中川政七商店(奈良市、千石あや社長)は、「ミロク奈良 バイ ザ シェア ホテルズ」と協業し、同社で取り扱う暮らしの道具で客室をしつらえたコラボ宿泊プランの第1弾を7月からスタートした。
宿泊プラン名は「雪音晒(ゆきねざらし)の寝具とヒノキの香り」。「心地よい眠りのための、日本の工芸の部屋」をコンセプトに、雪音晒の寝具をはじめ、奈良県産ヒノキの精油と吉野ヒノキのチップセット、ガラスの急須、真鍮(しんちゅう)の靴べらなど約20点の道具を用意した。
中でもベッドリネンと枕カバーに使われている「雪音晒」は究極のさらしとも呼ばれ、その名の通り、パウダースノーを踏みしめたときのようなキュッとした感触が特徴だ。不純物を99%取り除いた純度の高いリネンを使っているため、吸水速乾性に優れ、寝汗をかいてもサラサラとして快適に過ごせるという。
同社で初めて手がけるホテル宿泊プランについて、広報の佐藤菜摘氏は「奈良は夜遅くまで営業している飲食店が少なく、夜遊べる場所もない。せっかくの旅の夜をさみしい気持ちで過ごすのではなく、心地よく過ごしてもらいたいという思いで部屋のしつらいを考えた」と説明する。同プランの部屋タイプは広さ32平方メートル、定員2名のスーペリアルームで、窓を開けると興福寺の五重塔が望める。価格は2万6000円~。
ミロク奈良は2021年9月16日に開業。築31年の事務所ビルをリノベーションし、客室数44室のホテルにした。以前は駐車場だった地下階も活用し、客室に外光を取り入れるなどの工夫をしている。ホテルを企画・運営するリビタのホテル事業部グループリーダーの平田洋彦氏は「この場所は隣に荒池、その向こうに春日山原始林が広がり、奈良の町なかでも珍しいところ。夕方になると鹿もたくさんやってきて観光客に喜んでいただける景勝地になっている」と話す。
リビタは「ザ・シェアホテルズ」ブランドを全国に9店舗展開。“シェアリング・ウイズ・ローカルズ”をキーワードに掲げ、地域との共生をめざしている。ミロク奈良はその9号店で、飲食メニューは地元の人気カフェ「くるみの木」が監修し、バーカウンターや客室の照明器具は奈良の照明デザイン会社「ニューライトポッタリー」、スピーカーも奈良の「リスチゥード」(旧ソニハウス)の製品を採用している。柱やテーブル天板には吉野杉、ランプシェードには吉野町に伝わる和紙「宇陀紙(うだがみ)」など、古から伝わる素材や工法をモダンなデザインに取り入れている。
両者が協業することになった経緯について、平田氏はこう話す。「われわれは地域との共生や活性化を、中川政七商店は日本の工芸を元気にすることをめざしている。そこに共通軸があるので一緒に取り組めないかということになった。中川政七商店の売り場には、寝具のように手触りはすぐ分かっても寝心地までは体験できない商品もある。そういった商品を実際にホテルで体験してもらえれば、売り上げにもつながるのではないか。今後も季節ごとや新商品が発売されたときに、随時プランを企画していきたい」。
ホテルが立地するのは、東大寺や興福寺が建つ奈良公園の近く。コロナ禍の影響で奈良に訪れる観光客は激減したが、ホテル開業以降の稼働率は、奈良市内の宿泊施設の平均稼働率より2割ほど高く、「出足好調」という。7月16日には、三条通りに土産物専門業態「中川政七商店 分店土産 奈良三条店」が開業した。観光客が戻り始めている市内中心部で始まった取り組みが、奈良観光の再生につながる事例となるか注目していきたい。