女性向けセルフケアブランド「レイ(WRAY)」を運営するレイはこのほど、第三者割当増資および金融機関からの融資により、総額1億4000万円の資金調達を実施した。引受先は、キリンホールディングスとグローバル・ブレインが共同運営する「キリン ヘルス イノベーションファンド(KIRIN HEALTH INNOVATION FUND)」と、マネーフォワードベンチャーパートナーズが運営する「ヒラクファンド(HIRAC FUND)」。
ゴールドマン・サックスやメリルリンチ日本証券といった外資金融企業やマーケティング会社でキャリアを積んだ谷内侑希子レイ代表は、自身もキャリアを形成する時期に生理不順や妊活、PMSなどを経験し、「女性が体の変化に振り回されずパフォーマンスを発揮できるよう、女性特有の悩みに対するケアを身近なものにしたい」という思いの下、2020年に同ブランドをスタートした。日本のフェムテック分野におけるパイオニア企業の一社としての使命感を持ち女性のニーズに寄り添う谷内代表に、今後のビジョンを聞いた。
WWD:ブランド立ち上げから2年をどう振り返る?
谷内侑希子レイ代表(以下、谷内):コロナ禍でスタートしたこともあり、楽な立ち上げではなかったが、ちょうど「フェムテック」というキーワードが世間的に注目され始めた時期と重なり、良い波に乗れたと思う。コロナ禍で健康意識が高まり、自宅で過ごす時間が増えたことも相まって、幅広い年代の女性の間で自分の体やケア方法についての知識欲が高まっていると感じる。ブランドとして発信を続け、フェムテック関連の話題をオープンに語れる風潮を作ってきた一員としての自負もある。お客さまの中には、「SNSで見たから」「パッケージがかわいいから」といった理由で「レイ」の商品を手に取ってくれる人も多い。セルフケアにトライしてみたいと思う人たちの心理的なハードルを下げ、効果を感じた方が顧客として定着してくれている。ユーザーと一緒に成長できた2年間だった。
WWD:新たなプレーヤーが続々と増える中で、あらためて「レイ」のポジションは?
谷内:カテゴリーを絞らずに商品展開してきたことが差別化につながった。サプリメントと美容液、100%シルク製の腹巻の3点でデビューしたが、現在はインナーケア、セルフケア、ライフスタイル、スキンケアのカテゴリーで13点に増やした。何か一つに効果を感じた人が、「これも買ってみようかな」と複数商品を購入してくださるケースも多く、ライフスタイルブランドとしてのポジションが確立できていると思う。
WWD:商品開発の軸は?
谷内:お客さまの中から立候補してくださった人と商品開発をしたり、「こんな商品があったらどうですか?」とヒアリングをしたりして、全てお客さまと共に作る姿勢を大切にしている。お客さまとの距離がとても近いことが強みとなり、結果として確度の高い商品開発ができている。経済合理性だけを優先させず、ブランドの世界観に貢献するものやお客さまが求めるものに丁寧に答えるようにしている。
WWD:これまで特にヒットした商品は?
谷内:去年秋に発売した5本指ソックスが、1万足以上売れた。5本指が外から見えないようになっていて、セルフケアとして5本指ソックスを履きたいけど、おしゃれも妥協したくないというお客さまのニーズを酌み取って開発した事例だ。
WWD:ヒアリングする中で、意外なニーズもあった?
谷内:今後のビジョンにつながる話だが、お客さまからは商品情報だけでなくウエルネスやキャリアに関する情報発信も求められていることが分かった。女性のキャリアとウエルネスは切り離せない。ブランド立ち上げ当初から重視していた点だが、今後は自社ECサイトを通じてさらにキャリアとウエルネスを掛け合わせたコンテンツを増やしていく。
女性同士が悩みを共有できるコミュニティーを設計
WWD:今回の資金調達の具体的な使途は?
谷内:キリンホールディングスは、特に顧客とのつながりが強い点を評価してくれており、そこを生かしてお客さま同士が情報共有をできるコミュニティーを作る予定だ。例えばお客さまからは、同僚やパートナーには話せないが、誰か近い境遇の人に転職の相談をしたいといった声が多い。すでに小さいコミュニティーでテストしてみたら、生理や妊活、不妊治療、夫婦関係、教育、働くママの効率的な時間の使い方までいろいろな話題が出てきて、すごく盛り上がった。現在コミュニティーサイトを設計中で、年内にはオープン予定だ。有料コンテンツにし、ユーザー同士がチャットできる機能を持たせたり、オフ会、セミナー、ヨガ教室などのウエルネスイベントを実施したりしていく計画だ。そのほかの使い道としては、ポップアップイベントの開催や生理トラッキングアプリのアップデートも予定している。また、キリンホールディングスからは企業向けの福利厚生事業やサービスなどに対してもアドバイスをもらっていく。
WWD:現在は、自社ECのほかユナイテッドアローズなどのセレクトショップなどに商品を卸しているが、販路をどのように広げる?
谷内:フェムテックの専門コーナーを設けている店も増えてきたので、専門店を中心に販路を拡大する。
WWD:今後、フェムテック市場がさらに盛り上がっていくためには何が必要だと考える?
谷内:「レイ」はこれまで自分の体について考えるための入り口を作ってきた。自分の体についての話題をオープンに話せるようなフェーズに社会が変わってきた今だからこそ、さらに踏み込んだ会話ができる場が必要だと思う。生理の話をし始めると、妊活や転職といったパーソナルな話題にもつながっていく。フェムテックの黎明期のメンバーを筆頭に、もっと踏み込んでニーズを探り次のステージを作ることが重要。フェムテックの分野は特に小さなスタートアップから始まったムーブメントで、今後もメディアやほかのスタートアップと連携して、一歩踏み込んだ会話ができる日本の空気感を醸成していきたい。