東京・大久保のアパートの一室に構えるのが、週末限定の予約制ブックストア、ロンリネスブックス(Loneliness Books)だ。同店には、アジア各国からクィアやジェンダー、フェミニズム、孤独や連帯にまつわる本やジン、クィア映画のグッズやポスターなど、注目の新作から、中古や古本などの一点ものまでが並ぶ。室内は同店を運営する潟見陽オーナーの自宅も兼ねており、グラフィックデザインや映画に精通する同氏だからこそ作れる安心感のある空間だ。寂しさを意味する店名の“ロンリネス”は、友人の「潟見くんがやるならロンリネスじゃない?」の一言で決まった。「孤独だからこそ、それをかてにして誰かとつながろうとするから、ポジティブな意味もある」という。
今回は、ファッション&ビューティ業界に届けたい書籍を潟見オーナーに選んでもらった。ファッション&ビューティ業界ではジェンダー規範を打ち破るような取り組みが見られ、マイノリティーが多くいる。だからこそジェンダーについてもっと理解が深まるものや、新たな知見となるもの、ファッション&ビューティに関連性が高く楽しめそうなもの、という観点から選んだ4冊を紹介する。
後編は若者に贈る4冊を紹介>>>
ファッション&ビューティ業界人に贈る!
ジェンダーとLGBTQ+の視点から社会問題を解き明かす本4冊
【選書にあたって/あとがき】
今回「ファッション&ビューティ業界に贈る4冊」を選ぶ上で、欧米を起点にこの業界が政治的なアクションをやっているのは知っていたので、応援の気持ちを込めて選びました。日本で日常的に見る広告は未だルッキズムを強化するものが多く、悪影響を生んでいるのではないでしょうか。課題を抱えている部分はまだまだありす。今回の選書にはこの業界を目指す人や、業界人にとって政治的アクションを起こすきっかけ、違和感を感じていいんだと肯定される本が並びます。今のロンリネスブックスは書店兼ライブラリースペースですが、今後は店舗にしたいですね。
【ロンリネスブックスとは】
潟見オーナーは、映画ポスターやパンフレットを手掛けるグラフィックデザイナーでもあり、自ら出版物を手掛けることもある。週に1回バーテンダーをしている新宿のバーで、毎週1〜2冊をピックアップして紹介したり、ブックショップを昼間に開催したりしている。クィアやジェンダーの出版物に興味が向いたのは、2011〜12年ごろ。LGBTQ+コミュニティーの定期創刊物のデザインの依頼や、周りの友人らと話していくうちに、自身でも制作しながらそれらに深く関わるようになっていった。社会問題や同性婚についての対話が増え、自身もLGBTQ+コミュニティーに属する当事者として、このトピックスにまつわる対話を増やしていきたいという願いで運営する。
書店オープンのきっかけは、2019年に東京レインボーパレードにクィア当事者やクィアな事柄を扱うブースに知人らとともに出展したこと。もともと本やジンを集めるのが好きで、それを多くの人にも届けたいという思いで始めた。2015年ごろから韓国や台湾のクィアやジェンダーについて扱う書籍を現地で見たり、製作者らと交流したりし、東アジアのジェンダーやクィアの出版物をキーワードにそろえた。東アジアでは若い世代を中心に出版物を通じて幅広い表現が行われており、それに刺激を受けたという。その後、自宅兼事務所だった大久保のアパートの一室にロンリネスブックスを開いた。店内にはジェンダーだけでなく、アジアのカルチャーを扱う書籍も多い。多国籍な大久保ならではの空気を、ストアに凝縮したいと考えているそうだ。
予約制にしたことで、安心感のある空間として好評だ。時間のスロットは約2時間。来店者は本を読んだり、友達と話したりして、たっぷり2時間を過ごすことがほとんど。予約者と同行する人のみ入店可能なので、ほかの客と会うことはない。「居心地が良く、ずっとここにいたい」という感想が多く寄せられるといい、書店の空間を活用して、プロジェクターを使った映画上映会も開催している。