「WWDJAPAN」ポッドキャストシリーズの連載「考えたい言葉」は、2週間に1回、同期の若手2人がファッション&ビューティ業界で当たり前に使われている言葉について対話します。担当する2人は普段から“当たり前”について疑問を持ち、深く考え、先輩たちからはきっと「めんどうくさい」と思われているだろうな……とビビりつつも、それでも「メディアでは、より良い社会のための言葉を使っていきたい」と思考を続けます。第27弾は、【クィア】をテーマに語り合いました。「WWDJAPAN.com」では、2人が対話して見出した言葉の意味を、あくまで1つの考えとして紹介します。
若手2人が考える【クィア】
「クィア(Queer)」は、元々英語で「風変わり」「普通でない」という意味の言葉。19世紀頃から、ジェンダーやセクシュアリティーとしてのニュアンスが強まり、セクシュアルマイノリティーの人々への侮蔑語として使われていた。1990年代からは当事者たちが自らその言葉を使い、エンパワーメントのためにポジティブな言葉として再解釈する社会運動を行った。このような社会運動のプロセスは、“リアプロプリエーション(reappropriation、意味の取り戻し)”と呼ばれる。
“リアプロプリエーション”を経て、現在ではセクシュアルマイノリティーを指す言葉としてメディアなどでも多用されているものの、軽蔑的に使用されていた頃の記憶から、年配者を中心に拒否反応を示す声が未だにあるのも事実だ。しかし、アルファベットを羅列したLGBTQ+などの用語よりも、「クィア」が好まれている理由もある。“L”は“レズビアン”のようにそれぞれのアルファベットが1つのアイデンティティーを意味しており、多様なセクシュアリティーとジェンダー全てをLGBTQ+という表現で網羅するのは難しいことから“+”が付けられている。対照的に「クィア」は語源から考えても、社会的に”普通”とされてこなかったマジョリティー以外のすべての人を含むことができる、いわゆる“定義しない定義”だといえる。LGBTQ+の“Q”は「クィア」とも解釈されることもあり、この2つが関連していることに違いはないが、ニュアンスや角度によって使い分けられている。
「クィア」という言葉はファッションなどのスタイルとして使われることもある。もちろん「クィア」当事者のすること全てが「クィア」スタイルと解釈もできるが、最近ではある一定のスタイルとして確立されている。安全のために存在を隠すことの多かったセクシュアルマイノリティーが、その反動で色や形などを誇張し、過度に装飾をする“キャンプ(camp)”と呼ばれるスタイルがその代表格だ。また、「クィア」を冠するイベントや店なども増えており、例えば、ロンドンでは「クィア」デザイナーやモデルに焦点を当てた「ロンドン・クィア・ファッションショー(LONDON QUEER FASHION SHOW)」が開催されている。これらは、「クィア」という一定のスタイルを追求する目的ではなく、当事者たちが偏見などを気にせずに自分らしくいられるセーフスペースを提供するという意味合いが強い。
【ポッドキャスト】
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ポッドキャスト配信者
佐立武士(さだち・たけし):He/Him。ソーシャルエディター。幼少期をアメリカ・コネチカット州で過ごし、その後は日本とアメリカの高校に通う。早稲田大学国際教養学部を卒業し、新卒でINFASパブリケーションズに入社。在学中はジェンダーとポストコロニアリズムに焦点を置き、ロンドン大学・東洋アフリカ研究学院に留学。学業の傍ら、当事者としてLGBTQ+ウエブメディアでライターをしていた。現在は「WWDJAPAN」のソーシャルメディアとユース向けのコンテンツに注力する。ニックネームはディラン
ソーンマヤ:She/Her。翻訳担当。日本の高校を卒業後、オランダのライデン大学に進学して考古学を主専攻に、アムステルダム大学でジェンダー学を副専攻する。今ある社会のあり方を探求すべく勉強を開始したものの、「そもそもこれまで習ってきた歴史観は、どの視点から語られているものなのだろう?」と疑問を持ち、ジェンダー考古学をテーマに研究を進めた。「WWDJAPAN」では翻訳をメインに、メディアの力を通して物事を見る視点を増やせるような記事づくりに励む