ファッション
連載 鈴木敏仁のUSリポート

ディスカウントストア「ターゲット」と中古ファッションEC「スレッドアップ」が復縁した背景 鈴木敏仁USリポート

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。今回はリユース市場の台頭とデジタルの発展が、アパレルの生態系を根本から変えつつある事例を紹介する。

 ディスカウントストア大手のターゲット(TARGET)が中古ファッションECのスレッドアップ(THREDUP)と提携し、コラボサイトを開設して中古衣料の販売を始めた。ターゲットは2015年に一度スレッドアップと組んでいるのだが、しばらくしてから関係を解消しており、2度目の挑戦ということになる。

 スレッドアップは他社との提携戦略を取っており、3月の決算発表時の情報では提携企業は28社、4月にはアパレル専門店チェーンのパックサン(PACSUN)とも組んでいる。システムをプラットフォームとして他社に売っていて、これを同社はRaaS(Resale as a service)と呼んでいる。提携社数は昨年1年で30%伸びて、今後も増やす計画である。

スレッドアップによる提携の中身

 どういう仕組みなのか説明しよう。まずはターゲットとパックサンのサイトを見比べていただきたい(グーグル検索で「Target 」「thredUP」、または「Pacsun」「thredUP」と打ち込むとページリンクが出てくるので、開いてみてください)。

・使用している画像など若干異なるが、まず画像がありスクロールダウンすると横並びの商品が並ぶという基本的なデザインコンセプトは双方共にほぼ同じである。URLも提携先企業とスレッドアップが並んでおりパターンは一緒となっている。ターゲットやパックサンのECシステム内ではなくて、スレッドアップによるRaaSシステム内なのである。

・中古ECのビジネスモデルの基本は委託で、スレッドアップも例外ではない。ユーザーは発送用のキットをスレッドアップに注文し、売れなかった場合の選択肢として寄付するか送料有料で戻すかを選び、アイテムをパッケージに入れて宅配で返送、スレッドアップが送られてきたアイテムに売価を付けてサイトに掲載し、売れたら手数料を引かれた売上金が支払われる。つまりスレッドアップは在庫を持たないのである。

・これがそのまま提携企業に適用される、つまり入り口としてのサイトには提携企業の名称が付いているのだが、プロセスはすべてスレッドアップが行うのだ。受注し、フルフィルメントし、発送するという一連の作業はすべてスレッドアップとなる。

・違うのはマーチャンダイジングである。ターゲットとパックサンの双方共に自社PB(プライベートブランド)を中心とした品ぞろえとなっているのだが、他社ブランドのアソートメントは異なっている。おそらく両社の対象顧客層に沿って選択していると推測するのだが、たぶんこれがRaaSとしてのノウハウの一つということになるのだろう。

・トレードイン(下取り)用の宅配キットはサイトに注文用のページがあるのだが、これもスレッドアップのプロセスで、キットの発送も下取りの送り先もスレッドアップである。対象アイテムは提携企業のブランドに限定していないので、要するにスレッドアップを利用するのと同じということになる。

・パックサンのサイトからキットを要求しアイテムを送り、売れると売り上げはパックサンでの買い物で利用できるデジタルギフト券として支払われる。つまり販促用途に利用されているのである。執筆時点でターゲットのサイトにはトレードインがないのだが、まだテスト段階なのでこれから追加されるのだろう。

・ちなみにウォルマート(WALMART)は20年にスレットアップと提携しているが、マーケットプレイスのサードパーティーセラーとしての契約で、ターゲットやパックサンのようにサイトが独立しておらずウォルマートのサイト内に溶け込んでいる。試しに検索窓に例えば「Luis Vuiton」と打ち込んでみると良いが、低価格を売り物とするウォルマートで通常の商品と同じように高級バッグが表示されるのは新鮮なものがあるだろう。

 スポーツ用品チェーン最大手のディックス・スポーティンググッズ(DICKS SPORTING GOODS)はアウトドアギア専門の中古EC企業のアウト&バック(OUTO&BACK)と提携し、店舗で下取りをする実験を開始している。リーバイス((LEVI'S))やH&Mなど自前のシステムで参入する企業も増えている。

サーキュラーエコノミーが背中を押す

 昨年公開されたマッキンゼーのレポートによると、今後10年間に中古市場は毎年10~15%程度伸びていくと予測されている。スレッドアップ自らがスポンサーした調査レポートはこれから4年以内に770億ドル市場になるとしている。

 アパレル業界ではサーキュラーエコノミーという表現が使われ、中古の活用もこのサーキュラーの一環である。エコ意識の高まりが後押ししているのだが、とりわけアメリカでは中古をクールと見なす若年層が増えているのもその背景にある。私もティーエージャーの娘たちが中古ECでブランドアイテムを普通の買い物の延長で買って着ているのを見て、これはトレンドとして来ているなと感じたものだ。

 唯一の懸念材料はプロパー市場が食われるカニバリズムだが、もはや後戻りはできないだろう。どこまで伸びるのかが今後の焦点である。

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