「売らない店、売ります」。体験型ストアの「ベータ(b8ta)」を運営するベータ・ジャパン(北川卓司社長)は、体験型ストア運営のためのソフト面、ハード面の仕組みを販売し、出店支援を行う「バイ・ベータ」事業をスタートした。8月から、まずは「ベータ」が“テスター”と呼ぶ店頭スタッフを育成するためのトレーニングプログラムを販売。店頭での客の行動データを分析するシステムや、可動型の什器、店舗デザインなども今後販売していき、「2022年中には、『バイ・ベータ』の店をオープンしたい」(北川社長)という。
「ベータ」は20年8月に東京・有楽町、新宿に2店舗同時オープンし、21年11月に渋谷、22年4月に埼玉の越谷イオンレイクタウンにも出店している。また、今年は8月から10月にかけて、大阪、福岡、名古屋でポップアップストアも実施する(大阪は実施済み)。ただし、「今後、国内で何十店も自分たちで出店・運営していけるかというとそれは難しい。日本上陸時から、自社での店舗展開と共に体験型ストアの仕組みを販売していくことを目標にしていた」と北川社長は話す。
8月8日に販売開始した“テスター”のトレーニングプログラムは、講師1人を派遣して2日間の研修を行う。対象人数10人までで100万円前後といった料金設定だ。「一般的な販売員は売ることを目的にしているが、“テスター”は売ることが主目的ではなく、お客さまとのコミュニケーションの中で、さまざまなニーズを聞き出すことが仕事。このマインドセットを変えることが実は難しく、そのためのトレーニングをする」のだという。
発売以降、トレーニングプログラムには既に不動産デベロッパーなど10社程度から引き合いがある。デベロッパー各社は、自社物件内で将来的に「バイ・ベータ」を利用した体験型ストアの開設を目指している。D2C型のブランドが増えており、ポップアップ(催事)スペースを持つデベロッパーは多いが、その運営に「ベータ」の仕組みを活用しようという狙いだ。
銀行やカーディーラーも注目
デベロッパーのほかに、銀行やカーディーラーなどの異業種が興味を示すケースもあるという。銀行は窓口閉鎖に伴って店舗の転用が求められており、カーディーラーは「車を買おう」とは思っていない客をいかに引き込むかが課題。その解決策として、コーナー展開を含む体験型ストアの運営に注目が集まっている。また、本屋や飲食店からも問い合わせがあったという。
「体験型ストアを始めるための初期投資を抑えることができれば、『バイ・ベータ』事業に興味を持つ企業はさらに増える」として、ベータ・ジャパンとしてさまざまな工夫を盛り込んでいる。例えば、「ベータ」では店舗の天井に何十台も取り付けたカメラによって客の行動データを追い、客がそれぞれの出展商品のブース前でどのような行動を取ったかというデータを、“テスター”が聞き出した客の声と共に出展企業にフィードバックしている。しかし、「カメラはそれ自体が高いし、一度天井に取り付けると位置を変えるのが難しい」ため、天井のカメラに代えて、各商品のブースに設置しているタブレットで客の行動データや属性を収集できる仕組みを現在開発中だ。また、オリジナルデザインのコンパクトな可動型什器も現在製作しており、今後販売やリースを行っていく。
20年の日本上陸以来、客の行動データを分析するためのシステムは米国の「ベータ」※が開発したものを使ってきたが、「バイ・ベータ」事業立ち上げに伴い、日本向けのシステムを新たに構築している。「以前のシステムは前提として英語表記だった。UI/UXもより日本向けに使いやすいように変える」ことが目的だ。
※「ベータ」は15年に米サンフランシスコでオープンし、最盛期は米国で20店以上を運営していたが、コロナ禍による客数減から22年2月に米国内の全店を閉鎖している。日本事業は21年12月に米国から独立している。
これら「バイ・ベータ」の仕組みを活用すれば、「(店舗とする物件やスペースが既にあるならば)数百万円で体験型ストアをスタートすることができる」とアピールする。将来的には、ベータ・ジャパンとしての直営店舗運営と、「バイ・ベータ」事業の売り上げを「2対8にしていく」考え。新店出店やポップアップストアの運営、「バイ・ベータ」事業立ち上げのために、ベータ・ジャパンは今春に累計6億円の資金調達も実施している。