「フェンディ(FENDI)」の2022-23年秋冬オートクチュールショーの会場は、前回と同じパレ・ブロンニャール(旧証券取引所)。ただ、中に入ると全く異なる場所のようだ。惑星のような球体とメタルフレームのアーチが浮かぶ漆黒の未来的なセットを作り上げた先シーズンから一転、今季は用意したのは、一切装飾のない真っ白な空間。眩しいほどに明るいライトアップのもと、流れるようにスッキリとしたシルエットと透明感のある輝きが際立つコレクションを披露した。
「今シーズンはローマから一歩離れ、少なくともローマという都市をグローバルなコンテクスト(文脈)の中に置いて見たいと思った」と語るキム・ジョーンズ(Kim Jones)がコレクションの出発点に選んだのは、京都。振り返れば、大の親日家であるキムは、外国人の入国制限が緩和された3月、いち早く日本を訪れていた。その際に、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「ディオール(DIOR)」のメンズで一緒に仕事をしたことのある老舗織物メーカーの人々と再会。18世紀の着物の端布を手渡し、再現を依頼したという。ただし、キムは単に“日本から着想したコレクション”で終わることなく、ブランドの本社とアトリエを構えるローマと、クチュールの都であり、かつて“ジャポニスム”が芸術に大きな影響を与えたパリにも目を向け、その伝統や装飾美術などの要素を融合。優れたバランス感覚で、モダンかつエフォートレスに仕上げているのが印象的だ。
ファーストルックは、キャメルカラーの高級素材ビクーニャで仕立てたボクシーなダブルブレストジャケットとワイドパンツのセットアップ。その胸元を飾るのは、シルヴィア・フェンディ(Silvia Fendi)の娘、現在ジュエリーを監修しているデルフィナ・デレトレズ・フェンディ(Delfina Delettrez Fendi)が手掛けたブランド初のハイジュエリー“フェンディ フラーヴス(FENDI FLAVUS)”だ。カスケード状に配置されたホワイトダイヤモンドの中心に、イエローダイヤモンドの大きな粒とアイコニックなFFロゴをあしらったデザインが目を引く。
序盤はビクーニャやレザーを用いたヌーディーな色使いのクリーンなスタイルが中心となったが、次第に鮮やかさときらめきを増していく。京都で作られたという型友禅の絹織物は、流線的にはぎ合わせてフロアレングスのドレスに。そこに見られる紅葉のモチーフは、繊細な刺しゅうになってチュールのガウンを彩る。そして、若々しいミニドレスや背中が深いV字を描くように開いた5部袖のトップスとワイドパンツのセットアップにはボタニカルなビーズ刺しゅうを全面に施し、スレンダーなシアードレスには格子状にクリスタルをちりばめて、きらびやかに。「フェンディ」を象徴するファーは、ミンクを短く刈り込み、日本の伝統的な生地を再解釈したデザインをインターシャで表現している。
今季のクリエイションで念頭に置かれたのは、分かりやすい派手さや大掛かりな作り込みではなく、親しみやすさや軽やかさ。ここ数シーズンのオートクチュールでは、まとう人に寄り添い、それぞれの美しさを引き出すという本質にあらためて向き合う提案が増えているが、「フェンディ」のコレクションもその姿勢を感じさせるものだった。
2022-23年秋冬オートクチュール・ファッション・ウイークが7月4日から7日までに開催された。今季からは、ついに公式スケジュールに名を連ねる全てのブランドがリアル発表を再開。世界中からVIP顧客やセレブリティーもパリに戻り、華やかなムードに包まれた4日間のファッションの祭典から、注目ブランドのショーリポートをお届け!