ファッション

「ドクターマーチン」CEOに聞く、サステナビリティの重要性とブランド経営

  「ドクターマーチン(DR.MARTENS)」が好調だ。2022年3月期のグローバル売上高は前期比18%増の9億830万ポンド(約1507億円)、コロナ前の2020年3月期と比べても35.1%増と大きく伸ばしている。日本でも、若者を中心に多くのユーザーに愛されるシューズブランドとして定着している。

 同ブランドを率いるケニー・ウィルソン(Kenny Wilson)CEOは、「リーバイス(LEVI'S)」や「キャス キッドソン(CATH KIDSTON)」などで要職を経験してきた人物だ。約3年ぶりに来日した同氏に、「今、最も重要だ」と語るサステナビリティの取り組みや、ブランド経営の極意を聞いた。

WWD:来日は何度目でしょうか?今回の目的は?

ウィルソン:100回目くらいかな(笑)。それくらいたくさん来ている。でも今回は3年近く期間が空いたから、すごく楽しみにしていた。来日の目的は、店舗見学やマーケット調査がメイン。日本チームともリアルでコミュニケーションがとれてうれしいよ。

WWD:日本のストリートを歩いた感想は?

ウィルソン:町のにぎわいがかなり回復しているね。アジアはEUに比べて回復が遅いが、活気が着実に戻っている。日本も同様だ。それと「ドクターマーチン」を履く人をたくさん見かけて、市場に浸透していると実感できたよ。日本はアジアで最も大きな市場で、アジア全体の売上高の3割を占める。パンデミック後も毎年成長を続けており、グローバルでも重要な市場だ。この先はインバウンドが戻ってくるし、ストリートカルチャーでもリーダー的な存在。日本でブランドが受け入れられているのは、数字以上に大きな意味がある。

WWD:日本では特に若年層の獲得に成功している印象だ。

ウィルソン:日本チームが素晴らしい仕事をしていて、若い消費者を多く獲得できている。昨年オープンしたブランドコンセプトストア「ドクターマーチン ショールーム ティーワイオー(Dr. Mrartens SHOWROOM TYO)」はそれに貢献しており、Z世代のコミュニティー形成にも手応えがある。同店はメイド・イン・イングランドやコラボモデル、“アイコンズ”(代表的なモデル)など、ブランドの顔であるヒーロー商品をそろえ、世界観に浸ることができる。その拠点を東京の中心地に構えているのは大きなアドバンデージだ。

WWD:グローバルでも大きく伸びている(前述)が、好調な理由は?

ウィルソン:ブランドの本質的な強さのおかげだ。「ドクターマーチン」は世界中で受け入れられ、若者にも支持されている。特に好調なチャネルはD2Cで、自社ECと直営店は3割増と急成長している。

WWD:なぜそれほど伸びたのか?

ケニー:理由はさまざまあるが、ウェブサイト開発は就任以来継続的に投資している。ブランドに興味を持った人は、最初にサイトをチェックするからね。そこでいい経験ができると、実店舗に来てくれる。店舗のスタッフはアンバサダーのような役割を担っていて、彼らがブランドの世界観を発信する。この両軸があってD2Cが伸びているんだ。

WWD:ユーザーの消費行動に変化はある?

ウィルソン:大きな変化は、サステナビリティへの意識の高まりだ。特にヨーロッパでは顕著で、サステナビリティに向き合っていないブランドは見向きもされない。ありがたいことに、われわれはすでに持続可能なブランドだと認識されている。それはすごくシンプルで、長く使えるから。僕のワードローブにも25年間使っている「ドクターマーチン」があるように、長期的に愛用する人が多い。それがサステナブルなイメージに直結している。

WWD:新しく仕掛けるサステナビリティの戦略は?

ウィルソン:プロダクト開発では大きく2つある。1つは、バイオベース(植物由来)のマテリアルで作られたシューズだ。現在は、アッパーをバイオベースにしたシューズを制作中で、来年から特定の市場で販売テストを行う予定だ。日本も対象に入れているから、楽しみにしてほしい。このほか、2040年までにアッパーからソール、シューレースまで、すべてのパーツをバイオベースにしたシューズを作る目標も掲げている。

 もう一つは、既存モデルをサステナブルな素材・制作過程に代替する。例えば「レザーワーキンググループ(LEATHER WORKING GROUP)」認証のレザーのみを使用すること。この認証はブランドとタンナー、薬剤メーカーが参加し、工場内の安全性や原料のトレーサビリティーなどを徹底するもので、どの牧場のどの牛から来たレザーなのかも把握できる。今後はさらにステップアップして、牧場で使う農地の活用も再生可能なものにしたいと考えている。

WWD:プロダクト以外では?

ウィルソン:リペアによる2次流通の拡大を目指す。われわれのシューズは耐久性が高く、回収・リペアして再び販売するシステムが成り立つ。ちょうど3カ月前にイギリスで実験的にスタートさせ、“1460”などのアイコンモデルを中心に不要になったシューズを回収・修理し、定価の85%で販売している。始めたばかりで数字のインパクトは小さいものの、購入者の99%が高い満足度を示しており、手応えを感じている。日本ではデニムをはじめ古着市場がホットだし、グローバルでも導入できるようにしたい。

“マーケティングはローカルで”が信条
「私はビジターでしかないから」

WWD:「リーバイス」や「キャスキッドソン」などで要職を歴任してきた。どんなことを学んだ?

ウィルソン:それぞれのブランドで本当に多くを学んできたが、私の考えに最も影響を与えたのは「リーバイス」で過ごした19年だ。そこではまず、ブランドビルディングの大切さを学んだ。「ドクターマーチン」には“1460”があるように、「リーバイス」には“501”がある。これらのアイコンを大事にしながら、新しい仕掛けを考えている。次に、ブランドを世界でマネジメントしていくこと。市場をどれだけ広げても、ブランドは同じ立ち位置で、同じイメージを発信しないといけない。一方で、市場には固有の性質がある。だから、“ブランディングはグローバルで、マーケティングはローカルで”が私の信条だ。例えグローバルなキャンペーンであっても実稼働はローカルに任せているし、ローカル独自のキャンペーンにはほとんど口を出さない。私はビジターでしかないからね。最後は、社員の育成だ。本社も店舗も関係なく、一人一人の動きがブランドのイメージに直結する。スタッフは誰よりもブランドを愛していなければいけない。

WWD:ファッションブランドとのコラボも積極的だ。

ウィルソン:光栄なことに、たくさんのブランドがわれわれとのコラボを求めている。これが、ブランドの信頼やイメージアップにつながっているのは間違いない。日本では、コラボもしているヨウジさん(山本耀司)が既存モデルも着用してくれていて、私のオフィスには「ヨウジヤマモト」のチーム全員が“1460”を着用している記念写真も飾っているよ。

WWD:コラボで意識していることは?

ウィルソン:ストリートでそれを見たとき、一目で「ドクターマーチン」だとわかること。「ドクターマーチン」らしさを維持した上で、デザイナーならではのツイストを加えてもらう。それを実現できるスキルとクリエイティビティーを持っている相手でないと、コラボは成功とは言えない。

WWD:4月にクリエイティブ・ディレクターに就任したダレン・マッコイ(Darren Mckoy)にはどんなことをリクエストした?

ウィルソン:“Dマック”は、ヘリテージとモダニティのバランスがとれた才能ある人物だ。7年間働いていてブランドを理解しているし、サブカルチャーにも詳しい。ブランドらしさを保ちながら、ルールを破れる人だと考えて起用した。これからも楽しい商品を提案し続けてくれるはずだ。

WWD:日本のファンにメッセージを。

ウィルソン:これからもブランドとエモーショナルな形でつながっていてほしい。われわれもみなさんに楽しんでもらえるようにたくさん仕掛けていくよ。ありがとう。

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