百貨店による富裕層の争奪戦が激しさを増している。中間層の百貨店離れに歯止めがかからず、さらにコロナの長期化よって訪日外国人の戻りが遅れる中、安定した収益を稼ぐ外商ビジネスの重要性は相対的に高まるばかり。外商は日本の百貨店独自のユニークなビジネスモデルで、富裕層の分厚い顧客基盤は他の小売業やECプラットフォームがうらやむ存在だ。その財産を今の時代に合わせて進化させることが、百貨店の生き残りのカギになる。(この記事はWWDジャパン2022年8月22日号からの抜粋です)
三越日本橋本店で8月17日に始まった催事「三越ワールドウォッチフェア」。「ロレックス」「ブレゲ」「ウブロ」「パテックフィリップ」「ヴァシュロン・コンスタンタン」など数百万円から数千万円の希少なモデルが勢ぞろいし、全国から時計ファンが押し寄せる。昨年の開催では前年比1.5倍の12億円を売り上げ、過去最高を記録した。
初日に担当の山本愛理バイヤーに聞くと、今回も過去最高額を大きく更新するだろうという。「すでに外商のお客さまの事前商談で1億円を超える時計の注文をいただいた。1〜7月の時計売り場の売り上げも(前年同月比)1.5倍で推移しており、お客さまの購入意欲をひしひしと感じる」。
富裕層133万世帯に狙い定める
三越伊勢丹ホールディングスは、昨年春に就任した細谷敏幸社長のもと、外商の改革に取り組んできた。今年4月には、個人と法人、店舗などで分かれていた外商組織を統合した。顧客から吸い上げた声をデータとして共有することで、属人的な商売から脱却する。外商スタッフだけでなく、専門的な商品知識を持つバイヤーも外商に組み込み、チームとして顧客の満足度を高める。
外商を強化するのは富裕層が増えているからだ。日本人の所得が30年も横ばいで、所得が伸びた他の先進国に比べて貧しくなったことが、たびたび話題になっている。一方で純金融資産1億円以上を保有する富裕層の世帯数は、2009年の約85万世帯に対し、19年には133万世帯に増えた。その純金融資産の合計は333兆円に積み上がった。
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