ファッション

アメリカの中絶禁止に反対を表明するデザイナーやファッション企業 今何が起こっている?

 米連邦最高裁は6月24日、人工妊娠中絶の権利を合憲だとした1973年の“ロー対ウェイド(Roe v. Wade)判決”を覆す判断を示した。これにより中絶の合法性を各州で決定できるようになったため、多くの州で中絶が禁止になる見込みだ。従業員や顧客に多数の女性を抱えるファッション業界は、これにどう反応しているのか。デザイナーや企業、著名人らのコメントを紹介する。

トリー・バーチ(Tory Burch)/「トリー バーチ」デザイナー

 アメリカの女性にとって大きな後退だ。50年の進歩は一夜にして消え去り、今日の女性は自分達の母親や祖母より権利が少ない状態で生きることになった。「トリー バーチ」の基本に女性のエンパワーメントを据えている。従業員がどこに住んでいるかに関係なく、必要なケアを確実に受けられるよう体制を整えることを約束する。住んでいる州の外に行かなければいけない場合を想定し、福利厚生制度も見直している。中絶の権利は州議会によって決定されているので、ジェンダー平等のために闘い、未来を守る州議員を選出していかなければならない。

フィリップ・リム(Phillip Lim)/「3.1 フィリップ リム(3.1 PHILLIP LIM)」デザイナー

 はっきり言うが、“ロー対ウェイド判決”を覆すことに、大多数のアメリカ人は賛成していない。これは司法機関が政治的なゲームに利用されてしまった結果だ。女性の選択の権利が、本人の人生やその複雑さを差し置いて、保守的な宗教観に基づく人々の考えによって奪われたことにうんざりしている。これは人権の進歩に対する打撃であり、社会の中で最も脆弱な集団への継続的な攻撃だ。

ミシェル・オバマ(Michelle Obama)

 自分の体について、十分な情報を得た上で決断するという基本的な権利を奪われてしまった全ての人のことを思うと胸が張り裂けるようだ。“ロー対ウェイド判決”が下される前、つまり違法な中絶によって女性が命の危険にさらされていた悲劇的な時代にまた戻ってしまう可能性があるのかと心を痛めている。

ギャップ(GAP)

 われわれの強力なチームは、全ての従業員の健康と幸せが確保されて初めて生まれるもの。チームの76%を女性が占めている。最近の従業員のイベントでは、企業として提供するメンタルヘルスと家族計画について共有した。家族を築くにあたって、企業はその方法や時期に関係なくサポートするべきだからだ。当社の福利厚生は、養子縁組から代理出産、不妊治療、有給の育休・産休、避妊、流産などもカバーする。ギャップのヘルスケアプランの対象である従業員は、どの州にいてもこれらにアクセスが可能だ。どこに住んでいるか、どのような選択をするかにかかわらず、人生において重要な決断をする従業員をサポートすることを約束する。

プラバル・グルン(Prabal Gurung)/「プラバル グルン」デザイナー

 国がどのような立場をとってどれほど進んでいるかは、私たちがどのような人間であるかについて多くを物語る。私たちの政治システムへの関心の薄さがドナルド・トランプ(Donald Trump)前大統領のようなリーダーを選出し、保守的な裁判官を任命する立場に就かせてしまった。彼らが“ロー対ウェイド判決”を覆し、この国を動かし、世界を数十年前に戻してしまった。だが悲劇はきっとここで終わらない。保守派はLGBTQ+コミュニティーの権利や同性婚、避妊の権利など、そのほかの多くの基本的人権を奪うべくさまざまなことに取り組んでいるだろう。多くの女性によって支えられているファッション業界は、ここで声を上げるべき。SNSが発達したいま、フォロワーが1人でもいればオーディエンスとプラットフォームを持っていることになる。業界の一員として、物事を“前進”させるために行動することは倫理的な義務であり、責任だとも言えるだろう

ジョジー・ナトリ(Josie Natori)/「ジョジー・ナトリ」デザイナー

 今回の決定は進歩の大きな妨げであり、過去半世紀にわたって女性が成し遂げてきたことを振り出しに戻してしまった。生命の尊厳を信じているが、自分の体のことを自分で決めるという、女性の人権を強く支持する。

カプリ ホールディングス(CAPRI HOLDINGS)/「マイケル・コース(MICHAEL KORS)」「ジミー チュウ(JIMMY CHOO)」「ヴェルサーチェ(VERSACE)」親会社

 ジェンダー平等を推進し、女性をエンパワーすることは、カプリ・ホールディングスの価値観の中核だ。当社の場合、アメリカの従業員の75%以上が女性。“ロー対ウェイド判決”が覆されたことを受けて、当社では性と生殖に関する健康と権利に関する福利厚生の範囲を広げ、住んでいる地域で安全な中絶が受けられない女性を支援することを決定した。女性従業員をサポートするため、この重要な一歩を踏み出したことを誇りに思う。

エスティ ローダー(ESTEE LAUDER)

 われわれはフルタイムおよびパートタイムの従業員に、性と生殖に関する項目も含んだ包括的な福利厚生を提供し、個人の健康と福祉に関する決定を保障する。エスティ ローダーの医療保障プランに加入している従業員やその扶養家族が、住んでいる地域で利用できない医療サービスがあった場合の必要経費なども保障する。

ユニリーバ(UNILEVER)

 従業員への包括的な性と生殖に関する福利厚生の提供を約束するとともに、本人やその扶養家族が住んでいる地域で利用できない医療があった場合の旅費をユニリーバが負担する。ドント・バン・イクオリティー(Don’t Ban Equality、平等を奪うな)連合にほかの100以上の企業とともに参加し、安全なヘルスケアへのアクセス、自立した生活、職場での活躍を支援する。今後も最高裁判所の判決による影響について注視していく。

バラク・オバマ(Barack Obama)元米国大統領

 最高裁判所は50年近く経つ判例を覆しただけでなく、最も個人的であるべき決定を政治家やイデオロギー信奉者の気まぐれでながしろにし、何百万人ものアメリカ人の本質的な自由を攻撃した。

アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)/「グッチ(GUCCI)」デザイナー

 アメリカの最高裁判所は、女性の自由に対して許しがたい攻撃をした。

リック・オウエンス(Rick Owens)/「リック・オウエンス」デザイナー

 なんという大きな失望。私たちみんなでまた取り組んでいかなければいけない。

ラルフ ローレン(RALPH LAUREN)

 これまでもそうしてきたように、全ての人のヘルスケアに関するどのような選択も尊重する姿勢を貫く。さまざまな医療サービスと同様に、性と生殖に関する医療においても、旅費を負担するなどして引き続き支援する。

ヴィクトリアズ・シークレット(VICTORIA’S SECRET)

 女性が自分らしく生きることを支持し、彼女たちの人生を支える企業の1つとして、われわれは女性の自己決定権を基本的人権と捉えている。女性が自分の人生について決断でき、社会に完全かつ平等に参加できると、家族やコミュニティーが一層強くなり、文化はより豊かになり、平等な世界に向かって進んでいく。だからこそ医療機関が提供する安全な中絶へのアクセスを含む女性の選択をサポートする。当社は、女性自身が自分にとって最適な選択ができると確信している。

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