世界最大のアイウエア企業であるイタリアのエシロールルックスオティカ(ESSILORLUXOTTICA)のレオナルド・デル・ヴェッキオ(Leonardo Del Vecchio)会長が、6月27日に死去した。87歳だった。
同氏は1935年5月22日、ミラノ生まれ。5人兄弟だが、同氏が生まれる数カ月前に父親が亡くなったため困窮し、7歳から児童養護施設で育った。金型メーカーの見習いとしてキャリアをスタートした後、金属加工の技術を生かして眼鏡用の部品を作ることを思い立ち、61年に25歳でイタリア北東部にあるヴェネト州ベッルーノ県アゴルドでルックスオティカを創業した。67年に眼鏡フレーム全体を生産するようになり、71年にはミラノで毎年開催されている世界最大級のアイウエア国際展「ミド(MIDO)」に「ルックスオティカ」のブランド名で出展。74年に卸売会社を買収し、81年にドイツ市場に進出したことを皮切りに米国などさまざまな市場に参入し、国際的に販路を拡大した。
大きな転機となったのは、同社が88年に「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」とライセンス契約を締結したことだろう。以降、「ブルックス ブラザーズ(BROOKS BROTHERS)」「ブルガリ(BVLGARI)」「シャネル(CHANEL)」「プラダ(PRADA)」「ヴェルサーチェ(VERSACE)」「バーバリー(BURBERRY)」「ティファニー(TIFFANY & CO.)」など多くの一流ブランドとライセンス契約を締結し、事業を拡大した。また、「レイバン(RAY-BAN)」「オークリー(OAKLEY)」「アラン ミクリ(ALAIN MIKLI)」などのブランドも擁している。90年にはニューヨーク証券取引所に、2000年にはイタリア証券取引所に上場した。18年には、フランスのレンズメーカー、エシロール(ESSILOR)と合併。世界に14万人以上の従業員と150カ国以上での販売拠点を構え、売上高160億ユーロ(約2兆2700億円)規模(いずれも合併当時)の巨大企業が誕生した。
合併後、エグゼクティブ・チェアマン兼最高経営責任者(CEO)としてエシロールルックスオティカを率いたデル・ヴェッキオ氏は、イタリア有数の大富豪だった。米「フォーブス(FORBES)」誌によれば、個人資産は250億ドル(約3兆3500億円)以上と推定されており、世界の億万長者ランキングで52位だという。
一方で、同氏は成功を収めてからも自身の生い立ちや苦労を忘れることなく、従業員向けの充実した福利厚生制度を導入している。15年には、自身の80歳の誕生日を記念して、従業員に合計900万ユーロ(約12億円)相当の自社株を付与した。また、新型コロナウイルスの感染拡大が発生した20年4月には、ミラノに新設される病院に1000万ユーロ(約14億円)を寄付。コロナ禍の影響でレイオフ(一時解雇)となったイタリアの工場の従業員には職場復帰まで毎月500ユーロ(約7万円)を支給したほか、コロナ感染により欠勤した従業員に対する賞与カットはしないことを労働組合と合意した。
私生活では3回結婚し、6人の子どもがいる。クラウディオ・デル・ヴェッキオ(Claudio Del Vecchio)=ブルックス ブラザーズ前会長兼CEOはその一人。