ジュエリーブランド「シャランポワ(SHARANPOI)」代表兼デザイナーの安部真理子氏は、新ジュエリーブランド「アドリン ヒュー(ADLIN HUE)」を7月に立ち上げた。彼女は、サザビーリーグが運営するD2Cジュエリーブランド「アルティーダ ウード(ARTIDA OUD)」のディレクターを務めた人物。まだ、D2Cというビジネススタイルが珍しかったときから、洗練したアプローチで製品づくりからブランディング、発信まで行い、ブランドを成功に導いた。昨年サザビーリーグを退社後に、年末に自身のブランンド「シャランポワ」をスタート。同ブランドは、日本国内の古い宝石を調達してインド独特の技法や日本のうるし技術などを融合させたオーダージュエリーを提供している。まだ、ブランドが立ち上がって半年程度だが、新ブランド立ち上げについて安部代表にを聞いた。
東京・青山にある「シャランポワ」のサロンに行くと、ファッション編集者らしき女性二人がジュエリーを選んでいる最中だった。彼女らはおそらく、20代後半~30代前半。一見、顧客層よりも若く見えるが、熱心にジュエリーを見ている。オーダーは既に済んだようで、彼女たちは、「納品を楽しみにしています」とサロンを後にした。
猛暑の最中の訪問だったが、ゆったりと落ちついたサロンは都心の喧騒を忘れる静かでギャラリーのような空間だ。中央の広々としたテーブルに案内されると、「アドリン ヒュー」の作品や素材が並べられていた。
より幅広い層にカジュアルに楽しめるジュエリーを
安部代表は、「『シャランポワ』では、個性的なファインジュエリーを提供しているが、もっと幅広い層に楽しんでもらえるジュエリーを作りたかった」と話す。「アドリン ヒュー」に使用しているのは、デッドストックの石や廃棄予定のパール、そして化石とリサイクルシルバー。「シルバーを使用することで『シャランポワ』と差別化をはかっている。ボリューム感のある地金と個性的な石を組み合わせたジェンダーレスなジュエリーだ」と続ける。ブランド名は、女性の名前。「シャランポワ」同様、安部代表のイマジネーションから生まれた名称だ。
眠っている素材を掘り起こして光を当てる
目の前に並んでいるのは、いわゆる一般的な“宝石”とは違うものばかり。中には、マラカイトやクオーツ、サンゴなど見たことのあるものもあるが、素材の多くについては、安部代表に質問しなければ分からないユニークなものだ。「ガーデンクオーツ(庭園水晶)やかっこみ水晶、ランドスケープアゲートなどをはじめ、木やアンモナイト、サンゴの化石などを使用する。宝石にこだわるわけではなく、ガラスや真鍮素材のビンテージのチェーンネックレスなども提案する」と安部代表。“かっこみ水晶”は初めて耳にした名称。彼女にそれが何かと聞くと、「かっこみ水晶は、日本にしかない素材。職人が水晶の原石をムダなくカットする方法のことを“かっこみ”と言う。荒削りだが、透明感が高く、氷や飴玉のような独特の風合いが魅力だ」と言う。確かに、通常の水晶を使用したジュエリーとは異なる、透明感のある風合いがユニークだ。このように、安部代表が自身のブランドでこだわるのは、“既存の素材”。新たに調達すると言うよりは、業界内で眠っている素材を掘り起こし、光を当てて次の生命を与えるのが彼女のモットーだ。「シャランポワ」では、リフォームの依頼も多い。安部代表に全てお任せで、眠っているジュエリーを預けていく顧客が多いと言う。
全て一点もの、同じものは存在しない
既にリングやイヤカフといった製品もあるが、目の前に個性的な素材が並べられていると、ついつい目移りしてしまう。安部代表は、一つ一つの素材について熟知しているので、丁寧に説明をしてくれる。製造に関しては、「素材がユニークなので、一つずつ型を作って、インドで生産している」と言う。だから、オーダーすると納品まで数カ月かかるわけだ。完成した作品を見ると、個性的な石の脇にさりげなく、パヴェダイヤモンドが施されているものが多い。図鑑に出てきそうなマニアックな石の脇にさりげなく添えられたパヴェダイヤモンドが、その石の品格を引き立てている。「アドリアン ヒュー」の中心価格帯は約4万〜6万円。ガラスのイヤカフやビンテージの真鍮ネックレスは1万円程度だ。
唯一無二のジュエリーを着ける喜びと楽しみ
私が惹かれたのは、まるで絵画のような面白い模様を描いた縞オニキスのリング。アールデコ調の長方形にカットされたオニキスの脇にダイヤモンドのパヴェがあしらわれている。これを逃すと二度と出合えないかもしれないという思いから購入を決めた。色鮮やかな私自身の洋服とは相反するシックなリングだが、毎日着用してその独特な風合いを楽しんでいる。
「アドリン ヒュー」は、今後、ポップアップショップ開催なども視野に入れている。青山のサロンのほか、専用ウェブサイトでも購入可能だ。