ファッション

“プリキュアネックレス”の22世紀ジェダイ/門倉太久斗がドローイングを本格化 「ギャルソン」パタンナーの経験でたどり着いた“脅かし役”とは?

 22世紀ジェダイこと門倉太久斗は、アニメ「プリキュア」シリーズのフィギュアをモチーフにしたネックレスや、自身が住むマンションの掲示板へのドローイングをSNSで発信し、アート界を中心に徐々に注目を集めている。門倉は「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」でパタンナーと勤務しながら創作活動を行い、今年1月に独立。アクリルによる新作のペインティングや、これまでの立体ネックレスを展示する個展「どれもそれぞれに可愛くて一番は決められない」を東京・田端のウィッシュレス ギャラリー(WISH LESS gallery)で8月21日まで開催中だ。門倉に、会社員時代の学びや作品のルーツなどについて聞いた。

高校3年生まではファッションに無頓着だった

WWD:活動名を22世紀ジェダイ/門倉太久斗と二つの名前を続けているのはなぜ?

門倉太久斗(以下、門倉):“プリキュアネックレス”の名義が22世紀ジェダイで、絵の場合は本名を使っているんです。以前は企業に勤めていたので本名が使いづらく、展示をするようになるとも想像していなかったので、Twitterのアカウント名をそのまま名乗るようになりました。

WWD:ファッションに興味を持ったきっかけは?

門倉:今は服が大好きですけど、高校3年生までは自分で服を買ったことがなかったくらい無頓着だったんです。興味を持ったきっかけは、武蔵野美術大学の空間演出デザイン学科で受けたウエアラブルという授業でした。ファッションの課題ではあるものの、おしゃれなものを作るのではなく、着ることによって起こる変化を考えるという授業だったんです。僕は神社をそのまま着るという作品を作って面白さに気づき、その後ファッションを専攻しました。

WWD:学生時代にはほかにどんな作品を作った?

門倉:例えば、飛行機の骨組みをそのまま着てみる作品です。プロペラもちゃんと回るんです。僕の師匠である野老朝雄さんは、東京2020オリンピック・パラリンピックのエンブレムをデザインしたことで知られているのですが、もともとは建築の世界にいたので、当時は彼の影響をすごく受けていましたね。

WWD:大学卒業後の進路に「コム デ ギャルソン」を選んだのはなぜ?

門倉:卒業後はアーティストになるつもりでしたが、「コム デ ギャルソン」がすごく好きだったので、一社だけ受けてみようとパタンナー職に応募したんです。

WWD:当時学んだことのなかで特に印象的だったことや、今に生きていることは?

門倉:やはり、新しいものを作るのがいかに大切かということです。僕は美術の大学を卒業し、世の中にあるかっこいいものや美しいものを自分でも作れるようになりたいと思っていました。でも、それだけではダメだったんです。誰も見たことがなくて、どう解釈していいか分からないものを作るのが目指す場所だと気づきました。川久保さん(川久保玲『コム デ ギャルソン』デザイナー)も、新しさと強さの2点はすごく大切にしているようでした。

WWD:会社員として働く傍らで、作品作りをするようになったきっかけは?

門倉:僕はバリバリの技術系で入ったわけではなかったので、テキスタイルの柄を描いたり、アクセサリーやヘッドピースを作ったりもしていたんです。その経験を通じて、徐々に自分でも作品を作ってみるようになりました。

WWD:独立したのは、創作に専念するため?

門倉:そうですね。なんとか両立できないかと試行錯誤してきたのですが、作品を作り始めて3年くらい経った頃に、やっぱり難しいなと独立を決めました。「コム デ ギャルソン」の仕事も本当に好きだったので、今でも服を作りたい気持ちはあります。

プリキュアたちをかわいく飾ってあげたい

WWD:“プリキュアネックレス”はどのように誕生した?

門倉:「コム デ ギャルソン」のコレクションでおもちゃを取り入れることになり、候補をピックアップしていく中で僕が興味を持ったのが「プリキュア」シリーズでした。その時、勉強のつもりで見始めたら虜になってしまったんです。

 僕は以前、人のことをほとんど考えていなかったんです。全て自分の世界で完結していたから、ありがとうを言おうとか、他人の気持ちを考えようとか、知識としては知っていたけど、その意味まで理解していなかった。でも「プリキュア」シリーズを見て、他者にも感情があるということに初めて気がついたんです。その気づきを忘れないために、ネックレスを作り始めました。“プリキュアネックレス”は「コム デ ギャルソン」での仕事と、自分の気持ちが混ざり合ってできています。

WWD:そんな“プリキュアネックレス”には、どんなこだわりを盛り込んでいる?

門倉:どこの国にも、背負える祭壇や頭に乗せられる祭壇と、ウエアラブルな宗教モチーフはたくさんあるんですよ。そういうものを参考に、装飾を盛り込んでシンメトリーに配置しています。

 ただ、僕はあくまでもプリキュアたちをかわいく装飾してあげたいという気持ちで作っているので、パーツはそれに相応しいものを選ぶようにしていますね。あと、全て結束バンドで固定しています。接着剤を使うとただの塊のように見えてグロさが際立ってしまうんですよね。手間がかかるので、作れても年に1つか2つが限界ですね。

自分が担っているのは“脅かし役”かもしれない

WWD:独立以降はドローイング作品も多く発表している。

門倉:“プリキュアネックレス”は自分のために作っているのに対して、絵は他者に向けた作品として描くこともあります。絵は美術大学を受験するために予備校でデッサンを勉強したくらいだし、僕はそんなに上手くなかった。描いた絵を人に見せるのは未だに恥ずかしいけど、描くのは好きです。

WWD:絵で表現したいことは?

門倉:われわれがいる世界に穴が開いていたとして、その向こうの知らない世界から美しいものとはまた違う、びっくりするようなものが出てきてほしいんです。以前、創作を続ける目的について考えていたら、来訪神の存在意義を通して少し分かった気がしたんです。広く知られている来訪神の一つがナマハゲで、冬至のお祭りに合わせて異界からやってきて、年に一度僕たちの日常をかき乱して帰っていきますよね。

 その感覚はファッションショーにも通ずるなと気付きました。年に2回だけ幕が開いて、その日だけあの世とこの世の境目がなくなる。そしてモデルたちが美しいのかもよく分からない異様な服をまとって歩き、観客はびっくりしたり、混乱したり。もしかしたら自分が担っているのは、この“脅かし役”かもしれないと気付いて、それから迷いがなくなっていきました。服から離れて絵を描いている今も、その精神は大切にしています。

WWD:個展名「どれもそれぞれに可愛くて一番は決められない」の意味は?

門倉:絵と“プリキュアネックレス”を並べることはこれまであまりなかったので、一緒に出す意味を考えた結果「どれもそれぞれに可愛くて一番は決められない」というタイトルをつけました。

WWD:今後の目標は?

門倉:「プリキュア」シリーズが放映され続ける限り新しいキャラクターがどんどん出てきます。全員分のネックレスを作り、最終的には自分の棺桶に入れたい。“プリキュアネックレス”は大きければ大きいほど、重ければ重いほどいいから、既存のものもボリュームアップしていきたいですね。あと、もっといい絵が描けるようになりたいです。

■どれもそれぞれに可愛くて一番は決められない
会期:〜8月21日(日)
場所:WISH LESS gallery
所在地:東京都北区田端5-12-10

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