夜の7時過ぎに日が落ちると、ニューヨークは一気にロマンチックになる。「マルニ(MARNI)」がニューヨーク初となるコレクションを発表するために選んだのは、ブルックリンのダンボ地区だ。インビテーションには建物ではなく、ストリートの名前だけを記載。会場は、ブルックリン・ブリッジのたもとだった。この時期のNYの夜を照らすワールドトレードセンターからのライティングも演出のよう。ランウエイの両脇には、統一したユニホームに身を包んだオーケストラがスタンバイ。荘厳かつドラマチックな雰囲気で、一瞬「ここはイタリア?オペラの上映が始まるの?」という錯覚にとらわれるスタートだ。
静寂をやぶった最初のルックは、「マルニ」らしい色鮮やかなオレンジやレッド。そのあともイエローなど、ビビットなカラーラインナップが続く。いずれも「もう一枚の皮膚」のようにピッタリと体のラインや骨格を強調する。日本の“ボディコン”はワンレンのヘアスタイルとセットのようなイメージがあるから、「ネオ・ボディコンシャス」とでも呼ぶべきだろうか?「ネオ」と言いたくなるのはメンズ/ウィメンズに分かれず、モデルのジェンダーも男性や女性だけにカテゴライズされず、個々人のボディを尊重する崇高さがあるから。ニーマン・マーカス(NEIMAN MARCUS)とバーグドルフ・グッドマン(BERGDORF GOODMAN)のブルース・パスク(Bruce Pask)ファッション・ディレクターは、「モデルのキャスティングが素晴らしかった。その人が男性なのか、女性なのか、はたまたトランスジェンダーなのかはわからないからこそ、ルックとボディラインが際立った」と感想を述べた。
多様性が進むアメリカは、ボディー・ポジティブのマインドにおいても先進国だ。マスキュリンでハンサムなボディの女性もいれば、筋肉質なのにカーヴィー(曲線的)なボディの男性もいる。それぞれが違って、だからそれぞれが美しい。そして自分のボディを知れば、ファッションはもっともっと楽しくなる。「マルニ」は美意識を総動員して、ジェンダーの垣根をエキサイティングに超えた。