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ティファニーが日本の伝統技術を支援 金沢縁付金箔の職人育成プログラム発足で次世代に文化をつなぐ

 今年で日本上陸50周年を迎えるティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インク(以下、ティファニー)はこのほど、歴史的建造物や文化遺産の保存に取り組むワールド・モニュメント財団(以下、WMF)と共に、日本初の「金沢縁付(えんづけ)金箔製造職人育成プログラム」を発足した。同プログラムの目的は、2020年にユネスコ無形文化遺産に登録された金箔作り「金沢縁付金箔製造」の後継者育成と、伝統工芸の持続的保存だ。ティファニーは伝統文化の後継者育成支援を通じて、同社が事業展開する地域社会の発展に貢献していく。

3年間の実践で次世代の職人を育てる
「金沢縁付金箔製造職人
育成プログラム」

 ティファニーとWMFが立ち上げた同プログラムは、次世代の金箔製造職人の育成と伝統工芸の保存が目的だ。昨今、日本の金箔のほとんどは石川県金沢市で生産しており、工芸品や食品、化粧品などさまざまな分野で使用されている日本には欠かせない素材だ。特に、仏具や伝統的な木造建造物の装飾、修復によく用いられ、京都の金閣寺も金沢産の金箔が大部分を占めている。

 しかし職人の平均年齢が70歳と高齢化し、後継者問題も深刻化しつつある。今回立ち上げたプログラムは、生産地の金沢市をはじめ、文化庁と金沢金箔伝統技術保存会の協力のもと、ティファニーとWMFと共に官民協働で取り組み、日本の伝統技術を次世代に継承していく。

 現在は、金箔製造の技能取得にふさわしい資格要件を満たした訓練生8人が、金沢箔職人の工房で実践訓練中だ。プログラムは準備コースと基本技能コースで構成されており、今後3年間にわたって週5日のペースで実施していく。ティファニーがブランド設立以来大切にしてきた伝統的なクラフトマンシップと、WMFの豊富な経験を生かしたこの育成イニシアチブを成功に導くことで、文化財保存に欠かせない日本の優れた伝統技術を次世代に継承する、有効なモデルの一つになることを目指す。

 訓練生の中には、「もともと日本画をやっていて、自分の作った箔が誰かの作品の下で輝いてくれたらうれしいと思い、このプログラムに参加しました」という生徒もいる。工房での実習を受けて「金箔作りは打紙(うちがみ)として使う和紙、雁皮紙(がんぴし)が一番重要だということを初めて知った」という。「同じ作業を何十回と繰り返すことで上質な雁皮紙に仕上がるのですが、その紙仕込みの大変さを身に染みて感じています」。今後の意気込みについては、「師匠の下で経験を重ねるうちにできることが一つずつ増え、良しあしも徐々に分かってきました。この技術を後世につないでいかなければなりません。訓練を経て職人になれたら、私も教える立場として後継者を募る活動をしていきたいです」と語った。

ティファニー財団サポートの歩み

 ティファニー財団は、日本におけるWMFの活動を長年にわたり積極的に支援してきた。WMFは1965年に設立された非営利組織で、世界中の貴重な建造物や文化遺産の保護に努めている。ティファニー創業地と同じニューヨークに本部を構え、カンボジアやインド、イギリスなど世界中に拠点を置く。国際基準の技術を有する専門家の手によって、これまで世界112カ国、700カ所以上で文化遺産の保護活動を行ってきた。ティファニー財団は、2006年に日本の尼門跡寺院の修復保存プロジェクトに25万ドルの資金を提供。その資金を元に、奈良の中宮寺表御殿や京都の霊鑑寺奥書院など、歴史的建造物や障壁画の修復作業が行われた。今回発足した同プログラムによって、両者は伝統文化の継承をより強固に推進していく。

金沢縁付金箔とは?

 金箔とは、金を打ち延べて約1万分の1mmまで薄く延ばした箔片をいい、製法時に使用する紙によって縁付金箔と断切(たちきり)金箔の2種類に分けられる。ティファニーがサポートする縁付金箔は、400年以上の歴史を持つ伝統製法だ。特殊な粘土を混ぜた手すきの雁皮紙を、わらのあくや柿渋、卵などに漬けて仕込んだ箔打紙(はくうちがみ)を使って金箔を打ち延べる。仕上げは、枠といわれる竹製の刀と鹿革を貼った革板で金箔を1枚ずつ定寸の正方形に裁断するため、手間と高い技術を要する。もう一つは断切金箔だ。1965年ごろから導入された製法で、パルプを原料とするグラシン紙にカーボンを塗布して金箔を打ち延べる。仕上げ時も、金箔と間に挟んだ箔合紙を数百枚まとめて定寸の正方形に裁断するため、短時間で大量生産することができる。現在、金箔の8割がこの製法で作られている。

 縁付金箔の製造は、大きく3つの工程に分けられる。1つ目は、純金とわずかな銀と銅を合わせて金箔の原料である合金を作り、それを1000分の1mmの薄さまで打ち延ばす澄(ずみ)工程。2つ目は、「箔打紙の出来で金箔の品質が決まる」といわれるほど、金箔作りで重要視されている紙仕込みだ。職人らは金を打つよりも長い時間を紙仕込みに費やし、3カ月以上かけて完成させる。3つ目は、澄工程でできた1000分の1mmの薄さの金箔を1万分の1mmまで打ち延ばし、それらを道具を使って職人の手で1枚ずつ裁断して完成させる箔工程だ。これら3つの工程を経て完成した縁付金箔は、さまざまな工芸品や美術品にも用いられている。

5万枚の縁付金箔を使った
本願寺金沢別院

 金沢にある浄土真宗本願寺派の本願寺金沢別院は、縁付金箔との関係性が深い場所だ。1849年に再建された本堂の内陣を1993年に大規模修復した際、5万枚の縁付金箔を使った金箔押や、黒漆塗、極彩色塗が施された。黄金に輝く金箔の下地として、柱には漆を塗り、ふすまには紙を張っており、それによって同じ金箔でも輝きに違いが出て、奥行きのある黄金の内陣に仕上がっている。縁付金箔が堂内を大胆に照らし、同時に細部の装飾には繊細な輝きをもたらす。長きにわたって継承されてきた職人の技が見られる貴重な場所だ。

PHOTOS : SHUNICHI ODA
問い合わせ先
ティファニー・アンド・カンパニー・ジャパン・インク
0120-488-712