パタゴニア(PATAGONIA)は9月14日(アメリカ・ベンチュラ時間)、創業者のイヴォン・シュイナード(Yvon Chouinard、83歳)が同社を手放したと発表した。シュイナード一族は、所有する株式を新たに設立した2つの事業体、パタゴニア・パーパス・トラスト(PATAGONIA PURPOSE TRUST)とNPO団体ホールドファスト・コレクティブ(HOLDFAST COLLECTIVE)に譲渡した。これにより、パタゴニアの事業に再投資されない資金の全てが地球を守るために配当金として支払われることになる。
パタゴニア・パーパス・トラストは、パタゴニアの全ての議決権付株式(全株式の2%)を保有する。同信託はパタゴニアの価値やミッション“故郷である地球を救うためにビジネスを営む”を守ることだけを目的に設立され、取締役会構成員や会社定款(ミッションなどを含む)の変更など、会社の重要な決定を承認する権限を持つ。「営利企業として資本主義が地球の役に立つことを証明する」というパタゴニアが最善を尽くして継続すべきことを推進する。
ホールドファスト・コレクティブは全ての無議決権株式(全株式の98%)を保有する。資金は毎年1億ドル(約142億円)程度、パタゴニアが事業に再投資しなかった余剰利益を配当金として分配し、自然や生物多様性の保護、コミュニティーのサポートなどを行う。
経営陣は変わらず、ライアン・ジェラート(Ryan Gellert)最高経営責任者(CEO)が引き続き務め、取締役もシュイナード一家、クリス・トンプキンス(Kristine McDivitt Tompkins)、ダン・エメット(Dan Emmett)、アヤナ・エリザベス・ジョンソン博士(Dr. Ayana Elizabeth Johnson)、チャールズ・コン(Charles Conn)取締役会議長が継続する。シュイナード家はパタゴニア・パーパス・トラストを指導し、パタゴニアの取締役会の選出と監督を行う。またホールドファスト・コレクティブによる慈善活動も指導する。今後もBコーポレーション(社会や環境への配慮、透明性、説明責任、持続可能性において企業のパフォーマンスを評価した国際的な認証制度)として、毎年売り上げの1%を草の根活動家に寄付する。
現在83歳のシュイナード創業者は「“責任あるビジネス”の実験を始めてから半世紀が経った。この先50年の地球の繁栄を願うなら、私たち全員が今あるリソースでできることを全て行うことが不可欠だ。私は、ビジネスリーダーになりたいと思ったことはないが、私はこの役割でなすべきことを行っている。自然から価値あるものを収奪して富に変えるのではなく、パタゴニアが生み出した富をその源を守るために使う。地球を唯一の株主とするのだ。私は真剣だ。この地球を守る」とコメントを発表した。
ゲラードCEOは「2年前、シュイナード一族は私たち数人に、大きな2つの目標に取り組む新たな組織形態を構築するという課題を提示した。事業の目的を守ることと、環境危機と戦うためのより多くの資金を即時かつ永久的に提供できることの両方を叶える組織の開発だ。私たちは、この新しい組織がその両方を実現し、人と地球を第一に考えた新しいビジネスを営む新たな方法がさらに引き出されることを願っている」とコメントを発表した。
次の50年の幕開けは“株式公開”ではなく "目的達成"
パタゴニアは1973年創業で来年創業50年を迎える。シュイナード創業者は、クライミング用具を自分用や友人に作る職人から初めてアパレルに参入。世界中で温暖化や環境破壊が広がり、自分たちのビジネスが及ぼす影響を目の当たりにし、会社を活用してこれまでのビジネスの方法を変えることに取り組んできた。次の50年を見据えた今回の選択も「優れた選択肢がなかったから自分たちで作った」(シュイナード創業者)という。選択肢の一つは、パタゴニアを売却してその売却益を全て寄付することだったというが、彼らの価値観や世界中で雇用されている人材を維持してくれる新たなオーナーを見つけられるという確信はなかったという。
もう一つの選択肢は、会社の株式を公開することだったというが「とんでもない失敗になっただろう。どんな素晴らしい志のある公開会社でも短期的な利益を得るために長期的な活力や責任を犠牲にしなければならないという過剰なプレッシャーにさらされる」(シュイナード創業者)。「株式公開に進む(Going public)のではなく、目的に進む(Going purpose)」ことを選んだ。
シュイナード創業者は今回の選択の背景を伝える書簡をこう締めくくっている。「地球のリソースは莫大ではあるが、無限ではない。そして私たちはその限界を超えてしまっていることは明らかだ。しかし、まだ回復可能だ。私たちが最大限努力すれば地球を救うことができる」。