「マックスマーラ(MAX MARA)」は、ポルトガル・リスボンで現地時間6月28日にクルーズ(プレ・スプリング)コレクションを発表しました。イタリア初の同ブランドがなぜ、発表の舞台ににポルトガルを選んだのでしょうか。現地取材を通じて、その理由を探りました。
6月27日 18:00 リスボンに到着
パリ・メンズ・コレクションの取材を終えて、すぐにポルトガル・リスボンに飛びました。現地の気温は25度前後で、風が程よく冷たくてとても気持ちいい気候です。この日はショー前日のディナーということで、ホテルに到着して15分後に会場に出発。慌ただしいスケジュールにアワアワしていたものの、ディナー会場のマルケゼス・デ・フロンテイラ宮殿(Marqueses de Fronteira)に着くとそんな気持ちは吹き飛びました。1671年に建てられた宮殿は、右を見ても、左を見ても、上も下も、視界に入る全てが美しく、サンセットに照らされた色彩豊かな装飾タイル“アズレージョ”や緑が生き生きと生い茂る庭が、長旅の疲れを癒してくれます。まるで夢でも見ているかのような空間で食すディナーはどれも上品で格別。最後は、ポルトガルの民族歌謡ファドを女性歌手カルミーニョ(Carminho)がライブで披露し、各国から招待されたゲストたちは素敵な夜を楽しみました。“運命”を意味するファドは、名前こそあまりなじみがないものの、ギターの伴奏によるエモーショナルな民謡を聴いているうちに、何だか懐かしい気持ちになってきます。このまま、ここに住めないだろうか。23時ごろにホテルに戻ると、街はパーティでまだまだ盛り上がっています。平日ですが、ポルトガルの人たちはとっても元気なんですね。
6月28日 10:30
リスボンの街をトゥクトゥクで巡る
夢のような一夜の翌日は、ショーの前にトゥクトゥクで街を巡りました。パステルカラーの建物や、きれいな“アズレージョ”を見ているだけでも飽きません。心地よいポルトガルの風に吹かれながら、テージョ川沿いのベレンの塔(Torre de Belem)や発見のモニュメント(Padrao dos Descobriments)など名所を訪れました。巨大な建造物がある一方で、街にはウォールアートや繊細な“アズレージョ”がたくさんあり、芸術の街としての魅力を肌いっぱいに感じました。帰りには、行列ができる有名店パステイシュ・デ・ベレン(Pasteis de Belem)で、ポルトガルの国民的お菓子であるエッグタルトを購入。さっくさくで何個でも食べられるやつ。
18:30 会場のギャラリーを散策
リスボンをたっぷり満喫した後は、いよいよショー会場のカルースト・グルベンキアン美術館(Museu Calouste Gulbenkian)に向かいます。1969年に開いたギャラリーの中には、アルメニア人のカルースト・グルベンキアンが集めた世界各国から個人で集めた美術品を展示。欧州やアフリカからアジアまで、大小さまざまな貴重品が広々とした空間にジャンルレスに並びます。美術館の18世紀フランスの絵画や彫刻、装飾美術などのディスプレイは、「マックスマーラ」の支援によって改修するのだとか。この感じずっと見ていられるのですが、ショーがいよいよ始まりそうです。亜熱帯植物が生い茂る庭園に移動しましょう。
20:00 いよいよショーが開幕
ゲストには、アメリカ人俳優のクレア・デインズ(Claire Danes)やアシュレイ・パーク(Ashley Park)をはじめ、各国からアーティストやインフルエンサーらの姿が見られます。美しいドレスと建築に囲まれた空間にファドが響き渡ると、「マックスマーラ」2023年クルーズ・コレクションのショーが開幕しました。
イアン・グリフィス(Ian Griffiths)=クリエイティブ・ディレクターが同コレクションのミューズに選んだのは、詩人であり、社会活動家でもあったポルトガル人のナタリア・コレイア(Natalia Correia)です。グリフィスが昨年この美術館を訪れた際、コレイアの肖像画を目にしたことが今回のショーにつながったといいます。コレイアが主張したフェミニズムは、官能性と情熱的なフェミニニティを強く訴えたといい、コレクションにも彼女が思い描いた女性像を表現しています。ファーストルックは、ボリュームのあるシルエットのブラックケープに、花の装飾が付くインナーを合わせた、凛とした女性像を想像させます。その後もベーシックなアイテムにツイストを加えた提案が続きました。シンプルな白シャツをクロップ丈にしたり、ジャケットをスリーブレスにしてクラシックなラペルを強調させたり。スカートの裾に付くフリルのわずかな揺れが、官能的なムードをいっそう引き立てます。シャープなシルエットで、クロップ丈のインナーや網タイツの提案が多いものの、これ見よがしなセクシーではなく、柔らかい素材感とクリーンな色使いがヘルシーで、知性と品格がにじみ出します。そして、胸がV時型に大きく開いたブラックドレスの女性が登場すると、ゲスト席からは歓声が上がりました。どこかで見たことがあると思ったら、昨夜素敵なライブを披露してくれたカルミーニョがモデルとしてランウエイを歩くサプライズでした。
中盤以降は、ボタニカルやハート柄、深いトーンのパープルやオレンジ、ブルーといったカラーが加わり、クリーンなスタイルに徐々に情熱が灯っていきます。亜熱帯植物の中を、プリーツがたっぷり入ったカラフルなロングドレスを身につけた女性たちが歩く姿は、女性性を謳歌しているかのように堂々と映りました。そんな中、メンズモデルが急きょ登場してゲストを驚かせます。同ブランドの長い歴史の中で、男性がランウエイを歩いたのは初めてのこと。太もも丈のショーツにTシャツというカジュアルなスタイルに合わせたコートは、「マックスマーラ」のアイコンアイテムの一つ、“マニュエラ”でした。女性用として提案してきたラップコートではあるものの、男性が袖を通しても魅力的であることは、その場にいた誰もが感じたでしょう。ユニセックスでも着られる意図を伝えると同時に、フェミズムは押し付けるものではなく、女性も男性もそれぞれの性を型にとらわれることなく存分に楽しめばいいというグリフィスのメッセージなのではと僕は感じました。
「マックスマーラ」とポルトガルの共通点
フィナーレでは全員が色のドレスやスーツをまとい、パープルやオレンジ、深いグリーン、イエローと強いカラーを連続させてムードを高揚させ、ショーはフィナーレを迎えました。ひと際目を引くような、派手なデザインはありません。しかし服がシンプルだからこそ、ロマンチストであるグリフィスの夢や愛情が、見る人の心にじわっと響いてきます。ポルトガルには、若い女性が恋する男性にあてた愛のメッセージを、刺しゅうでハンカチに描く“レンソス・ドス・ナモラドス”という伝統があるそうです。今回のコレクションに合わせて、地元の職人とコラボレーションし、愛の詩を綴った“レンソス・ドス・ナモラドス”をアップリケしたTシャツがゲストにプレゼントされました。パリメンズ終わりでバタバタしていた自分はどこへやら。内なる情熱を秘めたポルトガルと「マックスマーラ」から愛をたっぷりもらったクルーズの2日間は、とても爽やかな日々でした。まるで、ポルトガルの街で感じた風のように。