ビューティ企業がオンチェーン(ブロックチェーン上に記録される取引)を活用したビジネスモデルへの移行を加速する中、業界最大手のロレアル(L’OREAL)もウェブ3やメタバース戦略の基盤を整え始めている。
「ビューティ業界は、デジタル化からバーチャル化しつつある」と語るのはアスミタ・デュベイ(Asmita Dubey)=ロレアル最高デジタル&マーケティング責任者(CDMO)だ。「O+O(オフライン+オンライン)からO+O+O(オフライン+オンライン+オンチェーン)へ、つまりウェブ2からウェブ3へと転換しようとている。コミュニケーションの方法や働き方の変化、テクノロジーの進歩、各種暗号通貨の台頭などにより2021年、人類は新たなデジタル・リアリティの入り口に立った。現在はプラットフォームに依存しているクリエイターも主導権を取り戻したがっており、クリエイターエコノミー(個人クリエイターの情報発信や行動によって形成された経済圏)も転換期にある」と続ける。
「未来のビューティ業界にはリアル、デジタル、バーチャルという多様な現実が存在するだろう。それぞれの現実は使い方次第だ」と指摘する。ロレアルは現在、ゲームを足掛かりとするオンチェーン美容の基盤を構築中だ。というのも30億人のゲーマーの約45%が女性だからだ。ロレアルのオンチェーン美容はグループのブランドのDNAとひも付き、メタバース上でマッピングすることができる。「メタバース上のさまざまなコミュニティーを観察しながら、クリエイターエコノミーが広がるのであれば、メタ上のさまざまなコミュニティーを介して広がっていきたい。元来ビューティとは極めて社会性の高いものだから、そうすることがブランドらしく、ロレアルらしい」と説明する。
没入型の美容体験も、テクノロジーや5Gで2次元から3次元へと変化している。「われわれはビューティ産業における新たな新たな美のあり方を考えている」とデュベイCDMO。ビューティの表現方法は今後、コラボによる未来的なWeb3.0でのアバターにもなり得る。例えばWeb2.0ではインスタグラムで膨大なフォロワーを有する「ニックス プロフェッショナル メイクアップ(NYX PROFESSIONAL MAKEUP)」は、Web3.0ではいわば“クリエイターのレコード・レーベル”になるかもしれない。「つまり独自性のあるクリエイターが3Dで、より没入感のあるクリエイションを見せてくれたら、それが『ニックス プロフェッショナル メイクアップ』なのだ」という。
デュベイCDMOは、“現実世界では不十分”というタグラインを掲げる「ミュグレー(MUGLER)」をメタバースネイティブのブランドと呼ぶ。「『ミュグレー』はゲームを通して何かを集めるなどの機会を提供することで消費者を惹き付けている。次の世代を、遊びながらテストして学んでいる」と評価し、エコシステムとパートナーシップの構築がカギを握ると話す。大手テック企業だけでなく、NFT市場をリードするオープンシー(OpenSea)のような新興企業との協業も考えられるだろう。
ギーヴ・バルーチ(Guive Balooch)=ロレアル テクノロジー インキュベーター バイス プレジデント)は、「いろんなパートナーと組めば、消費者にも今のシワや毛穴を分析するのみならず、未来に向けてのスキンケア・プログラムを構築できるかもしれない」と述べる。
例えば「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)」のビューティデバイス“ルージュ シュール ムジュール(Rouge Sur Measure)”は、AIを活用したテクノロジーでリップのカラーをパーソナライズし、全体の傾向をコミュニティーで共有するというカスタマイゼーションの未来像だ。「ランコム(LANCOME)」の“シェード ファインダー(Shade Finder)”は、最大2万2500通りの肌色を検知するという。デュベイCDMOは「ロレアルにとって重要なのは、ビューティ業界の未来を形作ることだ」と結んでいる。