コロナ禍で手芸ブームに火がつき、編み物をする人が増えたそうですね。私の周りでもマフラーやミトンなどを編み始める友人がちらほら出てきて、「気分転換になって楽しいよー」という声を耳にしていました。かくいう私は「不器用だし縁遠そう」と尻込みしていたのですが、そんな時に「クロエ(CHLOE)」がハンドクラフトの精緻さと楽しさを伝えるワークショップを開催するとの知らせが。ラグジュアリーブランドのモノづくりに職人の手仕事は欠かせないものの、実際に体験できる機会はなかなかありません。「本やユーチューブを見ながらはハードルが高いけれど、レクチャー付きなら!」と挑戦してみたところ、とても楽しく、「クロエ」がワークショップで伝えたかったことが分かったので、ぜひシェアさせてください。
環境問題や社会活動に
積極的な「クロエ」
ワークショップの前に、「クロエ」の最近の取り組みを振り返りましょう。今年でブランド創業70周年を迎える同ブランドは、2021年9月にラグジュアリーメゾンとして初めてBコープ認証(社会や環境に配慮した公益性の高い企業に与えられる国際認証。取得のハードルは極めて高いことで有名)を取得しました。現在もガブリエラ・ハースト(Gabriela Hearst) =クリエイティブ・ディレクターを中心に、サステナビリティや社会活動に積極的に取り組んでいます。2022年春夏コレクションでは、リサイクルカシミヤやレザーワーキンググループ(Leather Working Group)認定レザー、デッドストックなど、全体の58%に環境負荷の低い素材を使用。さらにコレクション内で、サステナブルな素材と職人の手仕事を融合する新プロジェクト“クロエ クラフト(Chloe Craft)”も発表しました。同プロジェクトで披露したのは、クロシェやマクラメ、ハンドステッチングといった、機械では表現できない繊細な職人技を施したバッグやドレス。産業化されすぎたファッション界にトレーサビリティーと透明性を築き、顧客と地域生産者のより深いつながりを目指しています。
そして、“クロエ クラフト”のローンチに合わせて開催したのが、私が参加したワークショップ“クロエ クラス(Chloé Classes)”なのです。参加者は実際にコレクションに採用したクロシェ、マクラメ、ハンドステッチングの3つのコースから選択でき、私はクロシェ編みに挑戦しました。
基礎から学ぶ“クロエ クラス”
開催場所の「クロエ」銀座店に着くと、各席に毛糸やかぎ針、ボタンなどが入ったキットが用意されていました。この日講師を務めたのは、編み物作家であり、NPO法人 LIFE KNIT 代表の横山起也先生。イベントや学校で数多くのワークショップを開催し、社会問題と手芸を絡めたコラムなども執筆している手芸のプロです。
ビギナー向けのクラスということで、前半はウォーミングアップを兼ねた編み物の基本のキから。編む時に大事な手の形“キツネの手”や、糸の適度なハリ具合、作品の出来に関わるという糸始末などを一つずつ丁寧に教えてもらいました。まずは手編みで練習し、ある程度できるようになったら、かぎ針にシフト。私は集中するとかぎ針を持つ手に力が入る癖があるようで、そういった癖や疑問もその場で解決法を伝授してもらえたのが心強かったです。「職人の技術ってやっぱりすごい」と実感し、なんとなくポーチの形が見え始め、編み物にも慣れてきたかも!というところで、残念ながら体験時間は終了。2時間半のクラスはあっという間でした。
「クロエ」が編み物に
焦点を当てたすごさ
ここまで編み物にどっぷり向き合う機会はめったにないので、横山先生に話を聞いてみました。「編み物は、家でできる趣味としてコロナ禍で再注目されましたが、実は歴史や社会とも深い関わりがあります。戦時中は、文字の代わりに結びを暗号のメッセージとして使用していた背景もあるんですよ」と、教えてくれました。
「クロエ」がコレクションで披露したハンドクラフトについては、「“ハンドクラフト”というと難しい技術に偏りがちですが、『クロエ』はシンプルな技術を取り入れながらも、既視感がなく、格別に美しい」と絶賛。そして、「長年積み重ねられてきた伝統技術をデザイナーが拾い上げ、生かしていることが素晴らしいですね。少数民族の工芸品は長い間抑圧されてきた過去があるからこそ、そういった技術をラグジュアリーブランドが起用することは、ダイバーシティにもつながる」と、メゾンの取り組みをたたえていました。
超入門でしたが、実際に手を動かしながら職人たちの手仕事を体験することで、職人技術の精巧さや商品一つ一つの背景、ハンドクラフトの奥にあるストーリーを少し垣間見られた気がしました。