フランス・パリ発ジュエラー「ショーメ(CHAUMET)」のジャンマルク・マンスヴェルト(Jean Marc Mansvelt)最高経営責任者(CEO)が2年半ぶりに来日した。今回の来日の目的は、日本の市場動向を肌で感じるためだ。同CEOは、1990年から(他社に在職中も)2019年まで、毎年3カ月に1度は来日。「コロナ禍の2年半は、まるでバツゲームのように来日いる」と親日家の一面を見せる。マンスヴェルトCEOにコロナ前後の市場の変化や日本市場、今後の戦略について聞いた。(PHOTOS:TSUKASA NAKAGAWA)
WWD:コロナが落ち着きつつあるが、コロナ禍と比べてここ数カ月の商況は?
現在、好調な市場とその理由は?
ジャンマルク・マンスヴェルト=ショーメ最高経営責任者(CEO以下、マンスヴェルト):コロナ禍で世界的に各市場に特化したサービスに注力したことで、それぞれの市場のビジネスが伸びている。コロナで絆を象徴する結婚やギフトのジュエリー需要が高まった。日本では、コロナ禍で旅行できない代わりに、長期間使える価値のあるものの需要が増えている。7〜8年前から本格参入した中東市場もとても伸びている。中東に関しては、ほかのビッグメゾンの露出が増えているのと相乗効果で「ショーメ」への注目がアップしている。まずは、誰でも知っているビッグメゾンのジュエリーを購入する顧客が多いが、多くの人が着用しているのを見て、違うものが欲しいと思うようになる人もいる。われわれは、2世紀半以上の歴史を持つメゾンで価値あるジュエリーを作り続けている。だから、単なる他のブランドの代替品ではない。
日本は本当に好調で誇りに思っている。
WWD:コロナ禍でデジタル強化をせざるを得なかったと思うが、強化ポイントは?
デジタル販売の割合は?
マンスヴェルト:店舗をクローズせざるを得なかった時期は販売を遠隔で行うしかなかった。スタッフがライブストリームや電話で顧客に連絡して商品をお届けしたこともあった。2021年末には、フランスでECをスタート。日本でも今年末までにオープンし、少しずつ広げていくつもりだ。現在、ECの売り上げの割合は4〜5%程度だ。消費者がメゾンに触れる入り口はいろいろあるべき。しかし、やはり来店してもらい商品やサービスを体験してもらうことを大切にしたい。ジュエリーは身に着けるものなので、実際手に取って納得して購入してもらいたい。
文化の継承、そして最高の場所で最高のサービスを提供
WWD:昨年秋に横浜で開催したハイジュエリーイベント「フランスと日本文化のConversation―ショーメのサヴォワールフェールと日本の名匠3人の対話」を企画した理由と目的は?一般に公開したが来場者数は?
マンスヴェルト:「ショーメ」は世界に開かれたメゾン。19~20世紀には世界の王族から特注品の注文があった。ヴァンドーム本店に昭和天皇をお迎えしたこともある。だから、世界中の文化からヒントを得て作品をデザインしてきた。このハイジュエリーイベントは日本との交流の証であると同時に、日本のアルチザン=匠への敬意を示したもの。日本の伝統工芸である、竹細工や刀、盆栽など、ジュエリーの金細工とは全く異なるものだと思われがちだが、本質は同じ。それらの対話を展示を通して試みた。また、これは、私の日本への愛を表すものでもある。あいにく、来日は叶わなかったが。顧客への販売にもつながったし、6日間の一般公開で約8000人もの来場があった。美しいものは、分かち合うべきだと思う。
WWD:現在の日本市場の課題と今後の戦略は?
マンスヴェルト:「ショーメ」は控え目なメゾン。より多くの人に知ってもらうのが課題だ。ただ、他のブランドとは違うセレクティブなメゾンというポジショニンング。だから、20年には、店舗数を18から11に絞った。店舗が多ければいいというわけではない。効率化を図ると言う意味でも、より、セレクティブな場所で最高のサービスを提供するのが目的だ。将来的には、いい場所があれば出店しようと思っている。今年は、既存店のリニューアルをしてサービスを充実させるつもりだ。
2世紀半培われてきたストーリーを現代に
WWD:現在日本で好調なファインジュエリーとその理由は?
マンスヴェルト:“リアン”とブライダルで人気の“ジョゼフィーヌ”、 “ビー・マイラブ”の3つのシリーズが絶好調だ。“リアン”は絆を象徴するデザイン、“ジョゼフィーヌ”はナポレオン皇帝の妃で2人の愛を象徴するもの、“ビー マイラブ”は、ナポレオンの紋章と全てにストーリーがある。それぞれバリエーションも多くあり、重ね付けもできる。
特に“ビー・マイラブ”は若い層に人気が高い。
WWD:今後、強化していく市場や課題は?
マンスヴェルト:各市場を強化していく。われわれは12カ国でしか展開しておらず、同業他社と比べるとかなり少ない。だから、ポテンシャルはまだまだある。
WWD:ミレニアル世代やZ世代に対するコミュニケーションやアプローチは?
マンスヴェルト:若い世代に対しても、SNSなどを使ってコミュニケーションしていく。大切なのは、「ショーメ」は、新しいストーリーを作りだすメゾンではないということ。2世紀半培われてきた歴史とストーリーを紡いでいるメゾンであることを誠意を持って伝えたい。
伝統だけに頼っているわけではなく現代性ももち合わせて永続性のあるメゾン、それが「ショーメ」なのだ。