ポイ捨てタバコに人形の靴を履かせたピアス、その名も“ハイヒールたば子”。ウィットにとんだこのアクセサリーを制作したのは、アーティスト、カナコネヅ(KanakoNezzz)だ。地元の川で拾ったプラスチック片やポイ捨てたばこなどを素材にアクセサリーを制作・販売している。きっかけはコロナ下で仲間と始めたごみ拾いだという。
WWDJAPAN(以下、WWD):ブランド名の「境ジュエル(SAKAI JEWEL)」は、東京と神奈川の境を流れる境川に由来しているそうですが、活動のきっかけは?
カナコネヅ(以下、カナコ):近所の境川にゴミが落ちていることはずっと気になっていたけどなかなか一歩が踏み出せなかった。コロナが広がり始めた2020年3月に仲間と飲みながら環境問題を話すなかで「やろうか」となりました。タップダンスを教えていた私はコロナで仕事がなくなり、お金に余裕はないけど時間はあったから。毎朝6時から1時間、川の中でもソーシャルディスタンスをとって拾い始めたらせせらぎの音が気持ち良くて。しかもごみを拾っていると周囲から感謝されて「これは仕事になる」と思いました。
WWD:仕事になるとは?
カナコ:なるというか、する、でしょうか。私たちが拾っていることに気がついて応援してくれる人が増えました。中には「終わったら休憩してね」と、「コメダ珈琲」の回数券くれる方もいてこれは“投げ銭”だな、と。ボランディア精神だけでは続きにくい、でも、ごみ拾いをお金に換えられるなら継続できると考え「アースクロスオーバー」というチームを3人で作り、アクセサリー制作などの活動を始めました。
WWD:デザインは独学?
カナコ:「ユーチューブ」や「ピンタレスト」を見ながらの独学です。学生の頃から古着を材料にミシンを使ってリメイクするのが好きでした。3人兄弟で小遣いが少ないから欲しいものを見つけると「どうやって買おう」ではなく「どうやって作ろう」と考える習慣がついていて。古着という材料は無限にあり、発想次第で欲しいものが作れるから楽しいです。
WWD:それでアクセサリーのパーツとして、境川で拾ったごみを使い始めたと。
カナコ:そうです。川には陶器やガラスの破片が多いですね。雨で増水しているときは町田駅周辺など街でも拾いますが、街にはたばこのポイ捨てが多い。ポイ捨てシリーズのアクセサリーは、タバコの周囲に樹脂を少し塗っては乾かすことを繰り返し固め、人形の靴を履かせました。捨てた人の元へ帰ってね、という意味も込めて。
“2050”リングに込めた海への思い
WWD:どんな反響を得られた?
カナコ:ポイ捨てに関しては「おもしろい」と言ってもらったり、「人が吸っていたものは嫌」だったりとさまざまです。
WWD:リングの「2050」が意味することとは。
カナコ:境川は江ノ島辺りで相模湾へ流れ込みます。茅ヶ崎へビーチクリーンに行ったとき「2050年には海中のプラスチックの量が魚の量を超えるかもしれない」と聞き、そうなる前にアクションを起こそう、とういメッセージを込めました。
WWD:リングの中では男性カップルがキスをしていますね。
カナコ:そうですね。境川の名前でもある“ボーダー”はいろいろな意味があります。LGBTQ、世代、障がい、人種、信仰、人間と人間以外の動物など身近なボーダーを考え、差別をなくすきっかけになったら嬉しいです。
WWD:ごみ拾いは今も続いている?
カナコ:タップダンスの先生、グラフィックデザイナー、そして夜はスナックで働きながら続けています。ただ、最近ごみ拾いに参加する人が増えて、ごみが減ってきました。
WWD:それはすごい。飲み会から始まった輪が広がっている。
カナコ:はい、最近は「アースクロスオーバー」の活動が広がり、企業さんから「廃棄花を活用できないか?」といった相談を受けたりしています。
WWD:オンラインストアのほか、「エシカルコンビニ」などへの卸販売も始めている。アクセサリーを通じて伝えたいことは?
カナコ:この先も美しい地球であってほしい、そのために今を大切に生きる。それがボーダーレスという行動につながってゆくと思う。「境ジュエル」をきっかけに地球で起こっていることに関心が集まったら嬉しいです。