ファッション

火の玉「リック・オウエンス」や夢の遊び場「ルイ・ヴィトン」に圧倒されっぱなし 2023年春夏メンズコレ取材24時Vol.6

 2023年春夏コレクションサーキットの皮切りとして、各都市のメンズ・ファッション・ウイークが開催しています。日本から渡航する関係者は多くないものの、「WWDJAPAN」は今季も現地取材を敢行し、現場から臨場感たっぷりの情報をお届けします。担当するのは、大塚千践「WWDJAPAN」副編集長とパリ在住のライター井上エリの2人。今回は「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON」や「リック・オウエンス(RICK OWENS)」「アミ パリス(AMI PARIS)」など、壮大な世界観を堪能したパリメンズ3日目をリポートします。

9:30「ランバン」

 朝イチは「ランバン(LANVIN)」のプレ・スプリング・コレクションの展示会へ。メンズは、クラシック回帰を掲げてテーラリングを強化。5スタイルのテーラードスタイルを軸に、創業者ジャンヌ・ランバン(Jeanne Lanvin)にオマージュを捧げたディテールや美しい手仕事、バリエーション豊かな素材使いで同ブランドらしいクラシックを探求します。クリエイティブ・ディレクターに就いて3年目を迎えたブルーノ・シアレッリ(Bruno Sialelli)は就任直後こそファンシーすぎるクリエイションに賛否両論だったものの、ここ最近はマーケットの感覚をつかんできたのか、テーラリングもトレンドを取り入れつつそつのないクリエイションです。上質な素材使いと、キーカラーの一つである爽やかなペパーミントグリーンのスーツが特に気になりました。

10:00「レインズ」

 デンマーク発「レインズ(RAINS)」が、パリで2回目となるショーを開催しました。会場となったパリ北部にあるモダンギャラリー、サンクワトロまで中心地から30分。パリは東京23区の6分の1しかない面積の小さい街なので、30分と聞くとかなり遠く感じちゃいます。朝一に遠い会場とあって、座席の最後列はほぼ空席でした。

 「レインズ」は雨の日のファッションを楽しむことをコンセプトに、2012年に創設したブランド。数シーズン前からタンネ・ヴィテル(Tanne Vinter)がクリエイティブ・ディレクターを務めており、ファッション性をさらに高めた雨具を発表しています。今季も、雨の憂鬱さを吹き飛ばしてくれそうな原色が彩ります。序盤に出てきたマルチポケット付きのワークウエアジャケットやジャンプスーツ、防水加工を施したリサイクルナイロンのワークパンツやボクサーショーツと、快活でスポーティな印象です。ただ、ファッション性が特別高いわけではなくて、結構ありきたり。雨具という縛りがあるのは確かですが、制限があるからこそ創造性を働かせて、新鮮なルックを見たかったです。

11:30「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」

 体力的に朝が辛くなる3日目の朝は、「オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE)」のショーでエネルギーを注入してもらうのがパリメンズの定番でした。いつもパッション溢れる演出で、爽やかな気分にしてくれます。同ブランドのリアルショー復帰に伴い、それも復活。出迎えてくれるスタッフの方々も、生き生きした表情です。

 会場となったパリ中心部の郵便局で、シャイヨー国立劇場のラシッド・ウランダン(Rachid Ouramdane)=ディレクターが総合演出を担当したショーが開幕しました。コレクションテーマの二面性を、“静と動”として表現するため、序盤はモデルが静かにウオーキングし、次にアクロバティック劇団のXYカンパニー(Compagnie XY)が神々しく登場して、パフォーマンスタイムが始まります。人が人を持って振り回したり、放り投げたりと、優雅だけど豪快、繊細だけど圧倒するパフォーマンスに目が釘付け。服の詳細を危うく見落としそうになるほど、パフォーマンスに見入ってしまいました。ウエアは花器のシルエットや植物の様子に着想し、柔らかい丸みを持たせたり、ふっくらと空気をはらませる分量を用いたり。細かいニュアンスと大胆なパターンで、“静と動”を共存させます。ほかにも綿花をモチーフにするなど、自然からの要素を心地よく融合させたコレクションでした。やはり、最後は大歓声。みんなを元気にしてくれる「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」は健在です。

12:30「リック・オウエンス」

 「リック・オウエンス」はいつもの会場パレ・ド・トーキョー(Plais de Tokyo)の屋外でショーを行いました。会場に到着してまず目に入ったのは、中央の噴水の中にある大きなクレーン。そしてPRからは「タバコは絶対に吸わないでね。フフッ」と注意されます。何かすごいことが起こりそうな臭いがムンムンします。

 今季のコレクションは「リック・オウエンス」流のミニマル。肌が透けるシアーなシルクシフォンとゴワゴワとしたフェルトのようなニット、ユーズド加工したデニムや艶やかなレザーといったバリエーション豊富なテクスチャーは、とても表情が豊か。生地に焦点を当てるためか、ハードウエアが削ぎ落とされています。生地はイタリアの歴史あるテキスタイルメーカー「ボノット(BONOTTO)」と共同開発したコットンやウールで、さらには最も強度が高いと言われるリップストップ(​​格子状にナイロン繊維が縫い込んだ生地)です。リックなりのリアルクローズだとしても、生地の質感とシルエットはインパクト大!中盤以降に登場したフューシャピンクにレモンイエロー、目に刺さるような玉虫色の鮮やかな色彩は、感情を内側から爆発させたような、狂気的なパワーがありました。

 ルックに目を引き付けられていると、突如空中で炎が燃え盛ります。「タバコは絶対に吸わないでね。フフッ」の意味が分かり、思わず「オマイガー」と口から漏れちゃいました。最終的には、クレーンが3つの地球儀型の物体を持ち上げて火が放たれ、最後は水の中にドボンと崩れ落ちる演出です。座席には炎の熱が伝わってきます。感染病、戦争、環境汚染など私たちが現在考えるべき地球規模の問題について、問いかけてくるようでした。地球を守るために小惑星を核爆弾で破壊させる映画「アルマゲドン(Armageddon) 」の内容が、実際に目の前で起こっているみたい。さすが、リック様。

13:30「ウエスト」

 「リック・オウエンス」の炎に呆然としたまま、セカンドシーズンを発表した「ウエスト(OUEST)」のプレゼンテーションへ。アメリカ西海岸の開放的な雰囲気とフランス南西部のウエスタンをコンセプトに掲げるブランドとあって、会場内は平和的な穏やかムードで、リックの世界から現実に引き戻してもらえました。平成2年生まれのデザイナー、アーサー・ロバート(Arthur Robert)は「アミ パリス(AMI PARIS)」でデザインを約10年間手掛けた後、2021年に同ブランドをスタートさせました。今季は1960年代のアメリカンワークウエアをベースに、コーデュロイやスエットのショーツでサーフ要素を盛り込みます。「宇宙的な感覚を入れたくて」と話すアーサーは、ペーパーライクに仕上げたナイロン生地をゴールドに塗って、遊び心を加えました。生地や縫製も良質。ダボっとしたノンウォッシュデニムが今後シグネチャーとして定着すれば、スタイルのバリエーションをさらに広げていけるはずです。

14:30「ルイ・ヴィトン」

 日差しが強くなってきた昼下がり。次はいよいよ「ルイ・ヴィトン」です。毎回ユニークな招待状で楽しませてくれるのですが、今回はボードゲームのセットが届きました。よく見ると、故ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)がこれまで手掛けてきた要素をイラストで描いており、今回のコレクションでも彼が遺したクリエイションの続きが見られそうだと胸が躍ります。

 会場になったルーヴルの中庭クール・カレ(Carré du Louvre)に着くと、そこはまるで夢のような世界。おもちゃのレース場にも見える黄色いレンガの道(イエロー・ブリック・ロード)は、ヴァージルが最初に手掛けた2019年春夏シーズンで着想源にした「オズの魔法使い」へのオマージュでしょうか。すでに涙が出てきたかも。あ、いや、これは大量の汗でした。この日の日差しは強烈で、日焼け止めもなく正面から紫外線を受け続けたゲストの顔は真っ赤っか。でも「ルイ・ヴィトン」焼けなら本望です。コレクションが開始する前に、マーチングバンドがイエローのランウエイを一周していきます。そのダイナミックなパフォーマンスと共に、ショーは開幕しました。

 コレクションは、ヴァージルのチームがクリエイションを見事に継承。メンズ服の原点であるスーツを今の時代に向けてアレンジするスタイルが主軸です。直線的なボクシーシルエットのジャケットやバギーなスラックス、リラックスしたパステルカラー、ストリート仕立てのビビッドカラーやキャッチーなモチーフ、チャンキーなシューズなど、ファンタジーなフォーマルでゲストを夢の世界へと引き込みます。ヴァージルは生前のコレクションで、ダイバーシティをあらゆる手段で発信し続けてきました。そして、ラスト数シーズンは純粋な少年の感性で世界を見るという考え方“ボーイフッド・イデオロギー®(Boyhood Ideology®)”を取り入れており、今シーズンもその要素が随所に見られました。スーツには紙飛行機やハサミ、ペンチなどの立体刺繍が付き、スタジャンにはカートゥーンのパッチをあしらいます。ぐにゃりと歪ませたスポーツウエアは、僕自身も少年時代に憧れたモータサイクルのユニホームにも見えます。終盤は、草木や花々をスーツやアクセサリーにエンブロイダリー。“同じ花は二つもないのだから”というメッセージを訴えた20年春夏シーズンを想起させます。ランウエイを遊び場に変え、ダイバーシティやインクルージョンを夢と共に届けるクリエイションは、今後もさまざまなかたちで引き継がれていくでしょう。この日、ケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)が席から披露した「ロング、リブ、ヴァージル」というラップが頭から離れません。

16:30「アミリ」

 次は、2014年にCEO兼クリエイティブ・ディレクターのマイク・アミリ(Mike Amiri)が立ち上げた、LA発の「アミリ(AMIRI)」に行きました。植物園を見渡せる特設会場で、鋭い日差しにさらされながら待つこと40分。青空に映えるペールブルーの爽やかなスーツルックでショーが開幕です。一見すると、テーラリングを軸としたストリートウエアという昨今主流のスタイルですが、“新世代のラグジュアリー”を掲げるブランド哲学は、バリエーション豊かな生地に現れていました。タペストリー織りのショートパンツやエンボス加工を施したレザーのシャツ、ハンドメイドのパッチワークによるベースボールジャケット、グラフィックを編み込んだカシミアニット。フレアに広がるシルクのトラウザーは、風に乗って美しく踊るように揺れ動きます。グレーからエクリュ、マリングリーンに流れるように色が変化していき、飽きのこない完成度の高さ。正直なところ、ショー前はアメリカのストリートとラグジュアリーを掛け合わせた、数多くあるブランドの一つとしてしか捉えていませんでしたが、いい意味で期待を見事に裏切られました。特定のマーケットから多大な支持を得るブランドの魅力が、品質の高さと独自の生地であることがよく分かりました。これも画面だけでは分からない、現場取材ならでは。

18:30「サルバム」

 藤田哲平デザイナーの手掛ける「サルバム(SULVAM)」は、3回に分けたミニショーでメンズとウィメンズのコレクションを発表しました。会場となったのは、パリ3区に構えたアトリエ兼ショールームの目の前の一般道です。クラシックな生地のテーラリングや、リラックスシルエットのスーツパンツとパターンカットが美しいローライズのジーンズが登場し、肩の力を抜いてリアルに着られるテーラリングを提案します。切りっぱなしのディテールに加え、ステッチを目立たせたり、ポケットの縁をあえて外したりと、「サルバム」の魅力である脱構築的な遊びも健在。生地とディテールにはエレガンスが宿っていて、軸は変えずに進化を遂げています。

 3カ月前にこちらのアトリエ兼ショールームに訪れた時より少し内装が変わっていて、奥のアトリエとショールームに仕切りを作り、創造性を磨く場所として基盤が固まっているような印象を受けました。藤田さんは、「自分たちの場所に仲間を呼びたかった」と、今回この場所を会場にした理由を話します。「肩肘張らずに『サルバム』の洋服を日常の一部として着用して欲しいと思っています。だから街に馴染ませるために、アトリエ兼ショールーム前の一般道をランウエイにしました」と続けました。今季のコレクションにエレガンスが際立っていたのは、昨年フランスで現地法人を立ち上げ、パリで過ごす時間が多くなっていることも影響しているのかもしれません。フランスの美意識に感化されると同時に、日本を外から見ることで生まれる新たな視点もありそうです。止まることなく進化する「サルバム」の今後が楽しみ!

19:00「ドリス ヴァン ノッテン」

 「ルイ・ヴィトン」「アミリ」と強烈な日材を浴び続けたため、体力はすでに限界を迎えつつあります。そんなときこそ「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」のショーで気持ちを高めましょう。今シーズンは、クラシックなメンズウエアにサイケデリックで官能的な要素を加えます。ガレージの現場の人々やカウボーイやなど、 あらゆる男性像をハイブリッドさせながら、高揚感たっぷりに具現化していきます。1980年代にロンドンのクラブシーンで誕生したアシッドジャズのように。太もも丈のショーツやシルクのキャミソールで肌を見せたかと思えば、ウエスタンブーツやポンチョなどのプロテクティブなアイテムも盛り込み、性差やジャンルをハイテンションでリミックスします。ショー後半になるにつれて、その勢いはますます加速。パンツやパッチに大胆に配したレタリングには“DRIES VAN NOTEN”という文字を断片化して配置します。「ドリス ヴァン ノッテン」のショーは、後半にかけてエンジンが加速していくのが毎回楽しいんです。フィナーレでは、コレクションにも使った柄のバルーンがランウエイ横に何本も立ち上がるコンサートのような仕掛け。何かちょっとダサくて愛らしいではないですか。最近は思い切ったデザインも見られるので、新たなチャプターへの進化を予感させるコレクションでした。

20:30「アミ パリス」

 毎回豪華なセットでエンターテイメントを届けてくれる「アミ パリス」のショー。今季は、モンマルトルにあるサクレ・クール寺院(Sacre Coeur)の目の前の広場を会場にしました。パリで一番高い丘のため、景色が最高!映画「アメリ」の撮影地として知られるモンマルトルは、元々パリ郊外の村で、かつてはゴッホ、ピカソ、ルノアールも暮らしていました。今でも芸術家が集い、道端にはたくさんの絵描きさんを見かけます。アレクサンドル・マテュッシ(Alexandre Mattiussi)は今季、風情漂うノスタルジックなモンマルトルに触発されたのでしょう。招待状は、ゲスト一人ひとりに向けた手書きの似顔絵。ちょっと待って、私ってこんな顔!?ってびっくりしちゃうくらいデフォルメされてましたが、良き記念です。

 いつもながら、座席にはカトリーヌ・ドヌーヴ(Catherine Deneuve)やナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)らセレブリティがいっぱい。そしてファーストルックはなんと、映画「アメリ」の主人公役を務めた、フランス人女優のオドレイ・トトゥ(Audrey Tautou)ではないですか。ショーの終盤では、カーラ・デルヴィーニュ(Cara Delevingne)とクリステン・マクメナミー(Kristen McMenamy)という世代の異なるスーパーモデルがラストを飾りました。

 コレクションは、王道パリジャンスタイルを現代的にアップデートした内容です。金ボタンの付いたネイビーのブレザーやピンストライプのテーラード、ボーダーやチェック柄のニット、そしてシンプルなシャツも多用されています。これらにローライズのフレアジーンズやトラックスーツでレトロとストリート、スポーツウエアの要素を見事にミックス。男女で多くのアイテムを共有する中、ウィメンズではマイクロミニショーツとボリュームのあるサイハイブーツで、サイケデリックなスパイスをプラスします。クラシックとストリート、もしくはスポーツウエアの組み合わせは多くのブランドが試みているクリエイションですが、「アミ パリス」のバランスが頭一つ抜けている印象です。カジュアルなのにエレガントで、着飾っているのにエフォートレス。ジュエリーではなくスカーフで飾り立て、ヘアとメイクが自然体なのも、ザ・パリジャンな雰囲気を引き出した重要な要素です。パリコレ前にアレクサンドルと「アミ」CEOに取材した際、年間売上高が過去2年で脅威の4.3倍増と聞きました。今季のコレクションも多くの人に、着たい!と思わせるに十分な魅力を持っていました。

 ショー後は大塚さんと一緒に、モンマルトルの街を歩きながら帰路につきました。パリに住んでいても、ほかのエリアとは異なる趣あるモンマルトルの街並みに、毎回心を揺さぶられます。そしてキレイな夕日に心地よい風。明日からのパリコレ後半戦に向けて、エナジーチャージする時間となりました!素敵な場所に誘ってくれた「アミ パリス」に感謝です。

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