ファッション

元AKBこじはるが語る「ECで成功していても実店舗を出す理由」 7月30日に「ハーリップトゥ」初の直営店をオープン

小嶋陽菜/heart relation代表取締役CCO

小嶋陽菜(こじま・はるな):1988年4月19日生まれ、埼玉県出身。2005年にアイドルグループAKB48のオープニングメンバーオーディションに合格し、第1期生として活躍。2017年にAKB48を卒業後、ファッション誌などでモデル活動をしつつ、18年6月にブランド「ハーリップトゥ」を自身が所属する芸能事務所Mama&Sonの中で開始。事業拡大に伴い、20年1月に新会社heart relationを立ち上げ、22年2月から現職


 小嶋陽菜が代表取締役CCO(チーフクリエイティブオフィサー)を務めるheart relationは7月30日、小嶋がプロデュースするブランド「ハーリップトゥ(HER LIP TO)」初の直営店「ハウス オブ エルメ(HOUSE OF HERME)」を、東京・神宮前にオープンする。店は表参道から1本入った通りにある2階建てビルの2階で、面積約213平方メートル。“ブティックホテル”がテーマの店内は、大理石の壁に組み木細工やモザイクタイルの床、小嶋自らが世界各国から取り寄せたという什器や照明を組み合わせており、非常に豪華で凝った空間だ。週末の入店はしばらく抽選による予約制で、オープン初日の入店には約3000人の応募があったという。「プロダクトを提案するだけでなく、その先の経験を届けたい」と語る小嶋に、ECで既に影響力を持つブランドが実店舗を持つ狙いや、ブランドの今後について聞いた。

WWD:2018年にブランドを立ち上げて以来、ECを主販路にしつつ、ポップアップストアを定期的に開催する形で成長してきた。常設店出店を決めた背景は。

小嶋陽菜heart relation代表取締役CCO(以下、小嶋):コロナ禍以降、出掛けることや誰かに会うことがすごく特別なものになったと感じています。ポップアップストアを行う際も妥協することなくブランドの世界観を作り込んできましたが、従来以上に非日常感や、「せっかくお出掛けするからこその特別感」みたいなものが求められるようになっています。それを感じられる場所を作りたいと思って出店を決めました。

 今はわざわざ実店舗を持たなくても、ソーシャルで何でもできる時代です。「ハーリップトゥ」もSNS上のクリエイティブが好評だし、ECで買った商品が届いた時の梱包の紙がかわいいって支持されています。そんなふうにオンラインでの体験がどんどん進化しているからこそ、オンラインではできないことをやらないと意味がない。オンラインで支持されてきた分、それでも店をやる意味は何かとすごく考えました。「これくらいならオンラインでいい」とは思われないような、わざわざ時間を作って来てもらったからこその意味を感じてもらえる空間を目指しています。

WWD:店内は確かに非日常を感じさせる凝った作り。どこを撮っても“映える”ようになっている。

小嶋:コロナ禍で海外旅行にもなかなか行けなくなって、気分が上がる瞬間が少なくなっています。店内には私の好きなものを詰め込んで、世界中を旅しているような気分になれるようにコーナーごとに作り込みました。例えば今私が座っているコーナーは、イギリスの壁紙とイタリアから取り寄せたビンテージのランプを組み合わせています。ランプは以前からかわいいなと思っていたけど、自宅のインテリアにはちょっと合わなくて購入していなかったもの。でも、お店にはいいなと思って取り寄せました。他にも、フィンランドのアーティストや家具デザイナーなどにインスタのDMで私が直接連絡して、店内に置きたいものを集めました。内装はやりたいことがたくさんあったので、(特に建築デザイナーなどとは組まず)それをリストに全て書き出して施工の会社に渡しています。

 ドレスルーム(試着室)は5つあって、壁紙や床の組み木模様を1つ1つ変えています。以前パリで泊まったホテルが、部屋ごとに内装イメージが全く違ってワクワクしました。そんなときめきを感じてもらいたくて。スイートルームと呼ぶコーナーでは、ロイヤリティーの高いお客さまに向けて何か特別なプログラムを提供していきたい。コーヒースタンドのコーナーは、私が好きな神宮前のカフェ「ラテスト」と組んでメニュー開発をしています。ブランドのモチーフであるチェリーを使ったオリジナルドリンクも作りました。アパレルの在庫を置くとストックルームのスペースがかなり大きくなってしまうので、服はここでは試着のみにして、ECで購入するショールーミング形式にしています。

購入した“その先”が見えるブランドに

WWD:「気分が上がる体験をデザインする」ことは、今あらゆるブランドが目指しているものだ。

小嶋:お客さまのSNSを見ると、特別な場所に「ハーリップトゥ」を着て行っていただいていることが多いです。服やビューティアイテムを販売するだけでなく、(購入した)その先の自分を想像できるブランドでありたいし、この店もまさにそんな提案をしていくための場所です。立ち上げから最初の2年はリゾートで着るワンピースのブランドというイメージでしたが、コロナ禍以降は「ハーリップトゥ」を着てアフタヌーンティーに行くという声が広がっています。それで期間限定で代官山にカフェをオープンしたり、大阪でホテルと組んだアフタヌーンティーのイベントを行ったりしてきました。そんなふうにお客さまの動向を見ていて気づくことは多いです。

 「ハウス オブ エルメ」のエルメは、herとmeを組み合わせた造語。あなたと私がつながる場所といった意味です。私自身買い物が好きで、これまでさまざまな店で高いホスピタリティーのサービスを受けてきました。その中で、こういう気遣いはすてきだな、粋だなと感じてきたものがあるから、そう感じていただけるようなサービスをこの店からも提供していきたい。

WWD:店ができたことで、イベントもこれまで以上に実施しやすくなった。例えば27日には、一般オープンに先駆けて店を体験できるプレビューイベントも3000円のチケット制で企画しており、抽選で当たった客が入店できる仕組みになっている。

小嶋:27日のストアプレビューパーティーは、一番近いファンの方にいち早く店を見ていただきたいと思って企画しました。どういう形がいいか、考えに考えてこの形にしています。ケータリングを用意し、一部商品は一足早く購入が可能。ブランドのことがより好きな方に来ていただいて、楽しんでいただくために絶妙な金額だと判断して、チケットは3000円としました。お店を完成させることでいっぱいいっぱいだったので、それ以降のイベントなどの計画はこれから。熱量の高いお客さまに、よりエクスクルーシブな体験を提供できるようにしていきたいと思っています。

ブランドはスケールさせればいいわけじゃない

WWD:会社組織の話に移ると、安倉知弘CEOなどIT系企業出身の経営層メンバーが増え、2月に新体制となってパワーアップしている。

小嶋:お店を出し、さまざまな事業を行っていくとなると、人が足りない、私1人では実行できない。それで仲間を増やしてきました。今、社員は約40人です。やりたいことをやり切る力のある、いいチームになってきたと思います。今は毎日が文化祭の前日みたいな感じ。6月は月間売り上げとしても過去最高を記録しました。

 IT系出身メンバーは、それまで「事業をいかにスケールさせるか」という世界で生きてきた人たち。でも、ブランド運営は単にスケールさせればいいわけじゃない。余白とか、アート的感覚みたいなものがブランドを作る上では重要だから、発想としてはITと真逆です。そこの考え方のすり合わせにはものすごく時間をかけました。IT系出身のメンバーは増えましたが、グラフィックデザイナーや動画制作者などクリエイターの方はもっと社内に必要で、クリエイターが働きやすい環境や仕組み作りが大事だなと思っています。

WWD:新事業ではどんなことを考えているか。例えば今は、NFTに大きな注目が集まっている。

小嶋:サプライズを届けることを会社のテーマにしているので、次に何をやるかは秘密です。NFTは2年ほど前に社内で“アメリカのマーケットトレンド共有会”みたいな勉強会を開いたときに知って、何かに取り入れられたら面白いなとは思ってきました。でも、「ハーリップトゥ」のお客さま世代に浸透するにはまだまだハードルがあると感じています。NFTが世の中にどうなじんでいくのかは、個人的な興味としても追っていきたいと思っています。

 “アメリカのマーケットトレンド勉強会”は常にやっているわけではないですが、今は新卒採用で入社した帰国子女の社員もいて、海外のビューティトレンドなどをどんどんシェアしてくれる。そんなふうに、次々といろんな情報が出てくるカオスみたいな状態が好きだし、会社としてすごくいい雰囲気だと思います。「自分たちの事業はこれ」って、決めつけないことが大事。アパレルだけ、ビューティだけって決めつけない。私はエンタメ界出身というのもあって、何と何を組み合わせて、どうすれば面白くなるかを常に考えています。

ここから経営として新しいフェーズに

WWD:常設店舗は今後増やしていくのか。

小嶋:まずはこのお店でお客さまとより深いコミュニケーションを取っていきます。それ以降のことはまだ考えていません。ポップアップショップも、いろんな地域のファンの方から「うちのエリアにも来て」と多くの声をいただきます。でも、求められるクオリティーのものを出していくのはものすごく難しい。やりたいけど、まずはその体制を作らないといけない。お客さまの熱量が非常に高い分、販売員はそれをさらに超える商品知識やホスピタリティーがないといけません。そういう人を採用するのはとても大変ですが、それでも一緒にやっていきたいという仲間をぜひ採用したい。

 実店舗を持って、お店と本社というようにロケーションが離れたことで、ここからはまた(経営の)見え方やフェーズが変わってくると思う。そういう環境の中で「みんなで頑張ろう!」という形をどう作るのか。それは私にとっても課題だし、会社としてこれからのチャレンジだなと思います。

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