ファッション

「NFTの教科書」ファッションパートの著者が語る NFTの可能性と課題、そして未来

 コロナ禍でDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速する中、さまざまな業界が注目し始めたNFT領域。ファッション業界もその例外ではなく、特に2021年に入ってから参入企業が続々と増えている。NFTとは、“Non-Fungible Token(非代替性トークン)”の略。デジタルデータの「鑑定書」としての機能を持ち、リアルなモノと近い形での、デジタルデータの取引を可能にする。そんなNFTにはどのような利点があり、ファッション業界にどのような可能性をもたらすのか。そして、NFT×ファッションの未来はどうなるのか。現在、”デジタルファッションハウス”として「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」のNFTドレスやNFTスニーカー”ダイヤモンド ウォーク(Diamond Walk)”の制作・販売などを行ってきた企業、ジョイファ(Joyfa)を創業し、2021年出版の「NFTの教科書」(朝日新聞出版)のファッションパートの著者も務めた平手宏志朗代表に話を聞いた。

WWD:ジョイファの事業内容は?

平手宏志朗ジョイファ代表(以下、平手):端的に言うと、スニーカーを主軸としたデジタルファッションのエコシステムの開発を行っています。事業の軸は3つ。1つは「NFTの制作と販売」です。現状は”ダイアモンド ウォーク”といった、自社制作のNFTがメインですが、将来的にはジョイファ外の人々によるNFTの制作・販売を視野に入れています。もう1つが「制作・販売したNFTへの体験価値の付加」です。近いうちに購入したデジタルスニーカーの展示などの機能を持つアプリをリリース予定ですが、他にもAR上で着用できたり、ゆくゆくはゲーム的な要素を追加したりすることで、NFTに体験価値を付けることができるようにしていければと思っています。そして最後の1つが「コミュニティーの形成」です。ジョイファ独自の暗号資産を発行することで、特別なNFTの購入体験ができたり、コミュニティー内での意思決定に携われたりする会員限定の権利の付与を予定しています。

WWD:暗号資産の発行で「コミュニティー内の意思決定に携われる」というのは具体的にはどういったことなのか?

平手:仕組みとしては、まず、独自の暗号資産(トークン)を発行した場合、発行枚数の40〜50%ほどを、トレジャリーと呼ばれるブロックチェーン上の金庫のようなところに保管する予定です。ジョイファのトークンを持っている方々は、そのトレジャリー内の資産をどのように使うのか提案をしたり、承認をしたりすることができるようになります。例えば、海外のクリエイターの方が、デジタルファッションのブランドを立ち上げるための資金が必要であれば、それをジョイファのコミュニティーに提案し、承認を得ることができれば、トレジャリー内からお金を融通することが可能です。他にも、コミュニティー内の意思決定に携わったり、ジョイファのために作業をしてくれた人には、その金庫内から報酬が支払われる、といった形を取ることも可能になります。

WWD:そもそも、平手代表がNFTに注目した理由は?

平手:私自身はNFTが注目を浴びるだいぶ前から、エンジン(Enjin)という会社でNFT×エンタメの領域の仕事をしていました。そのため、NFTに注目したというよりは、もともと業界にいた中でNFTがブームになり、自然とNFT領域で「次に来るジャンルは何か」を考え、ジョイファを創業した形です。

NFTがブームになったきっかけは?

WWD:NFTがブームになった理由をどのように見ているのか?

平手:きっかけとしては、NBA Top Shotの存在が大きいと思います。NBA選手のトレーディングカードゲームをNFT化したようなモノですが、NBAが非常に分かりやすいIP(知的財産)だったことや、ユーザー体験の良さなどから大きな売り上げを出し、NFTというものの認知度・注目度が上がっていった印象を受けています。

WWD:「ユーザー体験の良さ」とは?

平手:いくつかありますが、例えば単なる静止画のカードではなく、動画を使っていたり、決済方法に関しても、従来のNFTが仮想通貨がメインだったのに対してクレジットカードも対象にしたりしていました。他にも、ルートボックス化と呼ばれる、ガチャガチャのような仕組みを導入して購入するまで何が当たるか分からない形を取っていたこともあります。

WWD:NFTには、具体的にどのような利点があるのか?

平手:大きくは3つあると思います。1つが永続性で、NFTを提供している企業が潰れてしまっても、入手したNFT自体は残る仕様にすることができます。もう一つが、流動性です。購入者側がNFT版のメルカリのようなところで転売したり、友人と貸し借りしたりすることが可能です。そして3つ目が透明性で、発行者や発行枚数、売買や貸し借りなどが履歴として可視化されます。これらによって物理的なモノに近い体験価値の提供が可能になっています。

WWD:それらの利点は、ファッションにも適用できるのか?

平手:できると思います。まず前提として、デジタルファッション=NFTというわけではありません。NFT化していないデジタルファッションは、これまでもメタバース空間内などで存在はしていました。ただ、従来のデジタルファッションは、その空間内で完結するアイテムでしかなかった。それをNFT化することで、他の空間でも使える可能性が高まったり、実際に所有しているという感覚に近くなったりする。そこに新しい可能性が生まれてくるのかなと思っています。

WWD:中でも、NFTと相性の良いファッションカテゴリーは何か?

平手:スニーカーやアクセサリーといった、限定性・コレクション性の強いジャンルは親和性が高いと思っています。こういったものは、リアルで集める場合に保管が必要など、物理的な制約も大きい。デジタルに置き換えることで、保管したり、展示したりするニーズは今後高まってくるのではないかと考えています。また、保管・展示だけでなく、ARの技術を活用して、画面上では実際に着ているような感覚にひたることもできます。イベントなどで人々がARグラスをかけて、各々がコレクションしたデジタルファッションを見せ合い、楽しむといった自己表現の拡張もできるかもしれません。まだまだ不透明な部分もありますが、可能性は多岐にわたると思います。

NFTは”バブル”なのか?

WWD:一方で、「NFTはバブルになっているだけではないか」といった声もある。

平手:マーケット全体で見ると、NFTの取引ボリュームは平均で週30億〜70億円と、あまり下がっていません。確かに、一昔前のように価格が異様に高騰する、といったことは減っているかもしれませんが、ユーティリティがしっかりしていたり、価格的に入手しやすいものの取引が増えている印象を受けています。

WWD:現状、NFTが抱えている課題は何かあるのか?

平手:大きくは3つあります。1つは環境負荷で、一般的にNFTを1つ発行するのに、一般家庭の消費電力の3〜4日分を消費すると言われています。2つ目が、標準規格の不在です。NFTには先ほど言った流動性がありますが、あるメタバースのNFTを別のメタバースでも着用するといったことは現状できません。そして3つ目がユーザビリティーです。NFTは現在、仮想通貨での購入がメインとなっているため、仮想通貨を持っていない人は購入できないことが多い。これらの課題は、NFT×ファッションにおいても同様に発生するものだと思います。

WWD:それらの課題は今後、解決されるのか?

平手:ある程度解決されると思います。環境負荷の課題は、ブロックチェーン最大手のイーサリアムが環境負荷を大幅に軽減するアップデートを年内に予定しています。開発に少し時間がかかっているので、2023年になる可能性もあると言われています。標準規格の不在についても、現在、NFT業界内でデジタルファッション×NFTの標準規格を作ろう、という機運が盛り上がってきており、解決の方向に向かっていくと思います。また、ユーザビリティの課題も、クレジットカード決済が可能なところが徐々に増えてきています。

WWD:ジョイファとしては今後、どのようにしていくつもりなのか?

平手:最終的には、デジタルファッション領域で世界中のクリエイターのエンパワメントとサポートができればと思っています。社内では、任天堂のようにエコシステムとブランド両方を手掛けられるような存在になろうとよく言っています。任天堂はゲームのエコシステムを作りつつ、「マリオ」や「ポケモン」などの自社ブランドも運営している。ジョイファも、世界中のクリエイターの支援を通じて、デジタルファッションのエコシステムを構築しつつ、自社ブランドを作っていき、自社ブランドでのトライ&エラーで得た知見をクリエイターに還元するなどしてエコシステムへ反映させていく。そういったことを通じて、新しいファッションの価値を提供できればと考えています。

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