スペイン・マラガを拠点に活動するアーティストのハビア・カジェハ(Javier Calleja)が、展覧会「ミスター・ギュンター 、ザ・キャット・ショー(MR.GUNTER, THE CAT SHOW)」を渋谷パルコ4階の「パルコミュージアムトーキョー(PARCO MUSEUM TOKYO)」で18日まで開催中だ。カジェハは「ヴァンズ(VANS)」や「ケースティファイ(CASETIFY)」とのコラボレーションや、渋谷パルコの1周年記念イベントでは大型立体作品を制作するなど、幅広く活動している。同展では、日本未発表の大型立体作品2点や新作ペインティング、ドローイングを展示するほか、会場内の随所にカジェハの愛猫“ギュンター”をモチーフとした作品も設置している。開催に合わせて来日したカジェハに、アートの道を志したきっかけや、“BIG EYE(大きな目)”をトレードマークとするキャラクターが生まれた経緯、本展の見所などについて話を聞いた。
ーーまずは、アートの道を志したきっかけを教えてください。
ハビア・カジェハ(以下、カジェハ):小さい頃から絵を描くのが好きで、スペインの有名な漫画家フランシスコ・イバニェス・タラヴェラ(Francisco Ibanez Talavera)の作品をよく真似していたね。ただ、12歳から25歳までは器械体操でオリンピックを目指していて、生まれ故郷のマラガを離れてバルセロナにいるおじさんの家に寄宿していたんだ。おじさんにはずっと「体操選手よりもアーティストの才能がある」って言われていたんだけど、若い頃の僕は反抗的だったから「アーティストなんて貧乏になるだけだろ」って反対していた。でも、体操選手として25歳を迎えたときにセカンドキャリアを考え、「人生は一度きりだから」と一念発起してアーティストに転身したんだ。
ーーそれから美術学校に通ったんですか?
カジェハ:体育大学を卒業後、グラナダにある芸術大学に通ったんだ。2つの大学の学費を払うために、両替所で7年間も働いたよ(笑)。
ーー現在の作風が確立するまでは?
カジェハ:アーティストを志した当時は漫画的なアートが好きだったけど、スペインは世界的に見てもそれを認める土壌がなかった。だから、初期の頃は彫刻家リチャード・セラ(Richard Serra)や画家ショーン・スカリー(Sean Scully)のようなミニマルな作品を制作しようと試行錯誤していた。ただ、1990年代後半から2000年前半にかけてストリート・アーティストのクリス・ヨハンソン(Chris Johanson)やグラフィティ・アーティストのバリー・マッギー(Barry McGee)、村上隆、奈良美智といった先人たちが、漫画のような平面的な作品でアートシーンに革命をもたらしているのを目の当たりにして、自分の好きなことを貫くスタイルに軌道修正したんだ。
現代アートの世界では、“常に新しい自分のオリジナリティ”で勝負する必要があるんだけど、多くのアーティストが常に新しい作品を生み出さなければいけないことにジレンマを感じているし、新しいことにチャレンジしたと思ってもすでに誰かがチャレンジした後で、オリジナルの作品ではないことも多い。でも、ある時から好きなものを突き詰めるようになったら他人の作品を真似しても自分の作品に昇華できることに気付いて、以前までとは逆の思考になったんだ。無理して自分でオリジナルを生み出そうとすると失敗して、好きなものを模範すれば次第に自分のものになっていく。この時、僕の場合は幼い頃から好きだった漫画的なタッチがベースになったんだ。今回の展覧会でもマウリツィオ・カテラン(Maurizio Cattelan)の作品だったり、いろいろなアーティストのパロディ作品を展示しているよ。
ーー今回の展覧会の開催経緯を教えてください。
カジェハ:今まで自分の軌跡を振り返る機会がなかったから、愛猫“ギュンター”をメインモチーフとしながら、新作と過去6年間に制作した作品を混ぜた内容にしたんだ。感覚的にドローイングには1日、ペインティングには1週間、スカルプチャーには1年を要したかな。東京の後は、地元のマラガやバンクーバー、北京などを巡回するよ。
ーーメインモチーフに“ギュンター”を採用した理由は?
カジェハ:家では猫を4匹飼っているんだけど、“ギュンター”は最初に家族として迎え入れた子なんだ。彼は、この6年間の苦楽を共にして支えてくれたし、キャリアを振り返るにあたって象徴的な存在だったからメインモチーフにした。もともと、僕は作品を日記的なものとして捉えていて、妻や友人、周りにいる人たちをモチーフにすることが多いしね。今、“ギュンター”はキャットシッターと自宅で留守番しているよ。
ーー会場の入り口すぐの作品は、ご自身を模した作品ですよね?
カジェハ:そうだね。2016年にギャラリー「ナンヅカ」で展覧会を開催するために制作した初の大型立体作品なんだけど、スタジオでの制作風景を表したセルフポートレート的なもの。ここにいる猫は、“ギュンター”ではなくスタジオに時々遊びに来ていた近所の野良猫で、壁画は今回のために新しく描いたんだ。実は16年の展覧会のとき、この作品を「ナンヅカ」に運び入れようとしたら頭が大きすぎて入口の扉を壊してもらったり、中国で制作したサンダルを搬入し忘れたのを前日になって気付いて飛行機の手荷物で運んだり、思い出がいっぱい詰まっている作品なんだ(笑)。新作ももちろんだけど、この作品はぜひとも見てほしいな。
■MR.GUNTER, THE CAT SHOW
会期:7月18日まで
時間:11:00~20:00(最終日は18:00まで)
入場料:800円税込/小学生以下無料
場所:渋谷パルコ4階 パルコミュージアムトーキョー
住所:東京都渋谷区宇田川町15-1