エイチ・ツー・オー リテイリング傘下の阪急阪神百貨店は、大阪・梅田の阪急本店(阪急うめだ本店、阪急メンズ大阪)と阪神梅田本店という強い旗艦店とデジタルを結びつけたOMO(オフラインとオンラインの融合)戦略を推進してきた。ただ山口俊比古社長にいわせれば「OMOはあくまで手段」。リアルやデジタルといった話の先にある百貨店の本質的な役割は何か。理論家の山口社長は、百貨店の提供価値をとことん突き詰める。(この記事はWWDジャパン2022年7月18日号からの抜粋です)
WWDJAPAN(以下、WWD):約4800人の従業員に配布したスマートフォンを通じて、社長自ら動画でメッセージを伝えていると聞いたが。
山口俊比古社長(以下、山口):阪急阪神百貨店のビジョンが従業員一人一人に腹落ちするまで届けたいと考えて出演した。テーマごとに短時間、社会とお客さまの変化を含めて説明している。一方的に発信するだけでなく、それに対する従業員の意見も集めている。当社のビジョンは「お客さまの暮らしを楽しく、心を豊かに、未来を元気にする楽しさナンバーワン百貨店」。私たちの存在価値であり、目指すべき旗である。上が念仏のように唱えても浸透しない。自分ごととして置き換えて、普段の仕事の中で考えることで初めて血肉になる。
提供価値はマトリョーシカの構造
WWD:一番伝えたいことは?
山口:百貨店が変わらなければならないことだ。従来は「催事で1000人並んで5000万円売れました」とか「今週はお客さまが10万人も集まりました」とかの話題で一喜一憂していた。そういった成果も大事だけれど、今後はお客さまに継続的に寄り添って長い関係を作っていくことに知恵をしぼる。百貨店はずっと「新しいものが見つかる」を提供価値として、商品の集積を考えてきた。12年の阪急うめだ本店の建て替え開業の際には、「新しい暮らしが見つかる」を掲げた。お客さまの生活やライフステージをもとにゾーニングした。でもコロナを経た現在、求められるのは「新しい自分になれる」だと思う。さらに発展し、他者の自己実現を応援するような共感消費が活発になっている。利他による自己実現といえるかもしれない。百貨店の本質は自己実現支援ビジネスであり、オフライン(リアル店舗)とオンライン(デジタル)を通じて寄り添っていくべきだ。
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