時計の世界から画期的なアートピースが発表された。「ルールなき、妥協なき、大胆な時計作り」を掲げるリシュモングループ傘下でジュネーブの高級時計ブランド「ロジェ・デュブイ(ROGER DUBUIS)」が日本限定28本で発売した“エクスカリバー モノバランシエ ソラヤマ”だ。
大胆なスターシグネチャーが印象的なスケルトンの機械式ムーブメント、10時位置にセットされたピンクゴールド&タングステン製のマイクロローターが、回転するたびにダイナミックでドラマティックなモアレ模様を生み出し、観る人を釘付けにする。キネティックアート(動く彫刻作品)ともいえる腕時計だ。
コラボレーションの相手は、女性の身体美をロボットのイラストレーションに取り込んだ「セクシーロボット」シリーズ(1978〜)で世界的なアーティストとなった空山基氏。フリーハンドのデッサンに世界最高と讃えられる巧みなエアブラシ技法を駆使して描かれる、ハイパーリアリスティックでメタリック、かつセクシーなイラストは、一度見たら忘れられないインパクトで、秘められた毒やユーモアに共感し敬愛する熱烈なファンが世界中に数多い。また空山氏はイラストレーションに限らず、プロダクトデザインの世界でも伝説的なプロダクトを世に送り出してきた。中でも特筆すべきなのが、ソニーが1999年に発売した犬型のエンターテイメントロボット「アイボ(AIBO)」の初代モデルのデザイン。空山氏が描いたのはたった一枚のデザインスケッチのみだが、その一枚がすべてを変えてしまったことはあまりにも有名だ。
一方の「ロジェ・デュブイ」は、現代の高級時計の世界でも、もっとも贅沢で大胆なウオッチブランド。ニコラ・アンドレアッタ(Nicola Andreatta)最高経営責任者は、「超越したものしか作らない。だから普通の人は相手にしない」と断言し、“世界のどこにもない、アヴァンギャルドなアートウオッチ”を創り続けて居る。
「2Dでは不可能なモアレを、
時計という立体で実現したかった」
7月29日には東京・表参道で発売を記念したトークショーが開催され、空山氏が登壇。集まったメディアの前で作品のコンセプトやその中に込めたクリエーターとしての想いを語った。
空山氏は「実現したかったのは、“モアレ”という動的な表現を取り入れること。挑戦してみたけれど、2次元のイラストではモアレの表現は不可能なんだ。でも3次元の立体物なら表現できる。このアイデアを送ってから数カ月、『ロジェ・デュブイ』から何の連絡もなかったので、ボツになったのかと思っていたよ(笑)」と話した。
だが、ジュネーブのプラ・レ・ワットにあるロジェ・デュブイの本社ファクトリーは、この大胆なアイデアの実現の可能性を真剣に検討。1年以上の時間をかけて、文字盤上で回転するマイクロローターにセットされた、ピラミッド型にギヨシェ加工のパーツと、その上にセットしたサファイアクリスタルに刻印したブラックのラインが光学的な干渉でダイナミックなモアレを生み出す、時計のデザイン史上初のメカニズムを開発し、空山氏のアイデアを実現した。
一方で空山氏は「ロジェ・デュブイ」へのオマージュとして、星のモチーフを大胆にくり抜かれた地板で表現した“アストラルスケルトン”デザインのムーブメントやケース、ブレスレットの素材には、軽量なチタンを採用。しかし“エッジを際立たせる”これまでのメゾンの文法とは真逆に、スターシグネチャーのムーブメントの地板からケース、ベゼル、リュウズ、ブレスレットまで、その仕上げすべてを、あの伝説の「セクシーロボット」イラストレーションのように、3次曲面を基調にしたなめらかなミラーポリッシュ仕上げで統一した。自動巻きローターのモアレ効果に加えて、時計の歴史でも初めての「メタリックなエロティシズム」が漂う1本に仕上がっている。
日本限定で生産数はわずか28本。この28本限定生産は「デアー・トゥ・レア(あえてレアな存在を目指す)」というメゾンのポリシーを体現するものだ。だがスイスを始めヨーロッパ、中国など世界中から注目されている新作だ。時計愛好家はもちろん、空山基ファン、現代アート好きならぜひ一見をオススメしたい。