ファッションアイコンとしての地位を着実に高めてきたK-POPアイドルグループ、ブラックピンク(BLACKPINK)。8月19日に2年ぶりとなる新曲「Pink Venom」をリリースしたほか、9月中旬には同曲を収録したアルバム「Born Pink」の発表とそれを引っ提げて行うワールドツアーが控えている。
数多くのK-POPスターが存在する中、ブラックピンクはファッションで自分たちの魅力をうまく引き出し、スタイリッシュなイメージと彼女たちらしい美しさを放っていると評価されている。また裏側のストーリーなどを動画で見せることで、初々しく親しみやすい側面も発信。このギャップが、“ブリンクス(Blinks)”と呼ばれるファンを虜にする要因の1つと言われている。
熱狂的なファンを持つメンバーのジェニー(JENNIE)、リサ(LISA)、ジス(JISOO)、ロゼ(ROSE)の4人は、それぞれがファッション業界に大きな影響力を持つ。例えばジェニーがネットフリックス(NETFLIX)のドキュメンタリーで着用したセーターは、「5回増産した」と同アイテムを手掛けるハン・チョン(Han Chong)「セルフ-ポートレート(SELF-PORTRAIT)」創業者は語る。
同様に、ジェニーとロゼのスタイリングをよく担当する英国を拠点とするデザイナーのミミ・ウェード(Mimi Wade)は、「その影響力は本当にすごいものだ。ブラックピンクのファンからたくさんのメッセージやファンアート、コラージュをもらうし、投稿のリポストもしてくれる。ファッションへのインパクトは大きいし、彼女らをインスピレーションにする人も多い」と語る。実際、メンバーの着用アイテムは増産がかかることがほとんどだという。
デビューして6年を迎えるブラックピンクだが、メンバーはそれぞれジュエリーやビューティ、ファッションブランドなどと関わりを持つ。インスタグラムでグループ最多である8100万のフォロワーを持つリサは「セリーヌ(CELINE)」と「ブルガリ(BVLGARI)」、ジェニーは「シャネル(CHANEL)」と韓国発のアイウエアブランド「ジェントルモンスター(GENTLE MONSTER)」、ジスは「ディオール(DIOR)」、ロゼは「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)」と「ティファニー(TIFFANY & CO.)」とそれぞれ契約を結んでおり、アンバサダーなどを務めている。
ロゼをグローバルアンバサダーに任命した「ティファニー」は22年3月、同氏を“ハードウエア”キャンペーンに起用。ロンドンでイベントを開催したほか、リノベーション中の8階建ての旗艦店に彼女が出演するビルボード広告を掲げるなど、ロゼとのパートナーシップを大いに生かしている。
アレクサンドル・アルノー(Alexandre Arnault)=ティファニー プロダクトおよびコミュニケーション部門エグゼクティブ・バイス・プレジデントは、「ブラックピンクは世界的な人気を獲得しており、影響力も大きい。K-POPや韓流ドラマのグローバルな流行はめざましく、今後も世界のトレンドをけん引していくだろう。ロゼは、ファンと誠実かつパーソナルにコミュニケーションする能力に長けており、『ティファニー』ブランドやそのコレクションを彼女のファンベースに広めてくれた。2年間のパートナーシップを通じて世界中の新しいオーディエンスにリーチすることができたし、今後もロゼとの関係を継続することを楽しみにしている」と語った。
ブラックピンクが所属するYGエンターテインメントは、韓国有数の大手芸能事務所の1つ。あるラグジュアリーアクセサリーブランドが19年に米「WWD」に明かした話によれば、ジェニーとコラボする際のギャランティーは100万〜150万ドル(約1億3800万〜2億円)だそうだが、これはブラックピンクの人気が爆発する前のことだ。
膨大な金額だが、ブランドのPRやプロモーションに関する投資効果や、ファッションショーや新商品の発表などのイベントなどで発生するメディア効果を表すメディア・インパクト・バリュー(Media Impact Value以下、MIV)の数値化などを行うデータテクノロジー企業ローンチメトリックス(LAUNCHMETRICS)によると、それだけつぎ込む価値が見られる。
ローンチメトリックスによればジェニーが22年3月、「シャネル」のショーに登場した際のMIVは、360万ドル(約4億9000万円)と計測されている。ほかにも、同月にジスが「ディオール」のコレクション発表に足を運んでインスタグラムにその様子を載せた時は、その投稿だけでMIVは174万ドル(約2億4000万円)を記録。リサが6月、「セリーヌ(CELINE)」のフロントローに着席した時はSNSで大きなバズを生み出した。
ブラックピンクのスタイリストを18年まで務めたのは、チェ・ギョンウォン(Choi Kyoung Won)。日本でのツアーを控える中、同年に米「WWD」のインタビューを受けている。その中で同氏は、「グループ発足当初から、YGはブラックピンクをほかのグループとは全く違った雰囲気で打ち出そうと決めていた。通常は新しいグループに対して大きな予算を組むことは少ないが、ブラックピンクに対しては融通を利かせてくれたし、スタイリングのために全面的に支援してくれた」と話す。
「K-POPや韓国ドラマは非常に大きな影響力を持っている。韓国はトレンドの力も大きいので、著名人が着用したブランドやアイテムはすぐに大流行するし、社会現象になることもある」と続けた。例えば、ジェニーが空港や自宅で「メゾン キツネ(MAISON KITSUNE)」を着用した写真が公開された際には、アジア全体に渡るブランド知名度の押し上げに貢献したという。
黒木理也とともに同ブランドを手掛けるジルダ・ロアエック(Gildas Loaec)は、「ジェニーによって、“雪玉効果”が生まれた。着用して以来ほかのK-POPアーティストらがブランドのアイテムを着始め、韓国ドラマでも衣装として使用されるようになった。日本を含め、アジアの各国で人気を集める韓国ドラマでの着用は大きな影響力があった」と語る。
18年に「DDU-DU DDU-DU」でヒットを記録して以来は、YGエンターテインメント専属スタイリストのパク・ミンヒ(Park Min-hee)がグループのスタイリングを手掛けきた。空港でのパパラッチ写真から雑誌の表紙まで、事務所の許可が必要な場面では、同氏がメンバーのファッションを全て管轄していると見られている。
ブラックピンクのスタイルは、ラグジュアリーでトレンド感のあるものから、新鋭的なスタイル、ストリートまで、さまざまな要素をミックスしている。リリースする曲に合うよう加減がうまく計算されており、ポップな曲にはキュートな衣装を、ハードなダンス曲にはエッジーなものを着用する。
多くのアーティストとは異なり、ブラックピンクはブランドや店舗から衣装を買い取っていると言われている。体に合うようサイズや丈の仕立て直しに加えて、踊りやすいようにするためにインナーを直接縫い付けるなど、それぞれのルックのために調整が加えられているという。
新曲「Pink Venom」のミュージックビデオでは、衣装に「ミュグレー(MUGLER)」を選択した。17年の就任以来、アーティストのルックや戦略的コラボレーションを通してブランドの再建に尽力してきたケーシー・カドウォールダー(Casey Cadwallader)=「ミュグレー」ウィメンズ・アーティスティック・ディレクターは、「これほど大きなパワーを感じるグループは見たことがない。ファンはエネルギーに溢れているし、とても忠実。マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)より知名度があるのではないかと感じるくらいだ。ブランドにとっても大きな影響力があり、彼女たちの着用アイテムのほとんどはすぐに売り切れる」と語った。