私が初めて徳島県上板町の「ブアイソウ(BUAISOU)」を訪れたのは、2017年の夏の暑い日でした。「サステナブル」という言葉を知るようになったのも、この頃です。まだその意味が自分でもよくわからず、「よく聞く言葉だなぁ」と思いながら、自身のブランド「「パスカルマリエデマレ(PASCAL MARIE DESMARAIS.以下、PMD)」を立ち上げたころでした。地方分散型社会や環境に配慮したモノ作りを目指して「PMD」を立ち上げましたが、サステナブルという言葉が私たちの活動に当てはまるとは思ってもいませんでした。そんな時、知人を通して知ったのが「ブアイソウ」でした。
「藍染」という言葉は知っていても、それは一体どういったものなのか?伝統工芸とは知っていたものの、詳しくは分かっていませんでした。そんな中、伝統工芸を自分たちのものとして新しい形で生み出そうとしているチームという噂を聞いたのです。常に「現場を見てみたい」思いが強い私は、彼らに会いに行きました。その場所の温度や湿度、使用している機材に至るまで、人だけでなく、取り巻く環境に出会って初めて感じることがあると思っています。それらに出会い気づくこと、彼らが大切にしていることに何らかの形で小さくとも気づく事が大事だと感じています。
大きな古民家で作業する「ブアイソウ」では、楮覚郎さんをはじめとするメンバーが快く受け入れてくれました。そして単純なことではありますが、日本の伝統工芸だと思っていた藍染が世界中に存在することを教わりました。その中で日本の藍染を特別にするのは、「発酵」というキーワードでした。サステナブルな未来を描こうとするとき、どの業界でも発酵や菌という言葉を耳にするのは不思議ですね。無農薬で藍を育てるところから徹底している彼らはまるで、藍染の研究ラボの中で生活をしているようでした。中でも1番嬉しかったのは、楮さんの作品を見つめる満足そうな表情から、本当に好きなことを追求していると感じられたこと。満足感いっぱいで帰路についたのは、今でもよく覚えています。
それからカニエ・ウエスト(Kanye West 現在はイェ(Ye))やリアーナ(Rihanna)が「ブアイソウ」を訪れたと耳にすると、なぜだかワクワクしてとても嬉しい気持ちになったのは、日本の若い世代が伝統の力をとともに海を越えて、レジェンドたちとその技術をシェアしていく未来が嬉しく思えたからです。
そんな美しい藍染の技術が今回、「ジミー チュウ(JIMMY CHOO)」とのコラボを果たしたと聞いてまた心から嬉しくなったのは、私の大好きなブランドだったからかもしれません。自分の足には、どの靴より「ジミー チュウ」の靴が合うのでしょうか?昔から足にぴったりとはまる、そんなアイテムのひとつひとつが好きでした。今回は3つのキャンバス生地(サステナブル由来)を「ブアイソウ」が染め、イタリアで製品にしています。その一つ一つは、足先を靴に入れた時に完成する素晴らしいサステナブルなアートピースになっていました。
「伝統工芸が、どうしてサステナブルなんですか?」と質問をいただくことがあります。答えは、「伝統なくして、進化はないから」だと信じてます。伝統を守ることで、素材の価値や土地、資源、仕事は守られます。さらに職人は、決して毎日同じことを繰り返しません。彼らは毎日進化している、職人とモノづくりをする上で日々感じていることです。デザイナーは、その進化に携わっています。そして、その進化が新しいクリエイティブと新しい未来を生み出す。そこに循環があると考えています。すべては伝統から始まり、その上に進化が成り立つ。伝統を見失うと、その先が見えづらくなるのではないでしょうか?「ブアイソウ」はまさに伝統守りながら進化を続けているアーティストだと感じてます。そんな「ブアイソウ」のこれからの進化と、ハイブランドとの美しいコラボレーションをぜひ皆様にも体感していただきたいです。