ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。ロシアによるウクライナ侵攻によって、カントリーリスクの深刻さがあらわになった。冷戦終了後に加速したグローバル経済は曲がり角を迎えており、それはファッションビジネスにも戦略の変更を促す。詳しく解説しよう。
ウクライナ戦争は双方の全力消耗戦となって長期化し、西欧側の経済制裁とロシア側の資源制裁でどちらの経済活動も冷え込んで脱化石燃料どころではない状況となっているが、もとより脱化石燃料は西欧側の仕掛けた既存インフラ全面償却という世紀の大謀略であり、OPEC(石油輸出国機構)+ロシアを締めつけるものだった。
リープフロッグ謀略がパラドックスに
もとより二酸化炭素を元凶とする地球温暖化説は、西欧消費国が化石燃料文明の既存インフラを全面償却してクリーンエネルギー文明を構築する巨額投資を仕掛けた世紀のリープフロッグ※1.大謀略であり、化石燃料輸出に依存するOPECやロシアを締め付ける経済戦の性格も強く、いずれ彼らの反撃は避けられなかった。ロシアのウクライナ侵略の背景はEU圏(ひいてはNATO)の東進による軍事的圧迫に加え、西欧側が仕掛けた脱化石燃料謀略への危機感もあったと思われる。
産業革命以来のインフラ蓄積の厚い西欧消費国は第二次大戦からの復興が終わって以降、BRICsのようなリープフロッグ現象が期待できず、戦争に代わる大規模な有効需要政策を必要としていた。2008年のリーマンショックに対策して西欧各国の中央銀行が大量供給した低金利資金も西欧消費国の投資機会が限られ、大半がBRICsに流れて中国やインド、ロシアの急成長をもたらし、習近平とプーチンの独裁的権力獲得に貢献した。今日の冷戦復活の種をまいたのは西欧諸国であり、今や負の収穫を強いられている。
地球温暖化説※2.も二酸化炭素元凶説も科学的裏づけの怪しいプロパガンダに過ぎず気候学者や地質学者の多くは疑念を呈しているが、行き詰まった西欧文明を既存インフラの強制償却によって再生せんとする利害の一致した大謀略を否定するメリットもなく、トヨタ自動車など冷静な知性の声もポピュリズムの大合唱にかき消されようとしている。
ウクライナ戦争は西欧諸国(NATO)の代理戦争と化して長引く総力消耗戦となり、化石燃料と火薬の大量使用で二酸化炭素が爆発的に発生し、兵器の消耗とインフラの破壊で巨大な有効需要が生まれ、脱化石燃料の謀略がなくても経済が活性化し資金が有効活用される状況となったが、これでは化石燃料供給側を利するばかりで西欧のリープフロッグ化は頓挫しかねない。戦場の勝ち負けはともかく、経済戦が長引くと西欧(資源消費)側の犠牲が大きく、プーチン(資源供給)側が有利になるという見方も強まっている。
西欧側は償却するはずの化石燃料インフラに頼るか原発に頼るかの選択を迫られ(日本も同様)、脱化石燃料のリープフロッグ謀略はパラドックスと化した感がある。持続可能なより良い世界を志向するSDGsの理念には共感するが、脱化石燃料は現実を見て資源国側も共に歩めるステップを踏むべきだ。ならば東西冷戦も破滅的終焉を避けられるのではないか。
※1.リープフロッグ…カエル跳び現象。インフラ蓄積の薄い新興国の方が技術革新による設備投資が早く加速度的にインフラ更新が進むこと。固定電話網の普及以前に携帯電話が普及したり、ATMの普及以前にスマホのネット決済が普及したりした中国の事例が引き合いに出されることが多い
※2.地球温暖化説…時間の物差し次第で逆(寒冷化)とも取れる未検証な説で千年単位では明らかに寒冷化しており、二酸化炭素元凶説も産業革命以降ではなく8000年前の焼畑農耕に発すると見る学者も多い
止まらぬインフレと顕在化したカントリーリスク
ウクライナ戦争で東西冷戦が復活して33年続いたグローバル化から東西分断に逆転し、グローバル化の恩恵だったコストダウンと市場拡大が急激なコストインフレと市場縮小に転じ、カントリーリスクも一気に顕在化した。そんな歴史的反転劇に直面してファッションビジネスはどう動くべきなのか。
まず、「喉元過ぎれば」を期待してはいけない。33年ぶりの歴史的反転なのだから後戻りはなく、新たな環境は相応の期間続くと覚悟するべきだ。
サプライチェーンのリスクカントリー回避や国内回帰は不可避だが、価格ポジションで選択は異なる。NB(ナショナルブランド)プライス以上で勝負するなら生産ラインに密着する企画・開発力(必然的に国内など生産地が近くなる)とSNS駆使の顧客交流は必須で、低販管費率のD2C体制(工場直出荷でEC倉庫に在庫を積まない)が問われる。低価格を志向するなら生産地がさらに遠隔化してリードタイムが長くなり、継続性の定番MDはともかくファストなトレンドMDには無理がある。
リードタイムを短縮してリスクとコストを回避するにはリスクカントリーの内側に入るしかないが、リスクカントリー内では投資を回収できなくても販売カントリー内で回収できれば良いと割り切るべきだ。販売サイトの運営と代金回収は消費国で行う一方、商品は生産国から消費地の顧客に郵便小包で直送する越境ECを想起すればよい。DXを駆使した小ロット高速反復生産による実質無在庫販売はともかく、先進消費国の個人輸入(越境EC)における関税や消費税の減免に商機を見出したSHEINのビジネスモデルは結構、普遍的なものだと思う(リスクカントリーの通商政策は一方通行だから逆は成り立たない)。
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