ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。コロナからの回復の遅れや急激な円安をはじめとしたコスト高騰など、ファッション産業を取り巻く環境は厳しさを増しているが、一方で別の動きも見えてきた。一体どういうことか説明しよう。
日頃はトレンドやクリエイションといったカルトに走りがちなファッション業界に対して、マーケットサイドとサプライサイドの両面の現実を直視した合理的な対応を提示しているが、どん底まで落ち込んだ業界が急激なコストインフレと14年ぶりというトレンドの大反転に直面する今は「ファッションの神様」に賭けてもよいと思う。
インフレと劇的円安に直撃されるアパレル業界
失われた20年の次にはリーマンショックに打ちのめされ、適者生存なき低金利資金供給でゾンビ企業を延命するアベノミクスで経済発展なき貧富差拡大という最悪の状況に追い込まれ、所得が伸びないまま少子高齢化と異次元緩和で悪化する財政を穴埋めせんとする増税と社会負担増で実質消費支出力は大きく目減りした(00〜20年で19%減)。すっかり貧乏になった国民の支出が必需の食料費や通信費に流れ、不要不急の衣料消費は年々減少していたところにコロナが襲い、20年の衣料消費は19年から8掛けに委縮して最盛期(91年)の43%まで激減してしまった。22年になっても回復は鈍く、消費総体はコロナ前の水準をほぼ回復したのに対し衣料消費は8月まで19年の85掛け前後で低迷していた。
どん底のアパレル業界を襲ったのがコロナからの消費回復にロシアによるウクライナ侵攻が加わっての原材料費や物流費の高騰と劇的な円安で、数量ベースで98%を占める輸入衣料は1〜7月で前年から17.6%も値上がりし、8月の輸入額は前年同月から22.9%もの円安で47.3%も押し上げられた。為替予約でヘッジしている比率が高い今年の秋冬物は防寒アウターなど一部の値上げに抑制できるとしても、来春夏物は30%に達するコスト高騰を吸収する術がなく、小売価格も10〜20%、上昇することが避けられない。
川中(製品製造段階)から川下(製品販売段階)まで業界内でどう高騰分を分担するか、力任せの押し付け合いや先を見たアライアンスで吸収を図ることになるのだろうが、消費者は10〜20%もの値上げをどう受け止めるのだろうか。燃料や公共料金、食品や日用品など削れない生活必需品が輸入インフレの直撃を受けて高騰しているのだから、不要不急の衣料品への支出を増やせるはずもなく、値上がりした分だけ購入数量を減らさざるを得ない。衣料消費全体はそうでも、ブランドやストアによって明暗は大きく分かれそうだ。
その背景となるのが14年ぶりというトレンドの大反転で、それに乗れるブランドやストアは値上げしても売り上げを伸ばすが、それに乗り損ねたブランドやストアは大きく売り上げを落とすことになる。
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