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パリコレ出演の加瀬亮を「ルメール」で目撃し、大遅刻のベテランに喝! 2023年春夏メンズコレ取材24時Vol.5

 2023年春夏コレクションサーキットの皮切りとして、各都市のメンズ・ファッション・ウイークが開催しています。日本から渡航する関係者は多くないものの、「WWDJAPAN」は今季も現地取材を敢行し、現場から臨場感たっぷりの情報をお届けします。担当するのは、大塚千践「WWDJAPAN」副編集長とパリ在住のライター井上エリの2人。今回は「ジバンシィ(GIVENCHY)」のメンズショーから「ルメール(LEMAIRE)」「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」の実力派までがそろったパリメンズ2日目をリポートします。

10:00「ビアンカ サンダース」

 本日は、2017年デビューのロンドン発「ビアンカ サンダース(BIANCA SAUNDERS)」でスタートです。パリコレでショーを開催するのは今回が2回目。同ブランドは2021年に、フランスの権威あるデザイナー賞として知られる「アンダム ファッション アワード(ANDAM fashion award)」のグランプリに輝きました。女性目線での男性の官能性を探求する彼女は今季、ネックラインが直線的なカットのタンクトップや、ねじれのあるシャツとジャケット、上質なシルクや薄手のニット素材で、見せつけるのではなく繊細に香り立つ男性美を表現しました。裾を曲線を描くようにカットしたジャケットや、ビッグサイズのジーンズを織り込むなど、パターンワークも面白かったです。ただ、これらはいつもの手法なので、ひねりの利いた独自のアプローチをさらに期待したいところです。

11:30 「ルメール」

 午前中のパリは空気が少し冷たくて、徐々に日差しが暖かくなっていくのが本当に気持ちいいんです。そんな心地よい時間に見る「ルメール」は格別でした。会場はパリ工芸博物館(Musee des Arts et Metiers)で、格調高い空間に立つモデルたちが自由に談笑しています。カラーリングはオフホワイトやテラコッタ、ジンジャー、ベビーブルーといった繊細なニュアンスのワントーンが多く、素材の柔かさやエレガンスが伝わってきます。服と肌の間にある空間に焦点を当て、シャツは風通しのよいゆったりとしたシルエットで、パンツもハイウエストのイージーフィット。ゆとりあるシルエットによって生じる空間や素材のドレーピングが、エレガンスを際立たせる得意のスタイルでした。パプアニューギニア生まれのアーティスト、ノヴィアディ・アンカサプラ(Noviadi Angkasapura)の作品をあしらった知的な柄使いが、“ミニマル”とは違う奥行きをコレクションにもたらせます。

 会場にはモデルたちに混ざって、ミュージシャンのアナ・ロクサンヌ(Ana Roxanne)もコレクションをまとって生演奏しています。コレクション中の慌ただしい時間には、こういったゆっくりしたプレゼンテーションもいいかもしれません。そんなことを考えていると、人と人との間を早足で進む人が視界に入りました。ああ、時間ないんだな。分かる、アポイントメント詰まってるもんね。と勝手に共感していると、よく見たらその人物とは俳優の加瀬亮さんでした。そしてよく観察していると、早足で行ったり来たりしており、服もモデルと同じコレクションをまとっています。そう、加瀬さんはモデルとして今回のプレゼンテーションに参加しており、自身の世界観に没入していたのでした。

13:00「ヘド メイナー」

 「ヘド メイナー(HED MAYNER)」はチュルゴ高校の校舎を会場にしました。広い会場なのに、椅子を並べて狭いランウエイを作り、ビッグサイズのルックが出てくるというチグハグなスケール感が面白い!秋冬のコレクションは、肉厚のウールで、ふっくらとした毛布を羽織っているようなルックが主役。今季はベッドルームではなく、キッチンに目を向けたようです。イスラエル・テルアビブとパリのフリーマーケットで購入した、刺しゅう入りのリネンを使ったシャツとチュニックで、レイヤードを楽しみます。さらにエプロン風のワークベストや、耳には小さじスプーンのイヤリングを着けていました。これらリネンのルックが誘うのは、自然に囲まれたカントリー調の別荘で朝食を取るすがすがしい朝のような、爽やかなムード。中盤からは、ビッグサイズのワークウエアやテーラードといった定番のピースが登場し、朝食を作る母、日曜大工に励む父、学校へ行く息子と各ルックのキャラクターを想像させました。穏やかで心地よい雰囲気が好印象です。

14:30 「ジバンシィ」

 パリの軍学校エコール・ミリテールでショーを開催したのは、クリエイティブ・ディレクターのマシュー・M・ウィリアムズ(Matthew M. Williams)=クリエイティブ・ディレクターが率いる「ジバンシィ」です。今回が現体制では初となるメンズ単独のショーということで、会場周辺は有名ラッパーやアーティストたちが集いにぎわっています。ゲートを抜けると、ショー空間の中央には白いブロックが建ち、その周辺に水を浅く張ったセットでした。この大きな水たまりのランウエイで、どのようなコレクションが登場するのか、期待は膨らみます。

 コレクションは、その水たまりを物ともしないシューズが際立ちました。アッパーにメッシュとシンセティックレザーを使った“TK-MX ランナー”は豊富なカラーバリエーションで披露し、ボリューム感が目を引く“TK-360-MID”からは、オールラバーのレインブーツも登場。モデルたちはバシャバシャと水の中を歩いていくので、観客はどうしてもその足もとに視線が向きます。シューズを際立たせたない演出だとしたら、なかなかいいアイデアだと思いました。

 ウエアは、「ジバンシィ」のコードやクラフツマンシップを。ウィリアムズのパーソナリティーを反映させた“コミュニティの装い”として提案することで、新世代に継承します。同氏が得意とするモノトーンのユーティリティーウエアにたくさんのロゴをちりばめ、ローウエストのスキニーなボトムで作る縦長のスタイルがストリートウエアのムードを感じさせます。さらに顔を覆うトップスやアームバンドなど、アクセサリーやディテールはプロテクティブ。まさにマシューを起点とした“コミュニティの装い”といった印象でした。テーラリングは控えめでしたが、コレクション自体はクリーンなストリートウエアだったので、ジュエリー使いも目を引きました。ストリートブームの反動でテーラリングを提案するブランドが多い中、ロゴ使いやスニーカーの打ち出しから、あくまで自身の強さに向き合うんだという意思が感じられました。

16:00 「ウォルター ヴァン ベイレンドンク」

 ラグジュアリーブランドらしい豪華セットを目の当たりにした後は、「ウォルター ヴァン ベイレンドンク」先生です。指導者として実績を残しまくっている一方で、自身のブランドでパリメンズに継続して参加しているプレイング・ティーチャー。会場は、1924年に建てられたマドレーヌ劇場(Theatre de la madeleine)で、趣のある空間が素敵です。どんなショーが始まるんだろう。期待して待ち続けること20分、なかなか始まりません。30分を過ぎた辺りで、開演を求める拍手が起きます。それでもまだ始まらない。40分になる頃には、激暑の密室でスタンバイし続けるカメラマンから怒号が上がり始めると、場内が暗転してようやく幕が上がりました。先生、授業なら欠席扱いの遅刻です。コレクションはいつもよりもウエアラブルで、モチーフ使いこそ派手なものの、先生が得意とする浮世離れした装飾やピースは控えめ。リアルなシルエットで、これはこれでアリだと思わせるスタイルでした。黒い布がさーっと上がってモデルが現れる演出や、ステージ上を縦横無尽に入り乱れる勢いは面白かった。ただ、ゲストには次の予定があります。その時間を気にさせるハラハラした状態では、コレクションの良さを純粋に伝えきることはできないと、授業で生徒たちに教えてほしいです。

17:00 「ファセッタズム」

 前のショーで時間と体力と気力を大幅に消費したため、「ファセッタズム(FACETASM)」のプレゼンテーション会場ではデザイナーにちゃんと取材をしたかった。でも、今回はお見かけすることはありませんでした。行ったタイミングも悪かったのか、会場はモデルもパラパラとした状態で、同じタイミングで来たメディアやその他のゲストもどこをどう見ていいのか分からず、コレクションの意図やこだわりについても伝わりきらず、不完全燃焼。東京的リミックスなストリートウエアからは少し脱却したいという意思は感じられましたが、その辺はまたゆっくり話を聞いてみたいと思います。

18:00「ルード」

 「ルード(RHUDE)」がパリでショーを行うのは3回目です。デザイナーのルイージ・ビラセノール(Rhuigi Villasenor)は、ラグジュアリーブランド「バリー(BALLY)」のクリエイティブ・ディレクターに就任し、次シーズンにデビューコレクションを発表予定。さらに、ルイージと「ザラ(ZARA)」とのコラボレーションによる”RHUコレクション”が5月中旬に発売したばかりと、今ノリにノッてるデザイナーの一人です。

 「ルード」では、スポーツウエアとストリートウエア、そしてラグジュアリーを掛け合わせて、彼が拠点を置くロサンゼルスの若者のスタイルをコンセプトにしています。ライダースジャケットにローライズジーンズ、ダウンベスト、ボクサーショーツ、フーディーにはタキシードを重ね、スーツにはビーサンを合わせて、フォーマルとビーチスタイルの融合を試みました。しかし、要素を盛り込みすぎでややまとまっていません。そして、どこかエディ・スリマン(Hedi Slimane)を彷彿とさせるカットやシルエットでした。実際に触れていないので正確には分かりませんが、生地やパターンの美しさがショーから伝わってくるわけでもなく、コンセプトの一つとして掲げるラグジュアリーの要素が今回は見られませんでした。「バリー」ではどのようなクリエイションを見せてくれるのでしょうか。

19:00「LGN ルイ ガブリエル ヌーチ」

 パリコレで2回目となるショーを開催した「LGN ルイ ガブリエル ヌーチ(LOUIS-GABRIELE NOUCHI)」は、引き出しが少なめ。タンクトップにボクサーショーツ、トランクスパンツにバスローブ風のコートを羽織るのがキースタイルです。ショーには、アメリカ人のプロデューサー兼コメディアンのジョーダン・ファーストマン(Jordan Firstman)が、下着を着用せず、バスローブで股間を隠して登場。なんとコメントすればいいのやら……。白のタキシードをまとった日本人モデルのタクマくんがかわいかったので、それだけでもショーに出席した甲斐はありました。

19:00「ナターシャ ジンコ」

 公式スケジュールに思い切りかぶせてくるオフスケジュールのショーなんてスキップすれば、本当はもっと楽になるはずなんです。でも、チケット申請してもないのに“YOU ARE CONFIRMED!”みたいな勢いのいいメールがやたらとしつこく届く執念に負け、二手に分かれて行ってしまいました。面白いものが見られる可能性がある限り、足を運ぶのがファッション・ウイーク。そしてこの連載なのです。デザイナーはウクライナ出身なので、会場の随所にイエローとブルーの配色が見られました。現在はロンドンをベースにしており、パリメンズの期間中にオフスケジュールでショーを発表しています。コレクションは、以前はY2K風の“カワイイ”スタイルな印象でしたが、かなりセンシュアルに変化していました。とはいえユニークなモチーフやアクセサリーは変わらず、クラフツマンシップとアンダーグラウンドカルチャーを融合させたクリエイションは振り切っていて楽しかった。わざわざ足を運んだ甲斐がありました。

20:00「Y/プロジェクト」

 本日最後は「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」のショーを見に、会場となったヴィクトル・デュリュイ高校へ。メンズとウィメンズのコレクションに、デニムを使ってないルックがなかったんじゃないかと思うくらい、とにかくデニムだらけ。グレン・マーティンス(Glenn Martens)がクリエイティブ・ディレクターを務める「ディーゼル(DIESEL)」との共通点が多くいものの、デニムを自由自在に変化させるアイデアと技術が「Y/プロジェクト」でも光っていました。

 そして、「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」とのコラボレーションは継続のようで、アイコニックなトロンプルイユ(だまし絵)がスリップドレス、タンクトップ、アウターにプリントされています。昨シーズンのサイケデリックな配色はやや控えめで、今季はモノトーンがメイン。有機的なフォルムのジュエリーやバッグなどの立体装飾がルックをドラマチックに見せます。「ジャンポール・ゴルチエ」との共同制作で手掛けた、クチュールのクリエイションが影響しているのでしょうか。さまざまな経験を糧に、デザイナーとしての可能性を広げているようです。

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