ファッション
連載 UA重松理×石川次郎対談

伝説の編集者とユナイテッドアローズ創業者の二人が書籍「日本現代服飾文化史」に込めた思い【UA重松理×石川次郎対談 VOL.1】

 ビームスとユナイテッドアローズ(UA)、日本を代表する2つのセレクトショップの誕生に関わったのが、UA名誉会長で、公益財団法人日本服飾文化振興財団の理事長を務める重松理氏だ。「服飾文化を次世代や後世に正しく現代史として伝承したい」と、財団を通じて「日本現代服飾文化史 ジャパンファッションクロニクル インサイトガイド 1945~2021」(発行・講談社エディトリアル)を3月に発行。エディトリアルディレクションを手がけたのは、平凡出版・マガジンハウスで編集長を歴任し、その時代時代の風俗とカルチャーを雑誌を通じて世に発信してきた石川次郎氏だ。

 サブタイトルは、「若者と流行」「ファッションはいつも街から生まれる」。重松氏自身が体験したリストをもとに、財団のスタッフとともに、時代背景、社会の潮流、生活文化の流れ、その時代のインフルエンサーの変遷など75年の歴史を年表化。年代ごとにトピックスを挙げて、ファッション文化の伝承や定着、進化や、生活者の変化やムーブメントなどを、象徴的なビジュアルや著名人のエッセー、専門家の解説とともに記録している。重松氏と石川氏に、書籍の意図やファッションの醍醐味、後進に伝えたい想いなどを、全5回にわたってお届けする。

――日本のファッションの変遷をカルチャーとして切り取り、教科書としても使えそうなレベルで集大成された良書ですね。もんぺの時代から始まり、シャネル、アイビー、ミニスカート、ジーンズ、DCブーム、裏原宿、エアジョーダン、女子大生ブーム、コギャル、ユニクロ、モテ系&大人かわいい、ゾゾタウン、コメ兵、さらにはバーチャルヒューマンのimmaといったインフルエンサーまで、テンポ良く紹介しています。豊富かつ貴重な写真やイラスト、図録などにも圧倒されます。この本を企画した意図は?

重松理(以下、重松):ファッションはフロー(流れていくもの)で、消え去っていくものです。次々に新しいものが出てきては、淘汰されていく。でも「これは永遠に良いものだ」というものはストックとして残していきたい。それをオーセンティクスという形で、ビームスの途中から始めて、UAでも手がけてきました。財団を設立するときから時代背景や社会の潮流、生活文化の中でのファッションや、当時は表面的には見えずらかった事柄、その時代のインフルエンサーの変遷などを、特定のアパレルメーカーやブランドの視点ではなく、中立的で公共性のある資料的なものを、いずれ財団の仕事として残さなければいけないと思っていました。そこで、戦後75年になる2020年のタイミングで、ファッションの服飾現代史を出し、その足跡を次世代に伝えようと考えました。

――石川次郎さんに編纂を依頼した理由は?

重松:自分は物心がついてからファッションに興味を持ち、仕事として携わってからもいろいろな遍歴があるのですが、その半分ぐらいは平凡出版、今のマガジンハウスとともに歩み、育ててもらったみたいなもの。「平凡パンチ」では、小林泰彦さんのイラストで紹介されたパリのサンジェルマンルックも、カーナビ―ストリートのロンドンポップなども見ていましたし、夢中に入り込んで、ビームスの立ち上げに至りました。アメリカで(1968年に)創刊した(西海岸の若者カルチャーやアウトドア文化、道具や情報を紹介する)「ホール・アース・カタログ」や、「スキーライフ」(読売新聞社)、その流れを汲んで、「メード・イン・USAカタログ」が発行され、ビームスの創業と同じ1976年に「ポパイ」も創刊しました。その多くに次郎さんがかかわられていたので、こういうものを作るときには造詣の深い次郎さんにお願いしたいと心に決めていました。それに、われわれはモノを売ってきたけれど、本を作るノウハウも写真や材料もない。そこで、財団の評議員で、次郎さんとも親しくされているビームスの遠藤恵司副社長を通じて依頼させてもらいました。

石川次郎(以下、石川):重松さんとは当時、直接的な付き合いはなかったけれど、すごくつながっていたんだなぁ、ずっと見てきてくれたんだなぁと嬉しくなりましたね。「平凡パンチ」や「スキーライフ」「メイド・イン・USAカタログ」は、確かに僕が手がけた仕事です。とくに小林泰彦さんのイラストレポは、僕が編集者になってすぐに会社に提案して実現しました。平凡出版に入ったのが1967年2月1日で、その年の9月には小林さんと2人でNYにいましたから、いい時代でしたね。その「平凡パンチ」では海外のニュースの担当になったのはいいけれど、上司から言われたニュースの取り方が、新聞社の外信や通信社から買えといった話ばっかりで、その通りでは面白くもなんともなくて。64年から誰でも外国に行ける時代になったし、「自分たちでニュースを探して誌面を作りましょう」「自分たちで外国取材をやりましょう」と上司の木滑さん(後にマガジンハウス社長を務めた、木滑良久氏)に提案しました。マガジンハウス時代もその延長線上で、海外取材をするのが僕の仕事だと思っていました。

――次郎さんにとって、ファッションはどのような位置づけだったのですか?

石川:若者の風俗を伝えるにはどうしてもファッションが絡んでくる。そのとき、その場所で、どういう格好でいたのかということは、とっても重要な要素なのでね。それを伝えるには、それを表現できる、服がわかる人と一緒に現地に行くのが一番いい。しかもある意味、写真家よりも手っ取り早いだろうと。それに小林泰彦さんがずっと付き合ってくれました。考えてみればいい時代で、かなり生の情報が入ってきました。あの時期に外国取材をやらなければ何をやるか、という感じでしたね。最初に67年にニューヨーク、68年にパリとロンドンに行き、それから毎年1~2回外国に行きました。あのころは世界中でいろいろなことが起こっていました。自分たちの考え方や想いをデモや音楽やコンサートなどで伝えようとするなど、若者の行動が世界中のあちこちで問題になっていた。その連中がみんな面白いファッションをしていたんです。ニュースを伝えると同時にファッションが伝わった。僕はファッションの専門家でもなんでもないけれど、すごくいいチャンスに恵まれたし、それがとても貴重な情報だったのかも。重松さんも当時、そういう情報に飢えていたんじゃないですか?

重松:はい、なかなか情報が手に入らない時代でしたからね。同じイラストレーションでも、(週刊「平凡パンチ」の表紙のイラストを創刊号から担当した)大橋歩さんや、(長く「メンズクラブ」やVANのイラストを担当していた)穂積和夫さんのアイビーファッションなどの絵は、素敵だけれど自分の画風や作風があって、写真の機能ではないんです。一方で、小林泰彦さんは写真がそのまま絵になっていたので、とてもファッションのお手本になったんです。

石川:一種のドキュメンタリーですよね。小林さんがのすごいところは、100%見た通りでもなくて。基本的には現物そのままなんだけど、いくつかの要素を組み合わせたり工夫したりして、ちょっと面白くしている部分がある。でも、けして嘘ではない。やりすぎてはいない。この本のp.49、p.52、p.66~69、p76などは当時の絵をあえて使っています。p.66は67年に初めてニューヨークに一緒に行ったときのものですね。

重松:われわれはこれを「平凡パンチ」の誌面のうえで見て、これをなぞってきました。こういう格好をしなくちゃ、海外に行くならここに行かなければ、という情報機能を当時のファッションページは果たしていたんです。

(vol.2に続く)


「日本現代服飾文化史 ジャパンファッションクロニクル インサイトガイド 1945~2021」

【Contents】
1. 1945-1950年 貧しい時代でもお洒落がしたかった
2. 1950-1959年 ファッションが動き出した
3. 1960-1969年 ファッションに自由がやって来た
4. 1970-1979年 経済成長が支えたファッション
5. 1980-1989年 おしゃれのエネルギーが頂点に!
6. 1990-2000年 流行はストリートから生まれてくる
7. 2000-2009年 誰もがセレブ気分になれた時代
8. 2010-2021年 ファッションの多様化は続く

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