ファッション
連載 UA重松理×石川次郎対談

トラッドからヒップホップ、そして古着へ 「日本のファッションのルーツと新潮流」【UA重松理×石川次郎対談 VOL.3】

 ユナイテッドアローズの名誉会長で、日本服飾文化振興財団の理事長を務める重松理が、「ポパイ」「ブルータス」「ターザン」などの創刊編集長を務めた雑誌編集者である石川次郎氏と組み、今年3月に「日本現代服飾文化史 ジャパンファッションクロニクル インサイトガイド 1945~2021」(発行・講談社エディトリアル)を発行した。二人のレジェンドは、なぜタッグを組み、書籍を発行したのか。3回目の今回は、「日本のファッションのルーツと新しい潮流について」。

VOL.1、VOL.2はこちら

――今、若い層を中心に、トラッドやオーセンティックスなどを通らないで育ってきた人が増えていますよね。それでファッションが大好きという人々もいますし、ファッションに興味がないという人々も増えています。この事象をどう考えますか?

重松:自分はまったく悪いとは思っていません。時代の潮流なので。仕方ないもんね。自分が育った環境というのは、ファッションという文化がまだまだ日本に芽生えたばかりの頃、諸先輩方がいろいろな海外の情報を満たしていって、次の自分たちのファッション文化みたいなものにつなげていけるような素地をもらったと思っているんです。今は情報も溢れているわけで。若い人たちが先輩を見て何も感じなくて、情報は別になくてもいいとか、ファッションなんてふざけんなよ、みたいに思っている人もいると思う。でもその点で一番大きな影響を与えたのは、アップルの創業者のスティーブ・ジョブスだと思います。彼の黒T(「イッセイミヤケ(ISSEY MIYAKE)」のモックネックTシャツ)と、(「リーバイス」の)ジーンズのスタイルは、研ぎ澄まされていて、無駄なものを全部省いていて。企業の規模も技術も生き様もあってのファッションだから、あれは否定できない。みんなが「着飾るよりもカッコイイ!」となるのもよくわかるんです。しょうがないですよね。時代の潮流そのものだと思います。だから、(トラッドやオーセンティックスを通らない人々の増加や、若者のファッション離れなどを)ちっとも悪いと思っていない。ただ、われわれは仕事として残していきたいし、ちゃんと見たら「あぁ、こんなものがあったんだね、世の中には」と感じられるものを残しておかなければならないんです。

石川:面白い現象ですよね。僕は1941年生まれで、45年の終戦後はひどい生活が続くなかでも、だんだん豊かになり、男たちもわりとお洒落に目覚め始めたんですよ。そんなときに「VANヂャケット」が出てきて(1954年開始)、男の服の一種のルールみたいなものを楽しく教えてくれたわけです。男というのは規則じゃないけど着方があるんだよと。こういうジャケットにはこういうシャツを合わせて、こういうタイをするんだよ。パンツはこれくらいの長さで、靴はこういったものを履くんだよと。これがとってもシステムとして感じさせてくれて面白かった。自分の中でお洒落に関心があるとしたら、間違いなく「VAN」なんです。お小遣いを貯めてはボタンダウンシャツを1枚買う、とか。そういったことは僕より上の世代にはあんまりなかったことで、そういう意味では面白い世代に生まれたなと思いますね。そして、そのうちルールを破るヤツが出てくるわけです。規則だらけの服の着方なんてつまらない、これが自分なりの服の着方だ、なんて言い出して、それまでの常識を壊そうとするんです。それに同調する人間の数がジワジワ増えてくると一派となり、知らないうちにメジャーになったりして、皮肉にもある種の権威になったりもする。そうすると、それを壊す連中が出てくるという、一種の繰り返し現象みたいなものがファッションにはあって、そのあたりがすごく面白い。ただ、僕は男の服というのは一種のルールみたいなものがあるというのは、今でもいい話だと思うし、ドレスアップがあって、ドレスダウンがある。ルールをどう崩すかというのがファッションの醍醐味なんじゃないかな。今の子たちは初めからドレスダウンというか、ルールなんて初めから知らないよという。そのあたりがまたすごいよね。僕の孫は今大学2年生なんだけど、もう古着以外興味を持たない(笑)。で、けっこうな値段の古着を買ってくるんですよ。全部見せてもらっているけれど、「だったらおれのこれを着るか」と出してあげると喜んで着るんです。捨てようかなと思っていたようなものなんですけどね。そういう世代が今後どういう大人になっていくのか、とっても興味がある。しかもそんな子が成人式には普通の紺のスーツを着るわけですよ。抵抗もなく。その辺りの感覚が僕たちにはなかったし、面白いなと思いますよ。

――一方で、日本のファッションが世界に認められるようにもなってきています。

石川:日本のファッションは世界的に見ても面白がられていると思いますね。僕たちの世代は「外国のものはいいものだ」と思い込んでいる節があって、なるべく外国から買ってくるし、外国人の着こなしをマネるのが主で、自分らしさを出そうなんて気はあまりなかった。でも、若い世代を見ていると、そんなことお構いないにどんどん自分のものを作って世界的に発信し、それが注目されている。日本のストリート出身のクリエイターたちが大きなブランドから頼られてコラボをやってるじゃないですか。あれなんか痛快ですよね。軒並み大きなブランドが日本のサブカルの人々と一緒に商品作りをしているのなんか典型的な例だと思うんですけどね。

重松:もう本当に著名なブランドとね。あれはすごいと思いますよね。堂々とやっているし。彼ら・彼女たちはみんなBボーイ(ヒップホップ系)から始まった人たちなんですよね。それが裏原宿系になって。それに海外の人たちが興味を持ち、文化が融合して。それを自国に持って帰って、欧米でもそれがとても貴重で、人気を博して、逆に一緒にやりたいとオファーされるところまでいった。セレクトショップにはそれはないですからね。最近特に顕著になっていて。すごいと思う。

――キム・ジョーンズなどメゾンで活躍するデザイナーも、若いころから東京や原宿が好きで、藤原ヒロシさんやNIGOさんと交流したり、彼らの緻密なモノ作りやリミックスのデザイン構築に感銘や影響を受けていた人も多いですからね。では、お二人の目から見た、ファッションの節目や転換点となる出来事を教えてください。

石川:人によってとらえ方は違うと思うけれど、僕の場合は、(68年5月に)パリで5月革命があり、次の年(69年8月)にニューヨーク郊外のウッドストックでロックフェスが行われたことで、若者たちのファッションが大きく変わったと思っています。その代表がジーンズであり、この本でもジーンズを取り上げることは必須でした。ただ、その取り上げ方をどうするのかは一番考えましたね。単にジーパンを紹介するページではなく、ジーンズにはもっと違う意味があることを強く言いたかった。なのでp.72にはあえてこの、パリの五月革命のデモで投石している学生の写真を紙面に大きく使いました。間違いなくジーンズをはいているでしょ。2カ月後の7月にパリを訪れた時には、まだ投石の後があり、カルチェラタンにも催涙ガスの匂いが残っていました。街では多くの若者たちがジーンズをはいていたし、黒のセーターが一種のユニフォームになっていたこともあわせて、とっても印象に残っていました。だからどうしてもこういうページから入りたくて、これ、という写真をいろいろ探しました。普通のファッション誌だと、ジーンズ、イコール、(「リーバイス」の)501の写真やビンテージ、となると思うけど、この本ではそうじゃないなと思って。象徴的な出来事である五月革命と、ウッドストックの写真を生かしました。僕はこの辺りに若者たちの服に対する考え方を大きく変えた何かがあったという気がしています。

(vol.4に続く)


「日本現代服飾文化史 ジャパンファッションクロニクル インサイトガイド 1945~2021」

【Contents】
1. 1945-1950年 貧しい時代でもお洒落がしたかった
2. 1950-1959年 ファッションが動き出した
3. 1960-1969年 ファッションに自由がやって来た
4. 1970-1979年 経済成長が支えたファッション
5. 1980-1989年 おしゃれのエネルギーが頂点に!
6. 1990-2000年 流行はストリートから生まれてくる
7. 2000-2009年 誰もがセレブ気分になれた時代
8. 2010-2021年 ファッションの多様化は続く

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