経済産業省(以下、経産省)はこのほど、「2030年に向けた繊維産業の展望」と題し、繊維ビジョンを発表した。これはつまり「国が日本の繊維産業の現状をどう見て、今後どのような政策を打ち出すのか」の青地図である。活性化の施策として掲げる3つの戦略について、同省の永澤剛製造産業局生活製品課長に聞いた。
WWDJAPAN(以下、WWD):前回の繊維ビジョンの発表が2007年だから、15年ぶりの施策発表となる。
永澤剛・経済産業省製造産業局生活製品課長(以下、永澤):新型コロナを背景に産業の構造的変化が加速した中で繊維産業の2030年を見据えるため、産業関係者や有識者14人の委員で構成する検討会を重ねロードマップを策定した。これは繊維産業を経産省としてもしっかりサポートしていくという、ある意味業界に向けたメッセージだ。
WWD: ホームページに公表した同名の資料には、繊維産業の概況や各地域の繊維産業の特徴まとめといったデータ資料に加え、今後の政策が書かれているが、ざっくりとそのポイントは?
永澤:新市場開拓のため、サステナビリティの推進とデジタルの加速を前提に3つの戦略分野としてまとめた。①新たなビジネスモデルの創造、②海外展開による新たな市場獲得、③技術開発による市場創出、だ。
WWD:新しいビジネスモデルの創造に向けて、「ファッション・ビジネス・フォーラム」を年内に立ち上げる。その目的は?
永澤:一言で言えば新たな“稼ぐ力”の創出だ。現在、多くの産地企業はOEMの生産が主流と思われるが、大手アパレルとの取り引きが減少している中、新たな収益源を探さなければ生き残りは図れない。
WWD:具体的には何をするのか。
永澤:マッチングを考えている。ファクトリーブランドとその独立支援は以前からある施策だが、今は消費者が産地や工場と直接コンタクトをとり、プロセスにも関わる“応援消費”といた新しい動きが増えている。さらにデジタルやスタートアップ企業の存在でマッチングの形も変わってきている。このフォーラムを通じて産地企業とデザイナー、インフルエンサー、DtoC、アパレル、ECプラットフォーム、他分野の企業などを結び、賃金上昇や人材獲得などにつながる好循環を創出したい。
WWD:公開資料にある「繊維産地サミット」とは?
永澤:「ファッション・ビジネス・フォーラム」を一丁目一番地で、そこから広げて産地間の連携を強化したい。産地を有する約27の地方公共団体により構成するのが「繊維産地サミット」で、7月に開催を予定している。実際に産地を訪れてみると、自治体同士は意外と連携していないことも多いことがわかる。国内の産地には就業者数や出荷額の減少など共通の課題があり、有効な取り組みを共有・横展開してゆくことが望ましい。それぞれが地場産業を盛り上げるために取り組んでいることを共有したり、産地間コラボや協業をしたりする予定だ。
WWD:1枚の服は複数の素材や技術でできており、実際制作時にはデザイナーが複数の産地をもって回わることも多い。産地間、自治体間の協業は確かにもっとあっていい。
永澤:東京を介さず産地や自治体同士の自然発生的なネットワークが生まれたらなおいい。
また、事業継承などの促進も進めたい。事業継承・引き継ぎ後の設備投資や販路開拓などの経営革新にかかる費用などを支援したり、産業競争力強化法により事業再編計画として認定した取り組みを税制優遇や金融支援などの支援措置により後押ししたりする。
WWD:2つ目の戦略「海外展開による新たな市場の獲得」とは。
永澤:国内の人口減少が進むと想定される中で、拡大する海外需要を取り込むことは重要。また、海外から評価される日本の技術⼒を背景に、日本企業は海外展開のポテンシャルを有している。今後、より一層、海外展開を推し進めていくために、関係機関による情報共有・検討の場を設置する。関係機関は、一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構 (JFW)、クールジャパン機構、独立行政法人中小 企業基盤整備機構、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)、日本繊維産業連盟をはじめとする業界団体、経済産業省などで構成する。
「繊維から繊維へのリサイクル」の技術開発
WWD:最後に3つ目の「技術開発による市場創出」とは?
永澤:繊維産業が発展するには、技術力において他国に引けをとらないことが重要。産学官が連携し、技術開発を進める。具体的にはたとえば「繊維から繊維へのリサイクル」だ。洋服はご存じの通り複数の繊維が混じっており、その分離・分別は相当に困難。そのブレークスルーを “技術研究組合”のような組織を作り化繊メーカーなどが企業の枠を超えて包括的に研究開発し、実現したい。大規模な投資を必要とする数年単位の話だが、サステナブルなファッションを本気で実現するならば、この限界を超えないと。
WWD:すべての素材で服から服への水平リサイクル。それが実現したら世界から必要とされる技術になる。
永澤:ほかにも導電性繊維などのスマートテキスタイル、ヒューマンインターフェースとしての繊維製品、バイオ素材の普及、無水型染色加工、オープンプラットフォームによる事業家推進なども考えられるだろう。いずれにしてもスピード感をもって可能とするため、「新市場創造型標準化制度」などにより柔軟かつ間口の広い企画開発を支援したい。また、国際標準化交渉をリードできる若手人材の育成をするためのプログラムなどを通じて人材の確保も支援する。