ファッション
連載 東京・コレクション

yutoriが手掛ける「ゲンザイ」が東コレに参戦 次世代アパレルがショーに挑む真意

 yutoriが運営するファッションブランド「ゲンザイ(GENZAI)」が、2023年春夏シーズンの「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で初のランウエイショーを行った。同ブランドは、アートディレクターの永戸鉄也をデザイナーに起用して2021年に設立し、EC直販のビジネスモデルで運営する。アイテムは主にTシャツやフーディーなどにグラフィックや刺しゅうを施したストリートウエアで、顧客は10〜20代の若年層が中心だ。

 ファッションショーは、コレクション発表の舞台であると同時にビジネスの場でもある。卸売がメインのブランドの場合、バイヤーやジャーナリストに世界観を伝えて、ビジネスにつなげるのも大きな目的だ。ECやポップアップが軸の「ゲンザイ」にとってのメリットとは何か。片石貴展yutori社長は、「ショーは、ファッションのド真ん中の表現。王道ではなく外からファッションに入った僕にとって、こういうアプローチもできることが示したかった。デザイナーの永戸さんや、演出の山田健人さんをはじめ、携わる人もプロフェッショナル。会社を立ち上げて5年が経ち、そんなプロとも一緒に仕事ができるようになった。僕らの現在地点を、業界内外に知ってもらえたらうれしい」。

 コレクションテーマは“ディストピア”。「すでに社会はディストピアだ。そう思うと、どこか気が楽になりませんか?」と永戸デザイナー。リリースは、旧約聖書で描かれるレンガ作りの高い塔“バベルの塔”に言及していた。「人類は空高く、神の領域まで届かんとする塔を建設するも、神の怒りに触れ、塔は破壊された。(中略)人々はそれ以来、共通の言語を失い、広い世界の中で散り散りになっていった。ユートピアからディストピアへ、大きな変容を迎えたのだ」。

ディストピアへの変貌を
100人の群衆で表現

 会場の代々木第2体育館に爆音が流れると、ラッパーのHIDEYOSHIが現れ、パフォーマンスが始まった。同氏がこのショーのために制作したオリジナル楽曲だ。途中でモデルが四方から入場し、HIDEYOSHIの周りを取り囲む。モデルは規律を守るように、円の形を崩さない。共通の言語を持ち、意思疎通していたユートピアの人類を表現しているのだろうか。しばらくするとグレーのウエアを着た約100人のダンサーが乱入し、会場全体を動き回り始めた。目線も合わせず、バラバラに動くその姿は、世界がディストピアへと変わり、コミュニケーションがとれなくなった群衆のようだった。

 エンドユーザーも巻き込むため、SNSでは臨場感あるカメラワークでショーの様子を発信した。会場には、業界関係者に加えて、抽選で選ばれた一般客100人も来場。ショー直後には、コレクションアイテムも扱うポップアップショップも開いた。

初の舞台でも変わらないリアルクローズ

 ウエアは、ベーシックなストリートウエアが中心だ。ド派手なコレクションピースも登場するかと思っていたが、「ショーというよりは、普段のブランドの延長にあるプレゼンテーションにしたかった」と永戸デザイナー。オールドイングリッシュの字体が特徴の“GENZAI”の刺しゅうや“G”のモノグラムといったアイコンを、オーバーサイズのブルゾンやフーディー、カバーオールなどに落とし込んだ。バベルの塔をリファレンスにしたグラフィックもあった。クリエイションの新たな可能性も示すため、バナナフーディーやボンテージジップなど、いつもよりディテールを盛ったアイテムも用意した。

 片石社長は、「今後もECメインだが、面白い取り組みがあれば、新たなチャレンジもゼロではない」と語った。ブランドを初めてまだ1年半。ビジネスの発展はもちろん、表現のさらなる進化にも期待したい。

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