体験 オーナーへの取材をその場で執筆

 東京・高円寺の「原稿執筆カフェ」は、“原稿を書き終わるまで帰れない”をコンセプトに書くことに特化したカフェとして4月にオープンした。そのユニークなコンセプトが話題を集め、海外メディアにも取り上げられた。今回は「原稿執筆カフェ」のサービスを、メディア代表として記者が体験。今、ここに書いている「原稿執筆カフェ」の体験リポートと、川井拓也オーナーのインタビューの原稿を“書き終わるまで帰れない”に挑戦した。

記者が「原稿執筆カフェ」を体験
来店客との不思議な連帯感が

 「原稿執筆カフェ」は、撮影スタジオ「高円寺三角地帯」が週3回営業している。その日に宣言した原稿の執筆目標を達成しないと退店できないシステムだ。料金は1時間 300円で、閉店時間の19時を過ぎてしまうと、超過料金として1時間3000円を支払うことになる。また、作業中には店員が定期的に「進捗いかがですか?」と圧をかけ、その頻度は「マイルド」「ノーマル」「ハード」の3コースから選べる。

 店内はカフェというよりバーのような雰囲気で、メニューがない。自由に飲める天然水やお湯、インスタントコーヒーがあり、食べ物や飲み物の持ち込みも許されている。店内には国語辞典や充電器、冷却ファンつきPCスタンドなど、無料レンタル品も充実している。

 では同店のサービスを実際に体験。入店後は“目標シート”に作業目標を宣言する。記者は“「原稿執筆カフェ」のインタビュー原稿を書き上げる”と書いた。このタイミングで“進捗頻度”も選択する。「マイルド」は最後に完成したかどうかを聞くだけで、「ノーマル」は1時間に1回声をかける一番人気のコース。「ハード」はさらに頻度を上げて後ろから圧をかけてくれるそうだ。初めて体験する今回は、「マイルド」で様子を見ることにした。

 “目標シート”を店員に提出すると「『原稿執筆カフェ』のインタビュー原稿、頑張ってくださいね」と声をかけられた。改めて声に出されると自分の目標をクリアに実感することができ、応援されている気にもなり、やり遂げようという気持ちが湧いてくる。

 この日は平日で、オープン時間の13時に予約をしたが、すでに10席あるうちの5席が埋まっていた。店内に会話は一切なく、全員が黙々と自分の作業に打ち込んでいる。ほどよい緊張感と、不思議な連帯感を感じる。店内はカフェというより、“原稿を書くためのスペース”という方が正しいのかもしれない。記者も、向かいのコンビニでいつものコーヒーと軽食を調達して作業に挑んだ。

 作業を始めて1時間。オーナーの川井さんが“進捗いかがですか?”のうちわとお菓子を載せたおぼんを持って席にやって来た。1時間ぶりの人とのコミュニケーションがうれしい。運が良ければ、お菓子の差し入れをもらうことができるそうだ。記者はおぼんの上のラインアップからチョコレートを選んだ。甘いものが染みる。

 作業を始めて2時間。作業が順調に進む中、オープンから時間を共にしてきた利用客の一人が原稿を書き上げ、退店していった。うらやましかった。この日は雨による低気圧で、気圧に体調を左右されやすい記者は、いつもならばあまり集中できなかっただろう。しかし、この日は完全に“ゾーン”に入っていた。途中でSNSに気を取られることもなかった。

 結局、作業を終えて店を出たのは、作業開始から4時間後の17時。料金は1200円だった。料金も原稿の進み具合にかかっていると思うと、金銭的に余裕さえあれば、ゲーム感覚で楽しめるのかもしれない。また、常設店でないからなのか、支払いに現金が使えないというのも現代的である。

 “原稿執筆カフェ”での作業は、確かに集中できた。ほかの来店客が頑張っている背中が励みになるし、“終わるまで帰れない”というのは少なからず精神的にプレッシャーがかかる。(早く帰りたい)という思いから、作業が捗るという側面もありそうだ。川井オーナーに、オープンまでの経緯を聞いた。

「原稿執筆カフェ」の川井拓也オーナーにインタビュー

WWD:「原稿執筆カフェ」が誕生したきっかけは?

川井:ここはもともと、ライブ配信用のスタジオとして2019年に借りた場所でした。以前のイタリアンバーのカウンターやキッチンがそのまま残っている内装だったので、お酒を飲みながらカウンター越しに対談している画を撮れるスタジオとして使っていました。

 しかし、コロナの流行で、お酒を飲みながら面と向かって対談するという画が成り立たなくなってしまった。どうしようかと試行錯誤し、「原稿執筆カフェ」というアイデアにたどり着きました。

WWD:それまでに紆余曲折はあった?

川井:最初は、飲食物を持ち込んで休憩できるスペースをやってみました。その後、コロナ禍だったので、1人で来るお客さまをどうすればたくさん入れられるのかをひたすら考えたんです。それから、僕がもともと動画クリエイターだったこともあり「動画編集カフェ」になりました。これもある程度は話題になったのですが、その割に集客にはつながらなかった。

 すると、脚本家の女性が「私に脚本執筆カフェやらせてください」と言ってきたんです。脚本に絞ってしまうと難しいかなと思い、「原稿執筆カフェ」になりました。場所を貸して、同業のオフ会みたいになればいいじゃない?と考え、最初はその女性を店長にして月2回ぐらいでやるつもりだったんですよ。でも、思いのほか反響があるものだから、これはやろうということになりました。今、自分の人生で一番バズっていますね。

WWD:来店客は、どういった業界が多い?

川井:みんな一人で作業をして帰っていくし、僕は原稿の中身を見ないので、詳しくは知りません。でも、入店時に書く目標を見ると“プロットを仕上げる”“論文を2時間で1000字書く”“パワーポイントを仕上げる”といろいろです。締め切りや入稿日を抱えているプロの書き手だけでなく、学生やサラリーマンの利用者もいます。場所も高円寺だけでなく、神奈川などの遠方から来てくれます。

 家じゃなかなか始められないとか、やろうと思っているけど先送りにしてしまうという人がここに来て「家の3倍は捗りました!」とか「2000字のつもりが3000字書いてしまいました」と言って帰ってきますね。でも、みんな僕がチェックしているから集中しているんじゃなくて、周りの人が一生懸命やっているからサボれない環境になっているんじゃないでしょうか。

WWD:利用者とのコミュニケーションで気をつけているところは?

川井:僕が気をつけているのは、いかにみんなの集中を阻害する要因を減らすか。空調も女性が上着を羽織らないくらいの温度に保つようにしていたり、こちらからオーダーをとらずに自由に持ち込んでもらうシステムにしたり。

 あと、イヤホンをつけて作業をしている人も多いから、最近は声かけもうちわでやるようにしています。声かけの時には、チョコや飴をサービスで配ることもあります。暑かった日には“ピノ”を1個ずつ配りましたよ。

WWD:デッドラインの19時になっても原稿が終わらず、超過料金を払う人はいる?

川井:昨日、ついに超過料金の3000円を払った人が一人出ましたね。一応、自己申告制なので、本人が終わったといえば終わったことになるのですが、昨日の方は素直で「終わらないです!」と言っていましたね。でも、集中できていたから延長したかったんでしょうね。

WWD:今後の目標は?

川井:フランチャイズとまではいかないけど、別の喫茶店に売り込む形で“目標シート”を作ってもらい、1日限定営業をしてもらっても面白いかもしれない。今は僕がフロントマンとして立っていますが、書く人の気持ちが分かる編集者やライターに、店長をやりつつオフィスのように使ってもらうのもいいですね。

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