大丸松坂屋百貨店の澤田太郎社長は、百貨店には店舗、オンライン、外商の3つのタッチポイントがあると話す。百貨店の周辺開発を含めた街づくりを主要都市で展開しながら、デジタルに積極的に投資し、そしてお家芸の外商で新しい顧客を増やす。目指すのは、百貨店のレガシーと多様な人材の力を生かした新しい事業モデルだ。(この記事はWWDジャパン2022年7月18日号からの抜粋です)
WWDJAPAN(以下、WWD):コロナから復調する中、特に大丸神戸店の3〜5月の売上高はコロナ前の2019年と比べて5.1%増と際立つ。
澤田太郎社長(以下、澤田):もともと顧客基盤が安定していることに加え、百貨店が強みを発揮できる分野にしっかり投資してきた。神戸店は百貨店内だけでなく、当社が(神戸店のある)旧居留地に保有する不動産に多くのブランドショップを誘致して、周辺の街全体の活性化を図ってきた。3月には百貨店内と旧居留地にあった「ルイ・ヴィトン」の2店舗を移転・統合した路面旗艦店を開いた。百貨店内では時計売り場を拡張し、(VIP向けの)ラウンジも新設している。
WWD:富裕層シフトの成果だと?
澤田:誤解のないように強調したいが、けして富裕層シフトではない。幅広いお客さまの期待に応えるという百貨店の軸は変えず、富裕層の目線に応える上質な品ぞろえとサービスを強化する。これを「プライムライフ戦略」と呼んでいる。そもそも「ルイ・ヴィトン」や「シャネル」は富裕層だけでなく、幅広いお客さまが買っている。人気ブランドが1階でポップアップを開けば、1日で数百万円を売り上げる。百貨店に上質な商品やサービスを求めるのは何もお金持ちだけではない。
ファッションは「マスマーケット」で 語れない時代になった
WWD:ではマスマーケットや中間層にはどう向き合うか。
澤田:マスマーケットと所得の中間層はイコールではない。百貨店にとってのマスは、一括りにできる大きなかたまりのようなもの。ロングコートが流行だと宣伝され、それが飛ぶように売れた時代には確かにマスマーケットは存在した。今もデパ地下のミルフィーユがおいしいとテレビで紹介されると、お客さまが殺到する。しかしファッションにおいては、そういった意味でのマスマーケットはすでにない。ウィメンズファッションを再構築しようとバイヤーたちと議論しているが、その前提で考えないと時代とズレる。
小売業の本質とは、左側のお客さま、右側のコンテンツ(商品やブランド)を真ん中でつなぐタッチポイントである。百貨店のタッチポイントは「店舗」「オンライン」「外商」と3つある。百貨店はお客さまに関しては得意だと自負しているが、もう一方のコンテンツに課題がある。デジタルで把握できる顧客DB(データベース)を駆使して、タッチポイントとしての精度を上げているところだ。
WWD:データ活用はだいぶ磨かれた?
澤田:例えば、ある宝飾ブランドがフェアをする際、従来はそのブランドで購買実績のある顧客に案内してきた。今はそれだけでなく、店舗やオンラインでの買い回りのデータを分析し、親和性のありそうな顧客も招待する。すると購買確率がぐんと高まる。お客さまにも満足していただけるし、ブランド側も新規客が増えて喜ぶ。データ活用の事例は、ある店舗で成果が上がれば、他の店舗にも応用する。データは合わせ技もでき、経験を積むほどノウハウは蓄積されていく。社内にもデータ分析に長けた専門家が増えた。9月からは各店舗でもデータアナリストの育成を始める。顧客DBは百貨店事業の要になる。
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