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連載 齊藤孝浩の業界のミカタ

コストコに見る年会費に支えられる会員制小売りビジネスモデル【齊藤孝浩のファッション業界のミカタVol.39】

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 企業が期ごとに発表する決算書には、その企業を知る上で重要な数字やメッセージが記されている。企業分析を続けるプロは、どこに目を付け、そこから何を読み取るのか。この連載では「ユニクロ対ZARA」「アパレル・サバイバル」(共に日本経済新聞出版社)の著者でもある齊藤孝浩ディマンドワークス代表が、企業の決算書やリポートなどを読む際にどこに注目し、どう解釈するかを明かしていく。今回はコストコを例に、会員制ビジネスの収益構造について解説する。(この記事は「WWDJAPAN」2022年7月11日号からの抜粋です)

 年会費を原資に事業を運営し、お客さまに利益を還元する「会員制」のビジネスモデルの好例として、コストコ(COSTCO)についてお話しします。

 まず、コストコの位置付けですが、世界の売上高が26兆円です。ウォルマート(WALMART)が断トツ1位で、2位がアマゾン(AMAZON)、そして3位がコストコ。世界トップクラスの米国拠点のグローバル小売業です。カテゴリーとしては、会員制ホールセールクラブに分類されます。

 下に10年分の売り上げを並べてみました。10年前は13兆円だったんですが、直近の2021年8月期決算でその倍に成長しています。兆円単位の規模で倍になっているというのは、すごいことですよね。

 ウォルマートやターゲット(TARGET)同様、コロナ禍でも絶好調でしたが、それ以前から安定的に伸びていて、この10年間、年率8%ずつ伸びています。店舗数は毎年2〜3%増。営業利益も年平均伸び率10.4%。営業利益率は低く、常に3%前後をキープ。バリューを提供するために、企業としての取り分は3%前後に決めているかのようです。

 そして年会費収入があります。アメリカとカナダだと年間60ドル(約8100円)です。リピート率は約90%。プラス60ドル払うとエグゼクティブ会員になれて、最大1000ドル(約13万5000円)までの2%の購入額還元があります。そのエグゼクティブ会員が60%くらいを占めています。

 会員制の強みは、リピート顧客に支えられていることだと思います。会費収入が安定的に売り上げ含む全収入の2%強で、確実に得ています。営業利益率が3%ですから、営業利益に占める会費収入の比率は57.8%(21年8月期)。今でこそだいぶ構成比は下がっていますが、かつては営業利益の4分の3を会費収入が占めていました。つまり、会費収入を自分たちの営業利益として、それ以外の部分をいかにお客さまに還元できるか、フィードバックできるかに徹しているビジネスモデルなんです。

 カテゴリー別の構成比も興味深くて、一番高いのは、食品と日用雑貨で直近だと40.2%、アパレルを含む非食品が29.1%、あとは生鮮食品14.2%とその他16.5%。この比率も10年間ほぼ変わっておらず、コントロールされていると感じます。

 さらに四半期別の季節指数ですが、これもほぼ等分です。四半期は12週、12週、12週で、最後の16週もしくは17週という出し方をしています。最後の四半期を12週に換算してみる全ての四半期がほぼ同じくらいの売上高になります。

 ローコストオペレーションは、ばらつきがない方がオペレーションが安定して、ローコストで済むんです。日本のスーパーみたいにチラシを入れると、ガンと売れるけれど、人にも宣伝にも経費がかかってしまいます。

売上原価率が90%近い!

 PL(損益計算書)を見ていて驚かされるのは、売上原価率がなんと88.9%です。商品の売買差(11.1%)に会費収入を足した粗利率が12.9%で成り立っているわけです。日本のスーパーマーケットでも25%ぐらいでしょうか。アメリカのウォルマートも約25%。コストコはそれらの半分の粗利率で事業を運営しています。

 なぜそれができるかというと一つは、売上総収入対比9.5%という販管費の低さです。販管費の中身はクレジットカード手数料、人件費程度。広告宣伝費はかけずにお客さまに還元するポリシーだからかけていないそうです。また、食品の加工に関わる人件費は売上原価として計算しています。ですから人件費も店舗および本部分のみ。基本的に店舗も中継倉庫もほぼ自社で取得しているので、販管費には微々たる減価償却費が計上されるだけです。さらに、彼らは箱ごと大量陳列っていうのが逆にエンターテインメントという考え方なので、店舗の人件費も大きくない。お客さまに還元するために、いかに経費をかけないで済ますかということを実践しています。

 前回で、丸井グループの「リカーリングレベニュー」という考え方に触れましたが、結局ほとんどの小売業の売り上げは、来年どうなるか保証はありませんよね。でも、丸井Gのように複数年顧客とつながっているビジネスの構成比が高かったり、コストコのように会費、会員に支えられてリピート率が90%ぐらいだとある程度見えます。どれだけのお客さまに支えられているかを数値化していくっていう意味で、こういうビジネスモデルはすごく面白いです。

 日本の場合は、100万円買ったら10%還元みたいな感じでタダで還元してしまいます。一方、会員制ビジネスは、先にお金を預かって、それを原資にして、お客さまに還元するビジネスモデルを提供しています。

 今人気の「アメリ(AMERI)」は限定アイテムの購入や、新作商品の先行購入などが可能になる会員制を始めていますし、アウトドアの「モンベル(MONTBELL)」も会員制があって、入会すると、年会費が原資になって、店舗で買ってもECで買っても送料無料で、還元ポイントが付いたりします。

 コストコと同じことはできないにしても、コストコが見せてくれている姿を参考にしながら、自社に置き換えたときに何ができるか、という議論をしていく時代ではないでしょうか。

最近気になっているのは
雨の日にも出歩いて安心なアイテムの潜在需要

 ファッションビジネスの在庫コントロールを生業にしていると気温の変化にも敏感になります。年5カ月超と長くなった夏への対応も急務ですが、東京都心部でも年間100日以上ある雨の日の潜在需要に注目しています。雨の日にも安心して身に着けて出かけることのできるファッションアイテムは意外と少なく、ワークマンも次の空白マーケットとして狙っているとか。そんな付加価値が新しいマーケットを開拓するかもしれません。

齊藤孝浩/ディマンドワークス代表

齊藤孝浩/ディマンドワークス代表 プロフィール

1988年、明治大学商学部卒業。大手総合商社アパレル部門に勤め10年目に退職。米国のベンチャー企業で1年勤務し、年商100億円規模のカジュアルチェーンへ。2004年にディマンドワークス設立。ワンブランドで年商100億円を目指すファッション専門店の店頭在庫最適化のための人材育成を支援。22年4月、明治大学商学部特別招聘教授就任。著書に「ユニクロ対ZARA」「アパレル・サバイバル」(共に日本経済新聞出版社)。「5月に発売した『図解 アパレルゲームチェンジャー』(日本経済新聞出版)の第4章ではワークマンのビジネスモデルの優位性をその他のチェーンストアと比較し解説しています。ワークマンは本文にもあるようにFC方式を採りますが、しくみは違えど、一般のチェーンストアでも学べる本部と店舗の関係性のあり方があります。どんな共通目標を成果報酬の対象にしたらよいのか、その答えは、FCでも、直営でも変わりません」

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