デイトナ・インターナショナルが運営するセレクトショップ、ファーストハンド(FIRSTHAND)の立ち上げや、ツージー トーキョー(2G TOKYO)でビジネスディレクターを務める福留聖樹は、服を扱うバイヤーから業界の垣根を越えたコミュニケーターへとキャリアの幅を広げている。
ブロックチェーン技術で社会課題の解決を目指すUPDATER(旧みんな電力)にサステナブル領域事業のプロデューサーとして参画するほか、データサイエンス事業を手掛ける企業ではマーケターとして、カーボンニュートラルに向けた生活者個人の行動変容を支援するサービスに従事する。「信頼の循環」をキーワードに新たな価値創造に挑戦する福留に話を聞いた。
WWD:キャリアのスタートは?
福留聖樹(以下、福留):もともとファッションの勉強はしておらず、新卒で航空会社に入った。プライベートで斎藤久夫さんの「チューブ(TUBE)」によく遊びに行っていたら、スタッフを募集していて周りの先輩たちに勧められ、転職した。入って3カ月後には、新潟のニット工場へ行ったり、企画や営業、アシスタント的なことも含めていろいろ経験させてもらった。その後「チューブ」に勤めていた何人かと起業してライフスタイル型のコンセプトショップを始めた。当時はメゾン系のブランドが、日本製の商品を作り始めた時期で、海外ブランドの日本生産に携わる仕事を並行して行った。その後も日本の産地の人たちを海外に紹介したり、国内ブランドを海外に持っていったりといった仕事を続け今に至る。
WWD:現在はファッション以外の領域にも活動の場を広げている。
福留:良いと思った服を仕入れる感覚の延長で、この人たちと組んだら新しいライフスタイルや価値が生まれるだろうと思った提案を続けた結果だ。今は業界をまたぐコミュニケーター的なポジションを目指している。
WWD:具体的にこれまでにどんな掛け合わせが生まれた?
福留:例えばファーストハンドではバレンタインの時期に、UPDATERのブロックチェーン技術を使ってフェアトレードチョコレートを販売した。ブロックチェーン技術を使うことで消費者が支援先を選べる仕組みができ、最終的に支援先の生活がどう変わるかまで可視化できる。フリークスストアもUPDATERと協業して再エネプロジェクト「フリークス電気」を開始した。自治体やNPO、学生と連携して耕作放棄地の問題や地域の資源循環につながるスキームになっており、再エネの販売を通して複合的な課題にアプローチできるようプロデュースした。
WWD:面白い掛け合わせを生み出すコツは?
福留:今ファーストハンドのバイイングを任せているスタッフにも伝えているが、何かを面白くするためには、関わる人たちとの信頼関係がすごく大事。お互いがこの人のためだったら、新しいことに挑戦したいと思える「信頼の循環」を大切にしている。
値札ではなく、価値札を
WWD:2019年に立ち上げたファーストハンドは、「クリエイティブを重視したサステナブルなコンセプトストア」を掲げているが、サステナビリティを意識し始めたきっかけは?
福留:たどれば、無駄にしないモノづくりを実践していた斎藤さんの影響は大きかっただろう。特に生産現場を訪れ、業界の課題に気付くようになった。工場内に大量に放置された商品や報道されているような外国人技能実習生の問題、海外の児童労働の現場も目にした。特にラナ・プラザの事故は、見聞きしてきた過酷な生産現場に慣れてしまっていた自分にとって、あらためて課題の深刻さを認識させられた出来事だった。何とかそうした課題を解決し、産地を巻き込んだクリエイティブでサステナブルなモノづくりができないかと考えて生まれたのがファーストハンドだ。いろいろなところに事業提案していた中で、デイトナの鹿島研前社長が「では、やってみなさい」と言ってくれた。
WWD:当時はまだサステナビリティのアイデア自体浸透していなかったのでは?
福留:そう、なのであくまでファッションやライフスタイルの中でわくわくするようなことをしっかり提案した。ただ僕が出合った本当にかっこいいブランドやアーティストは、昔からサステナブルな意識を持っている人たちが多かった。だから尖った商品や作品でも、結果的にサステナブル文脈をちゃんと伝えられる確信があった。
WWD:スタートして約3年、手応えは?
福留:最初に骨董通りに店を出したときは正直、自分が伝えたいことがなかなか広がらなかった。たくさんの人が訪れるミヤシタパークに場所を変えてから、内装も含めて伝わりやすいプレゼンテーションを意識している。まだ自分が期待していたスピード感ではないものの、サステナブル文脈に興味を持ってくれるお客さまは増えているし、気付きのきっかけが提供できている。これからさらにブランドやアーティスト、お客さまと一緒に学ぶ場に成長させていく。
WWD:これからの時代、セレクトショップの面白さとは?
福留:お客さまにとっても今面白いと感じる店は、ブランドの熱量を伝えてくれる場所のはず。特に実店舗ではより古典的な接客やサービスを徹底できるところが強いだろう。ファーストハンドでも、スタッフへの教育に力を入れてより濃く商品価値を伝え「信頼の循環」を、お客さまを含めて回していく。今後はUPDATERのブロックチェーン技術を他の商品やサービスにも組み込み、社会課題解決や新しい「価値札」の提供手段として活用する予定だ。