ファッション

11年目で勢いづく「アミ パリス」 デザイナーとCEOに聞く好調の理由

 アレクサンドル・マテュッシ(Alexandre Mattiussi)による「アミ パリス(AMI PARIS)」が急速に成長している。同ブランドはマテュッシが「家族や友人、自分が愛せる服」を作るため、2011年にアパートの一室でスタート。その後はパリ・ファッション・ウイークへの参加や世界各地への出店で認知を広げ、21年には投資会社セコイア・キャピタル・チャイナ(SEQUOIA CAPITAL CHINA)の投資を受け、ビジネスの基盤をさらに固めている。飛躍し続けるブランドを、デザイナーとCEOはどう見ているのか。デザイナーにはクリエイションについて、CEOにはビジネスの未来について聞いた。

“全ての人を包括する
フレンドリーな
ブランドでありたい”

WWD:「アミ」立ち上げの経緯は?

アレクサンドル・マテュッシ(以下、マテュッシ):最初は自宅のアパートで一人で始めたんだ。出発点は、自分のブランドを持ちたいという長年の夢と、思い描くデザインを具現化したいという願望からだった。ビッグメゾンでメンズウエアのデザイナーとしてキャリアを積む中で、その思いはどんどん強くなっていったんだ。家族や友人、自分自身が長く愛することのできる洋服を作り、手の届きやすい価格帯で多くの人に着てもらいたいという強い願望がブランド立ち上げの理由で、その思いは今も一切変わっていないよ。

WWD:デザインのインスピレーションはどのように生まれる?

マテュッシ:家族や友人から、従業員、街中の知らない人まで、とにかく僕の周りにいる人たち全員さ。パリの美しい街を自転車で走っていると、自然とアイデアが浮かんでくることもある。生活に根ざした日常着ってことを大切にしているから、僕にとっては日常の全てがインスピレーションなんだ。

WWD:ハートのロゴ“アミ ドゥ クール(Ami de Coeur)”の誕生はブランドにとって転機になった?

マテュッシ:このロゴは、幼少期から使っている僕のサインのようなものなんだよね。シグネチャーができたことで多くの人に認知されるようになったし、「アミ」のコミュニティーはつながりをより強くしたと思う。特に若い世代にブランドを知ってもらうきっかけになった。フランスの学校では若い学生たちが、スポーツブランドのロゴと同じくらい“アミ ドゥ クール”をステータスとして着用していると知って、とても光栄だよ。僕の名前のイニシャルでありアルファベットの始まりであるAと、万国共通のハート形というシンプルで明快なデザインが広い世代に愛される理由じゃないかな。

WWD:ウィメンズをスタートしてからドレスの要素が強まったが、周囲の反響は?

マテュッシ:ウィメンズを始める前から、顧客の40%程度は女性だったんだ。既存の女性顧客は男性的なスタイルを好む傾向にあるけれど、彼女らにもフェミニンなピースを提案できるようになったし、もともとドレスを好む新規顧客にもリーチできている。セレブリティーがレッドカーペットで着用する機会も増えたから、反響はとても大きいよ。

WWD:いつもパリへの愛情をとても感じるショー演出が印象的だ。ショーで発表することの意味とは?

マテュッシ:ショーは物語を伝える目的と、オーディエンスをブランドのコミュニティーに迎え入れるような意味がある。現場であれスクリーン越しであれ、何が起こるか分からないドキドキ感と、たくさんのスタッフとの共作でみなぎるエネルギーを、多くの人と共有できる場がショーなんだよ。劇場に観客を招待するような気持ちで、いつも演出についてアイデアを練っているんだ。

WWD:この先どういったコレクションを作っていきたい?

マテュッシ:あらゆるライフスタイルを持つ人々に、完璧な日常着を提供すること。僕が言う“完璧”って、シンプルなデザインでカラーとシェイプが美しく、時間が経って色あせないタイムレスさを意味するんだ。長年着用できるように、品質にも妥協はしない。17歳の学生にはセーター、銀行員のサラリーマンにはスーツ、50代の主婦には美しいコートといったように、「アミ」のお店に行けば誰でも日常生活で着たい服が見つかると思ってもらえるようなコレクションを作り続けたいね。

WWD:ブランドの今後は?

マテュッシ:ブランドがどんなに大きくなっても、全ての人を包括するフレンドリーなブランドでありたい。一人で自宅のアパートで始めた時と変わらない価値観をこの先も貫くだけさ。顧客だけでなく、従業員にも敬意を払って家族のように大切にしたい。そういった雰囲気は、ブランドや店舗にも反映されるものだから。今年は各国での旗艦店オープンも控えているし、店舗作りにも力を入れていくつもりさ。親密さを感じてもらえる場にするから、楽しみにしていてよ。

“創立当初から大切にしてきた
価値観が消費者と共鳴した”

WWD:現在のビジネスの状況をどう分析する?

ニコラス・サンティ・ウェイル(以下、ウェイル):年間売上高は2019年が3000万ユーロ(約43億円)、20年が6000万ユーロ(約86億円)、21年が1億3000万ユーロ(約187億円)と、急速な成長を数字が示している。コロナ禍で消費者は生活を見直して、人生において価値ある本質的なことに焦点を当てた。多くの人にとってそれは、家族や友人という人間関係や、日常の非常にシンプルな事柄であると気付く機会になったのだろう。これらは「アミ」が創立当初から大切にしている価値観であり、コロナ禍で消費者と共鳴した結果、売り上げにもつながったのだと考えている。

WWD:コロナ禍にどのような戦略を立てた?

ウェイル:マーケティングではなく、コミュニケーションと広告に予算を割いた。サプライヤーには発注を中止せず、共に経済危機を乗り越えられるよう鼓舞していた。従業員の精神面の健康も大切なので、予算をかけて彼らのメンタルヘルスケアも行った。人々はポジティブなコミュニティーに属しているという安心感を得ることで、困難な状況でも前向きに取り組めるもの。それはブランドの価値として、消費者にも伝わると信じていた。

WWD:日本での売り上げが好調な要因は?

ウェイル:ローカルの人々をターゲットにしたのが要因の一つ。アジア人旅行者が多かった表参道の旗艦店を閉店し、ギンザシックスと阪急うめだ本店、ジェイアール名古屋タカシマヤに出店したことが奏功している。日本だけでなく、全世界でバランス良く成長を続けている。

WWD:2年前のインタビューでは、ブランドを家に例えて「まだ屋根や2階もない状態」と語っていた。今その家はどんな状態?

ウェイル:ずいぶんと増築することができた。屋根も2階も完成しただけでなく、多くのゲストと食卓を囲めるダイニングルームに、野菜や果物が育つ広い庭、パーティールームも備えている。見た目だけでなく、家の土台も強化された。今後も増築していくが、ビルに建て替えず、あくまで“家”という形態を維持し続けたい。「アミ」はコミュニティーを家族だと捉えるフレンドリーなブランドだから。

WWD:セコイア・キャピタル・チャイナの投資を受けるメリットは?

ウェイル:利益よりもビジョンと人物像を重要視する珍しい投資会社で、ブランドの野心を尊重してくれる。特にクリエイションには一切関与していないので、アレクサンドルは大胆なリスクを負えるようになった。その一例が、ウィメンズでドレスラインを強化したことだ。セレブリティーの着用によりメディア露出が増え、既存客と新規の女性顧客からの需要も高まり、全体の売り上げに大きく貢献している。

WWD:今後のビジネスの具体的な施策は?

ウェイル:世界市場での存在感をさらに高めていくために、コミュニケーションには引き続き投資していく予定だ。オンラインと直営店を強化し、ブランドの世界観をデジタルとリアルの両方で体験してもらえるようにしたい。各都市でポップアップやショー、旗艦店内でイベントを開催し、消費者にサプライズを与えてハッピーなムードを共有したい。これからどんな施策をやっても、アレクサンドルも僕も、価格帯を上げないことを大前提にしている。新たなラグジュアリーブランドとして、クオリティーやマーケティングポジションを重要視し、現在はラグジュアリーゾーンでブランド展開を広げている。今は全世界で26店舗を構え、アジアでは日本、中国、韓国で17店舗。今後もアジア並びに世界で店舗数拡大を予定している。

WWD:アレクサンドルに期待することは?

ウェイル:これまで通り、オープンマインドで野心的にクリエイションに取り組んでほしい。前よりもリスクを負えるようになった分、密にコミュニケーションを取って信頼関係を絶え間なく築き上げていく互いの努力が必要だ。「アミ」はまだ11歳の子供。まだまだ投資して、成長を促していきたい。

「アミ パリス」に
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