ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。ロシアや中国の政治問題がファッションビジネスに陰を落としている。世界中で作って世界中で売ることで発展してきたグローバル企業も戦略の見直しを余儀なくされるかもしれない。
ロシアによるウクライナ侵攻や中共による台湾恫喝で歴史の歯車は冷戦期に逆転し、1980年代末期の冷戦終了以降、急進したグローバル化のご利益も今やリスクとコストに暗転した。ならば冷戦終了によるグローバル化の申し子であるSPA(自社ブランドによるアパレル製造直売専門店)もD2Cアパレル(直販アパレルメーカー)も、その存立基盤を失いつつあるのではないか。
グローバル化は果実から毒林檎に
80年代末期の冷戦終了以降、中国や東欧・ロシアなど旧社会主義圏が西側のサプライチェーンに組み込まれ、世界にデフレが輸出されて大量生産・大量消費が加速され、東西ともグローバル化の果実を享受してきた。それが2008年秋口のリーマンショック以降、先進国が過剰供給した資金がBRICsなど途上国に流れ込んで経済成長が加速され、生産圏から豊かな消費圏へ変貌するに連れコストが高騰してインフレ輸出に転じ、コロナとウクライナでグローバル化の果実はカントリーリスクとコストインフレという毒林檎に変質した。
グローバル化がデフレをもたらしたリーマン前までとは一変し、グローバル化はコストインフレをもたらすようになり、コロナを契機に各国市場のローカル回帰が急進し、カントリーリスクも顕在化した。モードに立脚する欧州のSPAは「国潮」に勢いづく中共でも、貧困化してモード離れする緩抜けフィットの日本でも顕著な逆風にさらされ、多くのブランドが撤退や店舗網の縮小に追いやられている。
元よりアパレルは地域の民族文化に立脚するローカルな生活財であり、各国が経済発展と市場開放で勢いづく時期は異文化に立脚するアパレルも積極的に受け入れられるが、国力が高揚して自信過剰になれば自国ブランド信仰に転じ、国力が衰退して消費が衰えれば海外ブランドを支える基盤も崩れる。前者が今の中共であり、80年代日本のカルト化したDCブランド信仰を想起させるが、後者が今のわが国なのだろう。
ならばグローバル展開するブランドは直販や直卸で各国市場にローカル対応するか、ライセンシングや代理店設定でローカル分業するか、撤退するかの決断を迫られる。
垂直統合から再び分業へ
グローバル化でデフレが進んだリーマン前まではリスクよりチャンスが大きく、企画・生産・販売の全てを抱え込むSPAやD2Cアパレルが志向されたが、リーマン以降はコストインフレに転じて採算が悪化し、コロナとウクライナ以降はカントリーリスクがチャンスを上回り、企画・生産・販売の全てを抱え込んでは経営が成り立たなくなってきた。
SPAといってもわが国では生産・サプライを商社などに委託し、企画もOEM/ODMなど詳細は外部委託するケースが多く、全てのチャンスとリスクを抱え込んでいるわけではない。コロナ禍では発注品の引き取りをキャンセルしたり来期に延ばすなど川中にリスクを振るケースも頻発したが、良品計画のように自社(子会社含む)で全て抱え込む体制では叩き売り同然に在庫を処分せざるを得なかった。
定期購読についてはこちらからご確認ください。
購⼊済みの⽅、有料会員(定期購読者)の⽅は、ログインしてください。